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第五章 秘伝と天使と悪魔
221 予想外の数でした
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応接室に落ち着いても、蓮次郎は様呼びが気になったらしい。
「そういえば、あっちで高耶くんは有名だよね。わざわざ日本語で『高耶様』って呼んでるって聞いたことあるよ」
「……」
そう。わざわざそう呼ぶ者が居るのだ。だから、最初は冗談だと思ったし、バカにされていると感じたものだ。
「それ、洗脳されてねえ?」
俊哉が逸見へ目を向けると、彼は苦笑した。
「そこまででは……ただ、私も移ったような……」
「ああ。あっちが真面目に『秘伝高耶様』って呼ぶからだね。移るぐらい言われてるんだ?」
「はい」
「……」
『秘伝高耶様』と『様』までが名になっているのではないかと思う。これのせいで、新人も様呼びをそのまま受け入れるのだ。
「まあ、精霊王と契約したっていうのは、あっちの人たちにしたら、神に近い位置付けになるからね。分からないでもないよ」
「そ、そうなのですか……なるほど。でしたら、分かります」
逸見は様呼びに納得したらしい。
ここで、俊哉が改めて気になっていたことを口にした。
「そういや、高耶の式って、全員がその王なのか?」
「……そうらしい……」
「黒の姐さんや勇者な兄さんも?」
「ああ……」
「へえ」
あまり言いたくないが、事実なので仕方がない。蓮次郎も居る手前、ここで偽るのは良くないだろうとの判断だ。
だが、これ以上はと高耶は、いづきに顔を向けた。本題に入ってもらわなくてはならない。
「それで、情報は」
そう切り出せば、いづきも表情を引き締めた。出してきたのは、タブレット端末。そこに、いくつかの鎧の部品の写真があった。
「こちらが、日本にある一覧です。残念ながら、どれがそうなのか確実とはいえませんが、型が同じであるものを集めました」
「拝見します」
一覧を一通り見て、高耶は自分の鞄からタブレット端末を取り出す。これは、連盟の方から支給されているものだ。
「該当の写真をこちらに移させていただいても?」
「はい。もちろんです」
操作して移していく。それらをファイルにまとめてから、蓮次郎へ見せた。
「銀と金でファイルを分けました。大和さんがお持ちだった物と、あちらで発見されていた物とも合わせてあります」
「うん……間違いないね。でも、やっぱりこれだと二つずつ? いや、三つってことになる? そうなると、まだ足りないよねえ」
そう。今回のも全て合わせると、金の鎧も銀の鎧も、三組ずつあることが分かった。いづきが持っていた該当の鎧の一部が、あちらの写真だと言われて見せられた物と、部品がダブっていたので、予想はしていた。だが、まさか三組だとは思わなかった。
「二組ならまだ……と思っていましたが、やはり三組ですよね……」
「だねえ。あ、それで、逸見さんが居るのは、もしかして……?」
「あ、はい!」
蓮次郎に視線を向けられ、逸見も端末を出した。
「大和さんに話を聞いて、以前から、嫌な感じのする物は別に記録するようにしていたので……」
「失礼しますね」
「どうぞっ」
蓮次郎よりも、逸見は高耶の方に緊張している様子。慌てて高耶に写真を表示したまま端末を差し出した。
「……こちらも、移させていただいても?」
「もちろんです! お好きにどうぞ!」
「ありがとうございます……」
なんだか、講習の時と大分違うなと思いながらも、高耶は素早くデータを移した。
同じようにファイルにまとめていく。その間にも、逸見に確認していた。
「こちらのそれぞれの所有者はお分かりになりますか?」
「あ……手帳と写真を撮った日付けを照らし合わせれば可能です」
「では、後日で構いませんので、照会をお願いします。書き出しますね」
「はい」
高耶の方のタブレットは蓮次郎に渡し、レポート用紙に逸見の写真を確認しながら、該当の写真の撮った日にちを書き出していく。
全部で七つだ。それほど多くなくて良かった。ただし、放置していては危険な物も中にはありそうだったので、それらを別に書き出した。
「この上のが鎧の物です。あと、下に書き出したのは、写真から見ても間違いなく良くないものですので、こちらも教えていただけますか? あちらへ報告しなくてはならないので」
「え、あ、は、はい! あの……今すぐやります」
