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ミッション8 王都進出と娯楽品

271 札は出すんだ?

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嬉々として作業を始めた大工達を見て、運転してきたペルタも唖然としていた。魔導車の運転席から降りてきて、『うわ~……』と呟いていたフィルズの隣にやってくる。

《元気なオヤジさんたちだなあ……》
「……本当にな……とりあえず、俺は商業ギルドに着工の報告と挨拶に行ってくる」

そう言ってから、フィルズはペルタへと顔を向けて、この後の指示を出す。

「ペルタは後続のリュブラン達が持って来る『解体機』の設置と稼働を頼む。リュブラン達には、ご近所さんへの挨拶回りをしてもらっておいてくれ。ばあちゃんにはリュブラン達の方の護衛を」
《オヤジさん達の方に護衛を付けなくてもいいのか? まあ、俺らも居るが》

この問いかけに、フィルズは周りを見回してみる。見たこともない魔導車というものに興味を持った者達が遠巻きにこちらを見ていた。

ペルタや子ペンギン達も、クマ達のように戦うこともできるため、護衛としても問題はないのだが、守るという事には万能ではない。自衛の範囲での基準だ。

ここは、街中とはいえ、犯罪者達の温床である貧民街も近くにある。大工達への襲撃や、ミラナの王都の商業ギルドを嫌悪する様子からして、工事の妨害もあり得るだろう。

後数分でリュブランの運転する重機を運ぶ魔導車が到着する。そこには、大工の護衛をお願いした祖母のファリマスが同行している。

「手を出して来るのは、二日、三日先だろう。さすがに、来て即行でこうやって作業を始めるとは思わないからな」
《ははっ。あちらさんも、用意が整わねえか》
「こんなん、ゲリラライブ……奇襲みたいなもんだからなあ。まだ気付いてないかも」
《何が始まったかも分かってないかもしれねえとか?》
「あるだろうな。あんな……」

大工達の動きを見れば、誰もが確認し合わなくても次に何をするかを分かっており、既に屋根の半分が取り払われようとしていた。

「あの速さで解体されていくのは、誰も見た事ないだろうからな」
《ああ……お陰で、見慣れない乗り物よりも注目されてるみたいだ……》

最初は見たこともない何かが走ってきたということで、家を飛び出して来たであろう人々の視線は、今や半分以上が魔導車ではなく、大工達の手際に見惚れていた。ペルタや子ペンギン達が居ても、特に気にならない程だから、大工達の手際は、相当異質なのだろう。

「こういうのも解体ショーって言うんだろうか?」
《ちょっと何言ってんのか分からんわ》
「あ~、いや、あれだ。これも見せ物になるんだなと」
《……ご主人よ……これはないだろ……憧れた奴らが人の家をバラシだすぞ》
「あ、それ、ダメだわ」
《子どもらが真似したら困るだろ》
「弟子入りしないと出来ないって立て札……」

立て札用意するかと腕を組んで本気で思案するフィルズ。これに、ペルタが誤解の懸念を口にする。

《それ、弟子入り志願者が出るぞ》
「……それはめんどっ、ヤバいな。『危ないので真似しないでください』って札にしとこう。定期的に読み上げも」
《札は出すんだ? 用意しとく……》

そんな事を考えている間に、屋根が全て分解され、地面に並べられていた。これを見て、フィルズはふっと笑う。

「あの調子だと、今日中に二軒解体が終わるかな」

この土地には、二つの一軒家と一つの集合住宅がある。その内、一軒屋の方は二つとも終わるだろう。

「土地が空いたら、滞在拠点を整えてくれ」
《おう。風呂の用意もしねえとな。任せとけ》
「頼んだ」
《はいよ。おい、お前ら、仕事にかかるぞ》
《《《》》》

子ペンギン達がセカセカと動き出す。それを振り返って確認したフィルズは、それまで待機していた相棒に声をかけた。

「ビズ。商業ギルドまで頼むぞ」
《ブルルっ》

久し振りにビズとだけで出かけることになった。今回は、エン達フェンリルの三兄妹とドラゴンのジュエルは公爵領都で留守番だ。

冒険者としては上級のフィルズは、守護獣、亜種だと分かる見た目のビズに乗って移動しても、もう貴族は口出しが出来ない。だから、堂々と街中でも馬車道をビズに乗っていく。

そうして、初めて来た王都を改めて見回した。

「なんて言うか……やっぱ、汚いな」
《……ブルル……》

公爵領では、特に衛生面に気をつけている。セイスフィア商会では、教会を後ろ盾にしているということもあり、慈善事業も組み込んでいた。

「『清掃隊』を早急に整えるか。仮事務所的なもので、支店が出来る前に活動できるしな」

『清掃隊』別名【クリーンリング】という部署では、町の清掃活動を主な仕事としている。その傍らで、領都の観光案内もしていた。

ただ黙々と掃除をするのではなく、住民達と笑顔で挨拶をし、困っている者があれば手伝ったり、すぐに近くを見回っている領兵に連絡をする。これにより、治安も更に良くなった。

領兵に声を掛けるのは気後れすると言う者達も、清掃のスタッフには気軽に声を掛けられるとあり、それまで目の届かなかった問題も解消されつつある。

それは子どもや女達への家庭内での暴力問題だったり、一人暮らしの老人などへの気配り、家出人の捜索や、母子だけ、父子だけの家庭への声かけなどだ。

人々の輪も意識するということで、命名された【クリーンリング】のメンバーは、年齢もバラバラ。冒険者を引退した者なども入っているし、若い十代半ばの少年少女もいる。

お小遣い稼ぎにも良いと評判の仕事になっていた。

「この分だと、冒険者ギルドに出てる清掃依頼なんて受けてる奴はいないかもな。まあ、それを全部こっちで請け負えるからいいけど」

本来、町の外での仕事に不安のある冒険者登録したての者が受けられる仕事だ。だが、冒険者登録をした者達は、やはり討伐依頼に憧れてそちらばかりを狙う。だから、いつも清掃依頼は残ってしまい、そのままになるか、ギルド職員でどうにかするかしかないらしい。

「ビズ、商業ギルドの後は冒険者ギルドに行こう」
《ブルル……》
「ははっ。視線が気になるか。ああ、ちょっかいかけてくる奴が居たら、遠慮なく土かゴミを浴びせてやれ」
《ブルル……》
「電撃はしばらく町の中では封印な。さすがに、警告は必要だ。ここは他所の土地だからさ。数日は我慢してくれ」
《……ブルル……》

なんとかビズも納得してくれたが、無礼者は居そうだなと苦笑した。






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