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ミッション8 王都進出と娯楽品

270 平均年齢高くね?

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その後二日で王都の五つ全ての土地の契約を済ませたフィルズは、辺境伯領と公爵領の者で、王都に行って仕事をしてくれる大工を募った。

「おうっ。ま~た大きな仕事なんだって?」
「フィル坊っ。王都に殴り込みをかけるってのは本当か!? 一緒に行くぞ!」
「設計図は!? 出来てんのか!? 見せてくれ! おおっ、血が騒ぐなぁっ」

募集をかけて翌日には五十人近い男達が集まった。

「じいちゃん達、相変わらず元気だなあ。ってか、平均年齢高くね?」
「若い奴らは、ほれ、元男爵領の方にな。もう俺らが居なくても問題ねえ」
「いやあ。あれだけの仕事があると、見せてやれる事も多いから、あいつらすげえ成長したぞ」
「丁度良いから全部任せてみようって事になったんだよ」
「俺らが王都で仕事して帰ってきた頃には、何人か鼻が高く伸びてるかもしれんがなあ」
「そん時は折りゃあええ」

平均年齢五十強。ベテランばかりだ。

賢者の居た頃からの名残りと言われているが、大工達は『◯◯組』との屋号を持つ。大きな建物の場合、複数の組で協力して建てられるのだが、これが結構問題だ。

それぞれの組で大事にしている誇れる技術というものもあり、それを盗まれないよう組ごとで完全に担当場所を分けて仕事をすることになる。

それぞれの担当となった仕事は無言で黙々とやれるので問題はない。だが、それ以前の図面を確認するところで、先ず大喧嘩が始まる。少しでも自分たちの意見を通そうとしてくるのだ。良い意味でも悪い意味でも我の強い彼らは、絶対に折れない。相手に屈しない。納得するまで言い合う。

それが最も激しいのが王都だと聞いている。

「それに何より……王都はあいつらには早え」
「向こうの奴らに田舎もんと罵られるしなあ」
「殴り合いの喧嘩でもされては敵わん」

血の気の多い若い者達が行くと、手や口が無駄に出て余計な時間を取られる可能性がある。何よりも、気持ちよく仕事をする事を学んだ彼らに口汚い言葉を聞かせたくないという親心もあるようだ。

「坊、王都の奴らは使う気ねえんだろ?」
「おう。全部、じいちゃん達に任せる」

フィルズが教えた賢者達の建築技術を彼らが会得しているから都合が良いというのもあるが、王都の大工は今の所一切入れないつもりだ。

この公爵領と辺境伯領の大工達は特別で、フィルズが間に入ることで組同士の関係も良好。それぞれの組で担当を分けず、全部の組の者達が協力し合い、一緒に技術を磨く。

時に教え合い、新たな技術を考えだし、常に気付いた事を相談し合うことができるのだ。そのお陰で技術は飛躍的に伸び、見ていても気持ちの良い関係を築いている。

恐らく、他領の大工が見たら仰天するだろう。住民達も、大きな屋敷を作る時の大工達から漂うギスギスした雰囲気には気付いている。それがないだけで、町の雰囲気も違ってくるものだ。そして、良好な関係ならば作業効率も上がり、出来も早くなる。

せっかく最良の状態なのに、そこに余所者と呼べる問題児を入れるつもりはなかった。

「他の領なら、多少はそこで人を集めたけどな。やっぱ、職場の雰囲気って大事じゃん?」
「「「大事だなあ……」」」

それに、フィルズに出会ったことで、彼らは気付いた。フィルズは商会長として、職場の雰囲気というのは、重要視している所だ。

「王都のは、変にプライド高いの多いんだろ?」
「よお知っとるなあ」
「ミラナギルド長に聞いた」
「あっはっはっ。ミラちゃんは、王都が嫌いだからなあ。貴族とか身分に捉われる奴らが多くて、問題も多いから」
「昔は凄かったぞ~。ここ、公爵領や辺境伯領には王都から点数稼ぎに来る奴らが多くてな。そういうのは、何をするにも仕事より媚びを売る。そんで、ミラちゃんに殴られて領から放り出されるってのが一連の流れだったわい」
「うわ~……やってそう」
「「「はっはっはっ」」」

さすがは、ギルド長に上り詰めた女傑だ。若い頃はそれこそ男達にナメられないよう、手や口が出ていたのだろう。

「で? フィル坊。いつ出発だ?」
「俺らはいつでも出られるぜ?」

鍛え抜かれた体には、常に魔力が綺麗に巡り、身体強化もお手のもの。そんな初老も過ぎた男達は、キラキラとした若々しい目をフィルズに向けていた。

まるで、遠足を待ち遠しく思う子ども達のようだ。

「明日の朝。七時にここを出る。王都までだけじゃなく、仕事中も快適な環境を約束するぜ」
「そりゃあ、ますます楽しみだ!」

そうして翌日、仕事中もコンテナハウスとして使用できる魔導車に乗って、フィルズは大工達を連れて王都へ向かった。

到着すると、大工達は休む間もなくすぐに仕事を始めた。移動中に討論は出尽くしていたのだ。数時間前から、まだかまだかとソワソワしていた。

「よ~し、さっそく整地から始めるぞ!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
「……じいちゃん達、張り切り過ぎだろ……」

『着いた! 現場はここだ!』と認識した途端に工具を抱えて魔導車から飛び出して行く大工達に、さすがのフィルズも目を丸くする。

今回購入した土地には、廃屋となって放置された家が建っている。それを先ず取り壊すことになるのだが、既に解体のために大工達は家に取り付いていた。






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読んでくださりありがとうございます◎



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