ちょっと顔色が悪くなった。下の気になる物が意外にも多かった。あちらの人たちが様呼びして敬う高耶がまずいと思う物なのだ。ヤバいと思ったのだろう。
「お時間があるなら、頼みます」
「すぐに! 先輩、手伝ってください」
「いいよー。いづきさん、あっちの机借りるね」
「ええ。どうぞ」
いづきは許可を出しながら、端にあった紙の束を手に取る。
「私の方も照会しましょう」
「ありがとうございます」
しばらく高耶といづきで照会作業をした。いづきは、必要になると思って、あらかじめ資料をまとめてくれていたらしい。該当の物を抜き出すだけで良かった。
その間、蓮次郎は連盟の方に連絡を取っている。照会できたものから確認し、所有者へ連絡を入れていく必要があった。
一方、俊哉は高耶のタブレットを手に、なにやら弄っていた。
「う~んと。よし、これで確認しやすいだろう」
それを覗き込んだ勇一が感心する。
「そんな風に並べ替えられるんですね……」
写真が綺麗に部品ごとに並べ替えられていたのだ。色はわからないが、高耶がファイルで金と銀で分けていたので、そこは問題ない。
「おう。なあ、高耶。これ、まとめた。出力した方がやりやすくねえ?」
「ん? あ、ああ。そうだな。紙媒体の方がやりやすい」
「僕も、その方が助かるねえ。どうにも、こういうのは目がチカチカしちゃって」
「ほいよー。瀬良のじいちゃん、印刷機ある? パソコンに繋げてるやつでもいいけど」
俊哉に言われて、いづきが表の方を指さす。
「表にあるが……出来るのかい?」
「Wi-Fiはあるし、大丈夫だと思うけど? 見てくる」
俊哉は自分の鞄からコピー用紙の入ったファイルを出す。気になったら印刷をよくしているのだ。これは、高耶も持っている。レポートも、データではなく出力してと言われる教授もあるので、もう大学に行く時に持ち歩くのは普通だ。
「あ、やり方を見ても?」
「いいぜ。覚えといて損はねえから」
勇一が俊哉について行った。勇一では、鎧の違いも見抜けなかったらしいので、興味がそちらにいったのだろう。機械操作が苦手な者が連盟には多いので、寧ろいいことかもしれない。
その時、高耶の携帯が鳴った。
「ん? エルラントさん?」
電話なんて珍しいなと思いながら、席を立って電話に出た。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「そういえば、あっちで高耶くんは有名だよね。わざわざ日本語で『高耶様』って呼んでるって聞いたことあるよ」
「……」
そう。わざわざそう呼ぶ者が居るのだ。だから、最初は冗談だと思ったし、バカにされていると感じたものだ。
「それ、洗脳されてねえ?」
俊哉が逸見へ目を向けると、彼は苦笑した。
「そこまででは……ただ、私も移ったような……」
「ああ。あっちが真面目に『秘伝高耶様』って呼ぶからだね。移るぐらい言われてるんだ?」
「はい」
「……」
『秘伝高耶様』と『様』までが名になっているのではないかと思う。これのせいで、新人も様呼びをそのまま受け入れるのだ。
「まあ、精霊王と契約したっていうのは、あっちの人たちにしたら、神に近い位置付けになるからね。分からないでもないよ」
「そ、そうなのですか……なるほど。でしたら、分かります」
逸見は様呼びに納得したらしい。
ここで、俊哉が改めて気になっていたことを口にした。
「そういや、高耶の式って、全員がその王なのか?」
「……そうらしい……」
「黒の姐さんや勇者な兄さんも?」
「ああ……」
「へえ」
あまり言いたくないが、事実なので仕方がない。蓮次郎も居る手前、ここで偽るのは良くないだろうとの判断だ。
だが、これ以上はと高耶は、いづきに顔を向けた。本題に入ってもらわなくてはならない。
「それで、情報は」
そう切り出せば、いづきも表情を引き締めた。出してきたのは、タブレット端末。そこに、いくつかの鎧の部品の写真があった。
「こちらが、日本にある一覧です。残念ながら、どれがそうなのか確実とはいえませんが、型が同じであるものを集めました」
「拝見します」
一覧を一通り見て、高耶は自分の鞄からタブレット端末を取り出す。これは、連盟の方から支給されているものだ。
「該当の写真をこちらに移させていただいても?」
「はい。もちろんです」
操作して移していく。それらをファイルにまとめてから、蓮次郎へ見せた。
「銀と金でファイルを分けました。大和さんがお持ちだった物と、あちらで発見されていた物とも合わせてあります」
