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ミッション8 王都進出と娯楽品

269 魅力的な誘い文句だ

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王都の地図で大体の場所を把握したフィルズは、黙々と候補地を絞り込んでいく。そして、土地を五つに絞った。

「なあ。貧民街って言っても、この辺のは、単に所得が低い奴らの住む区域だよな?」
「ああ。治安は良いとは言えないが、危険な浮浪者の集まる場所は、もっと外壁に近くて馬車道からも離れた……この辺だからねえ」

そうしてミラナが指で大きく丸を書いて示したのは、王都の南西の端の一画。

王都は円形をしている。大まかに分けると北側の九時から三時の範囲が貴族や裕福なその関係者達の住まう区画。その中心よりやや北寄りに王城がある。

そして、王都のほぼ中央に教会があり、南東の三時から六時の間に当たる範囲に歓楽街や商店が並び、商業ギルドが中央にある。

残りの六時から九時の辺りが貧民街と呼ばれる貧しい者達が住む場所であり、それを北に堰き止める位置に冒険者ギルドがあった。

最も貧しく、住む家もないはぐれ者や親を亡くした浮浪児達が集まるのがその貧民街よりも奥にある。

「教会が手を出し難い位置だよな」
「ああ……それも、裏の仕事をする者達の巣窟にもなっているからねえ……」
「なるほど。貴族が後ろに付いてるから、更に手を出しづらいということか」

教会としては、無くしてしまいたい。だが、貴族がそれを邪魔をする。どこにも所属しない、使い捨ても気兼ねなくできて、お金さえ払えば裏の仕事を引き受けてくれる者達は、貴族にとって都合が良い人材だ。それを駆逐されては困る。

万が一にも教会が動いたことで、自分達が関わったとされる証拠が出てきたりしては貴族としての命に関わるし、裏の者達としても隠れるには良い場所だ。それがどんなに劣悪な環境であっても、捕まることなく生きていける場所は手放したくはない。

教会は完全に手を出せなくなっているのだろう。

「元々、教会は助けを求められてから動くものだしな。保護が必要な子どもはともかく、神殿長くらいズカズカと迫って行って『助けて』と言わせるくらいのお節介焼きが居ねえと無理だろ」
「はははっ。懐かしいねえ。その辺で不貞腐れて管巻いてた大の大人の男が、子どもみたいに泣きながら神殿長に手を引かれて連れて行かれていたっけ」
「へえっ。それは見てみたかったなあ」

神殿長がこの公爵領に赴任してきた頃、この領にもスラム、貧民街と呼ばれる場所には多くの人が居たらしい。

それを十数年掛けて、神殿長は一人一人手を引いてその場から連れ出した。連れ出された者達は、教会で神官達や孤児院の子ども達に癒され、明日への活力を得ていった。そうして新たな気持ちで職を探したり、故郷に帰ったりしたという。

新たにやって来る者達は、門番や町の人々が教会へ行くように教えるため、そこの住民は増えない。そういう体制を作り上げていった。

「そんなあの子も今や立派に、門番をしているよ」
「っ、マジか。すげえな神殿長……」

一度は人生を諦めた者を、誰かを守る役職に就けるまでにしたことを、フィルズは素直に賞賛した。

「それを神殿長に言ってやりなよ。喜ぶよ?」
「……言わねえ……っ」
「はははっ。相変わらず素直じゃないねえ」
「っ……」

神殿長には、未だに少し素直になれないフィルズだ。目がしっかり泳いでしまっていた。こういう所は子どもらしいと、ミラナは微笑ましげにフィルズを見つめた。

気を取り直すように、フィルズは姿勢を正して顔を上げる。

「で、だ。この五つだけど、全部買える?」
「……ん? 五つ? 全部かい?」
「うん」
「……」

ミラナは思考が停止しそうになりながらも、その土地を地図で確認する。

「この三つが貧民街の北寄りの一画……この屋敷と隣りの健康ランドを合わせたくらいの一つの土地になるねえ……」
「そう。多少、ぎゅっとなるけど、浴場も合わせた施設にする」
「……ふむ……で、こっちの二つは……」

次に見るのは、貧民街の奥。逸れ者達の住む区画との間だ。

「ここに店を構えるのは、さすがに止した方がいいよ」

ミラナはここは無いと眉を寄せて見せる。しかし、フィルズは余裕の表情だ。

「商品は置かねえよ」
「ならどうするんだい? まさか、邸宅にするわけにもいくまいに……」
「ははっ。ああ、ここで売るのは知識と技術。それとそれを身に付けた人だ」
「……?」

意味が分からないと首を傾げて見せるミラナに、フィルズは得意げに答えた。

「派遣業をするんだよ」
「ハケン……派遣? それはもしや、その技術や知識を身に付けた人を、必要とする場所に派遣するということかい?」
「そういうこと」
「ほうほう……詳しく聞こうか」
「そうこなくっちゃな!」

それは面白そうだとミラナが身を乗り出すのを見て、フィルズは釣れたと内心ほくそ笑む。王都の商業ギルドに不満を持っているらしい。そんなミラナを味方に付けられれば、こちらが事の全貌を明らかにするまで王都の商業ギルドを牽制してくれるだろう。

「一緒に王都の商業ギルドを驚かせてやろうぜっ」
「なんとっ。魅力的な誘い文句だっ。乗った!」
「へへっ。神殿長も巻き込むか」
「それがいいねっ」

そうして、王都に大きな驚愕という旋風を巻き起こす計画は動き出したのだ。







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