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ミッション8 王都進出と娯楽品
283 新しい建築様式!
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クリーンリングが始動し、三日が経った。明日には、学園入学のため、セルジュ達がやって来ることになっていた。
そちらも気にしながら、フィルズは着々と王都支店の完成に努めていた。
少し前に調べた所、周りにある家も人が住んでいないと知り、ミラナに頼んで売りに出ているなら、あと数件分買い取りたいと伝えている。
王都の商業ギルドは、現在はほぼその機能を停止しているらしいが、そろそろ返事が来る頃だろう。
「おもちゃ屋を造るんなら、やっぱ、遊べる場所も造らんとな」
今朝早くから、フィルズは設計図を書いていた。売ることになるおもちゃ、リバーシやカードゲームなどの対戦もできる場所を同時に造ろうと考えたのだ。
そして、どうせならば広く、遊びに特化したものにしたかった。
「フィルっ。これ面白いわねっ!」
「母さん……上手いな……」
クラルスは、朝食後からフィルズが昨晩完成させたビリヤード台でずっと遊んでいる。
広い場所を取るならば、こうした物も用意しようと思い立って作ってしまったのだ。丁度、賢者の資料があったというのも大きい。
対戦相手はリーリルだ。こちらも真剣だった。今は、二人で無駄にトリックショットを打ち合っている。
ちなみに、フィルズはビリヤードに詳しくないが、かつての賢者の資料を二人で見比べながら実践しているというわけだ。クラルスも日頃の勉強のお陰で古代語となっている日本語を読み解けるようになっていた。
リーリルも読めるようで、彼は今、玉を急カーブさせながら突いて、狙った玉をポケットインさせている。白い玉は突いた玉があった場所で止まっていた。
「うわ~……」
「よしっ」
微妙にビリヤードをしている時、リーリルの中に男らしさが見え隠れするのが面白い。
「父さん上手い! 今のはどうやるの!?」
「ふふっ。これはねえ……」
フィルズは作れたことに満足しているので、ここはこれで良いだろうとこの場を離れた。せっかくの父娘の時間を邪魔するのも気が引ける。
すると、技巧の女神ファサラがフィルズの隣に顕現した。加護持ちには見えるようになっているようだ。
お陰で、今ここに居る者達、大工達も皆が視える。数日前からこうして度々、フィルズの傍に顕現しているため、大工達も嬉しそうに手を振り、色々と相談もしているようだ。
ファサラも楽しそうにしているので、良いとしよう。このため、神気を抑える結界の魔導具は、敷地内で常時発動させてある。
数ヶ月前の神々とのお茶会のすぐ後から、公爵領都の方もセイスフィア商会関係の施設は全て、この魔導具を取り付けた。結果、神々がやたらと顕現するようになっている。
「あのビリヤード、昔は魔法系の阻害が上手くできなくてね。賢者が望んだようには広がらなかったんだが……」
魔法がある世界では、やり方次第でゲームもズルし放題になる。それもやるのは、純粋にゲームを楽しむということを知らず、蹴落としてでも人の上に立ちたいと考える貴族が中心。独占したがる。
これにより、賢者達が持ち込んだゲームは、大抵の物が廃れたり、普及しなかったのだ。スポーツもそうで、スポーツマンシップなんてものも認知される前に消える有り様だった。
「それな。今はほぼ魔力操作しか出来ねえから良いが、昔は違ったんだろ? 純粋な技勝負にならないのは面白くねえよな」
そこで、台と玉に魔力を阻害する魔法陣を組み込んだ。魔力を感知すると打ち消すので、魔法による干渉は出来ない仕様だ。これは魔法神アクラスとの合作だ。小さい物に仕込むのは難しかった。常時発動ではなく、魔力を感知し、その魔力を使用するのでとってもエコだった。
「クラルスやリーリルはさすがと言うべきか。すごいものだ。あれで勝負は確かに楽しいだろう」
「なんなら混ざって来たらどうだ?」
「っ、こ、今夜にでもっ」
「ははっ。遊戯館、気になってんのか?」
ファサラは、この後の建築会議に参加したいようだ。
「っ、屋内で遊べる場所なんて、楽しいに決まっている! その上に新たな建築様式!」
新たに建てることになった建物は、地下二階、地上はドーム型の球技場を予定している。地下の方は屋内アスレチック、遊園地的なものと屋内競技用のコート、そして、ビリヤードや卓球、ボールや弓、ダーツなどの的当てゲームなども用意するつもりだ。
「ドーム型とはっ。開閉式の屋根というのも興味深い!」
「テニス、バスケ、バレー、サッカーはまあ良いとしても、ベースボールやラグビーなんかは、上への距離が必要なんでな」