「うん……間違いないね。でも、やっぱりこれだと二つずつ? いや、三つってことになる? そうなると、まだ足りないよねえ」
そう。今回のも全て合わせると、金の鎧も銀の鎧も、三組ずつあることが分かった。いづきが持っていた該当の鎧の一部が、あちらの写真だと言われて見せられた物と、部品がダブっていたので、予想はしていた。だが、まさか三組だとは思わなかった。
「二組ならまだ……と思っていましたが、やはり三組ですよね……」
「だねえ。あ、それで、逸見さんが居るのは、もしかして……?」
「あ、はい!」
蓮次郎に視線を向けられ、逸見も端末を出した。
「大和さんに話を聞いて、以前から、嫌な感じのする物は別に記録するようにしていたので……」
「失礼しますね」
「どうぞっ」
蓮次郎よりも、逸見は高耶の方に緊張している様子。慌てて高耶に写真を表示したまま端末を差し出した。
「……こちらも、移させていただいても?」
「もちろんです! お好きにどうぞ!」
「ありがとうございます……」
なんだか、講習の時と大分違うなと思いながらも、高耶は素早くデータを移した。
同じようにファイルにまとめていく。その間にも、逸見に確認していた。
「こちらのそれぞれの所有者はお分かりになりますか?」
「あ……手帳と写真を撮った日付けを照らし合わせれば可能です」
「では、後日で構いませんので、照会をお願いします。書き出しますね」
「はい」
高耶の方のタブレットは蓮次郎に渡し、レポート用紙に逸見の写真を確認しながら、該当の写真の撮った日にちを書き出していく。
全部で七つだ。それほど多くなくて良かった。ただし、放置していては危険な物も中にはありそうだったので、それらを別に書き出した。
「この上のが鎧の物です。あと、下に書き出したのは、写真から見ても間違いなく良くないものですので、こちらも教えていただけますか? あちらへ報告しなくてはならないので」
「え、あ、は、はい! あの……今すぐやります」
ちょっと顔色が悪くなった。下の気になる物が意外にも多かった。あちらの人たちが様呼びして敬う高耶がまずいと思う物なのだ。ヤバいと思ったのだろう。
「お時間があるなら、頼みます」
「すぐに! 先輩、手伝ってください」
「いいよー。いづきさん、あっちの机借りるね」
「ええ。どうぞ」
いづきは許可を出しながら、端にあった紙の束を手に取る。
「私の方も照会しましょう」
「ありがとうございます」
しばらく高耶といづきで照会作業をした。いづきは、必要になると思って、あらかじめ資料をまとめてくれていたらしい。該当の物を抜き出すだけで良かった。
その間、蓮次郎は連盟の方に連絡を取っている。照会できたものから確認し、所有者へ連絡を入れていく必要があった。
一方、俊哉は高耶のタブレットを手に、なにやら弄っていた。
「う~んと。よし、これで確認しやすいだろう」
それを覗き込んだ勇一が感心する。
「そんな風に並べ替えられるんですね……」
写真が綺麗に部品ごとに並べ替えられていたのだ。色はわからないが、高耶がファイルで金と銀で分けていたので、そこは問題ない。
「おう。なあ、高耶。これ、まとめた。出力した方がやりやすくねえ?」
「ん? あ、ああ。そうだな。紙媒体の方がやりやすい」
「僕も、その方が助かるねえ。どうにも、こういうのは目がチカチカしちゃって」
「ほいよー。瀬良のじいちゃん、印刷機ある? パソコンに繋げてるやつでもいいけど」
俊哉に言われて、いづきが表の方を指さす。
「表にあるが……出来るのかい?」
「Wi-Fiはあるし、大丈夫だと思うけど? 見てくる」
俊哉は自分の鞄からコピー用紙の入ったファイルを出す。気になったら印刷をよくしているのだ。これは、高耶も持っている。レポートも、データではなく出力してと言われる教授もあるので、もう大学に行く時に持ち歩くのは普通だ。
「あ、やり方を見ても?」
「いいぜ。覚えといて損はねえから」
勇一が俊哉について行った。勇一では、鎧の違いも見抜けなかったらしいので、興味がそちらにいったのだろう。機械操作が苦手な者が連盟には多いので、寧ろいいことかもしれない。
その時、高耶の携帯が鳴った。
「ん? エルラントさん?」
電話なんて珍しいなと思いながら、席を立って電話に出た。
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