新たに用意する土地にも、別に練習用に使える運動場を造る予定だ。孤児院の子ども達を集めて公爵領都の方では、訓練場で運動会をやったりしているが、今度、領都民での大運動会をやりたいとも言われているので、そうしたイベント会場を造りたかったのだ。
こちらで試験的にでも造る機会が出来たと喜ぶべきだろう。ほぼ最初に予定していた建物は出来上がって来ているので、次の挑戦というわけだ。
「露天商を集めたり、母さんやじいちゃんのコンサートとかイベントがやれたら良いと思わねえ?」
「っ、だから観覧席も充実させたいとっ」
「そういうこと。あと、アクラスとも相談したいんだが……」
「呼んだか」
アクラスが顕現した。結界があるからと、神々は気軽に顕現する。とはいえ助かってはいるので文句はない。
「あ、呼んで悪い。ちょっとさあ、こう……床ってか、地面をさ、芝生にしたり木の床とかに変える……とか、瞬時にとは言わねえけど、その時の用途に合わせて変えたり出来ないかなって」
出来たら、会場をそれこそ、サッカーコートにしたり、ベースボール用に土にしたり、屋内のスポーツ用に変えたり出来たら良いなと思ったのだ。魔法がある世界なのだから、不可能だと分かることでも一応は相談して考えてみることにしている。
これを聞き、アクラスは一考の価値があると思ったのだろう。琴線には触れたようだ。
「……面白ろそうだ。考えてみよう」
「やった! 俺も考えてみたんだけどさっ。装備変換のを応用して使えないかなって」
「っ! 魔法陣を組んでみようっ。また後で」
「おうっ」
アクラスは興奮した様子で、若干慌てながら姿を消した。神界に帰ったようだ。
「あんな楽しそうな様子のアクラスは珍しい」
「いつも結構、冷静だもんな」
「本当に、フィルの所に居ると飽きないよ」
「そりゃあ良かった」
遊び心を知ることが出来ると、神々はこうしてフィルズにハマっていく。
その後、昼食の時間になる頃までの約三時間。大工達も交えた白熱した会議が行われた。建築を学んでいるトルクも参加しており、彼はまだ会議室で設計図と睨み合っている。しばらく動かないだろうと思い、置いて来た。
「あ~……めっちゃ喋った……」
「楽しかったわ。また来る。トルクにも期待していると言っておいてくれ」
「おう」
最近のお気に入りであるトルクにも会えたこともあり、満面の笑みを浮かべ、満足してファサラは帰って行った。
「腹減った」
良い時間だと、フィルズは既に完成している食堂に向かう。食事を作るクマや屋敷管理の者なども配置済みのため、問題なく稼動していた。
クラルスとリーリルはちゃんと切り上げて来ているだろうかと確認していれば、祖母のファリマスが五人の男達を連れてやって来た。
「フィル。ちょっと良いかい?」
「ん? ばあちゃん? え~っと、あんたら……」
五人のうちの三人を見て、フィルズはどこかで会ったなと首を傾げた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
そちらも気にしながら、フィルズは着々と王都支店の完成に努めていた。
少し前に調べた所、周りにある家も人が住んでいないと知り、ミラナに頼んで売りに出ているなら、あと数件分買い取りたいと伝えている。
王都の商業ギルドは、現在はほぼその機能を停止しているらしいが、そろそろ返事が来る頃だろう。
「おもちゃ屋を造るんなら、やっぱ、遊べる場所も造らんとな」
今朝早くから、フィルズは設計図を書いていた。売ることになるおもちゃ、リバーシやカードゲームなどの対戦もできる場所を同時に造ろうと考えたのだ。
そして、どうせならば広く、遊びに特化したものにしたかった。
「フィルっ。これ面白いわねっ!」
「母さん……上手いな……」
クラルスは、朝食後からフィルズが昨晩完成させたビリヤード台でずっと遊んでいる。
広い場所を取るならば、こうした物も用意しようと思い立って作ってしまったのだ。丁度、賢者の資料があったというのも大きい。
対戦相手はリーリルだ。こちらも真剣だった。今は、二人で無駄にトリックショットを打ち合っている。
ちなみに、フィルズはビリヤードに詳しくないが、かつての賢者の資料を二人で見比べながら実践しているというわけだ。クラルスも日頃の勉強のお陰で古代語となっている日本語を読み解けるようになっていた。
リーリルも読めるようで、彼は今、玉を急カーブさせながら突いて、狙った玉をポケットインさせている。白い玉は突いた玉があった場所で止まっていた。
「うわ~……」
「よしっ」
微妙にビリヤードをしている時、リーリルの中に男らしさが見え隠れするのが面白い。
「父さん上手い! 今のはどうやるの!?」
「ふふっ。これはねえ……」
フィルズは作れたことに満足しているので、ここはこれで良いだろうとこの場を離れた。せっかくの父娘の時間を邪魔するのも気が引ける。
すると、技巧の女神ファサラがフィルズの隣に顕現した。加護持ちには見えるようになっているようだ。
お陰で、今ここに居る者達、大工達も皆が視える。数日前からこうして度々、フィルズの傍に顕現しているため、大工達も嬉しそうに手を振り、色々と相談もしているようだ。
ファサラも楽しそうにしているので、良いとしよう。このため、神気を抑える結界の魔導具は、敷地内で常時発動させてある。
数ヶ月前の神々とのお茶会のすぐ後から、公爵領都の方もセイスフィア商会関係の施設は全て、この魔導具を取り付けた。結果、神々がやたらと顕現するようになっている。
「あのビリヤード、昔は魔法系の阻害が上手くできなくてね。賢者が望んだようには広がらなかったんだが……」
魔法がある世界では、やり方次第でゲームもズルし放題になる。それもやるのは、純粋にゲームを楽しむということを知らず、蹴落としてでも人の上に立ちたいと考える貴族が中心。独占したがる。
これにより、賢者達が持ち込んだゲームは、大抵の物が廃れたり、普及しなかったのだ。スポーツもそうで、スポーツマンシップなんてものも認知される前に消える有り様だった。
「それな。今はほぼ魔力操作しか出来ねえから良いが、昔は違ったんだろ? 純粋な技勝負にならないのは面白くねえよな」
そこで、台と玉に魔力を阻害する魔法陣を組み込んだ。魔力を感知すると打ち消すので、魔法による干渉は出来ない仕様だ。これは魔法神アクラスとの合作だ。小さい物に仕込むのは難しかった。常時発動ではなく、魔力を感知し、その魔力を使用するのでとってもエコだった。
「クラルスやリーリルはさすがと言うべきか。すごいものだ。あれで勝負は確かに楽しいだろう」
「なんなら混ざって来たらどうだ?」
「っ、こ、今夜にでもっ」
「ははっ。遊戯館、気になってんのか?」
ファサラは、この後の建築会議に参加したいようだ。
「っ、屋内で遊べる場所なんて、楽しいに決まっている! その上に新たな建築様式!」
新たに建てることになった建物は、地下二階、地上はドーム型の球技場を予定している。地下の方は屋内アスレチック、遊園地的なものと屋内競技用のコート、そして、ビリヤードや卓球、ボールや弓、ダーツなどの的当てゲームなども用意するつもりだ。
「ドーム型とはっ。開閉式の屋根というのも興味深い!」
「テニス、バスケ、バレー、サッカーはまあ良いとしても、ベースボールやラグビーなんかは、上への距離が必要なんでな」
新たに用意する土地にも、別に練習用に使える運動場を造る予定だ。孤児院の子ども達を集めて公爵領都の方では、訓練場で運動会をやったりしているが、今度、領都民での大運動会をやりたいとも言われているので、そうしたイベント会場を造りたかったのだ。
こちらで試験的にでも造る機会が出来たと喜ぶべきだろう。ほぼ最初に予定していた建物は出来上がって来ているので、次の挑戦というわけだ。
「露天商を集めたり、母さんやじいちゃんのコンサートとかイベントがやれたら良いと思わねえ?」
「っ、だから観覧席も充実させたいとっ」
「そういうこと。あと、アクラスとも相談したいんだが……」
「呼んだか」
アクラスが顕現した。結界があるからと、神々は気軽に顕現する。とはいえ助かってはいるので文句はない。
「あ、呼んで悪い。ちょっとさあ、こう……床ってか、地面をさ、芝生にしたり木の床とかに変える……とか、瞬時にとは言わねえけど、その時の用途に合わせて変えたり出来ないかなって」
出来たら、会場をそれこそ、サッカーコートにしたり、ベースボール用に土にしたり、屋内のスポーツ用に変えたり出来たら良いなと思ったのだ。魔法がある世界なのだから、不可能だと分かることでも一応は相談して考えてみることにしている。
これを聞き、アクラスは一考の価値があると思ったのだろう。琴線には触れたようだ。
「……面白ろそうだ。考えてみよう」
「やった! 俺も考えてみたんだけどさっ。装備変換のを応用して使えないかなって」
「っ! 魔法陣を組んでみようっ。また後で」
「おうっ」
アクラスは興奮した様子で、若干慌てながら姿を消した。神界に帰ったようだ。
「あんな楽しそうな様子のアクラスは珍しい」
「いつも結構、冷静だもんな」
「本当に、フィルの所に居ると飽きないよ」
「そりゃあ良かった」
遊び心を知ることが出来ると、神々はこうしてフィルズにハマっていく。
その後、昼食の時間になる頃までの約三時間。大工達も交えた白熱した会議が行われた。建築を学んでいるトルクも参加しており、彼はまだ会議室で設計図と睨み合っている。しばらく動かないだろうと思い、置いて来た。
「あ~……めっちゃ喋った……」
「楽しかったわ。また来る。トルクにも期待していると言っておいてくれ」
「おう」
最近のお気に入りであるトルクにも会えたこともあり、満面の笑みを浮かべ、満足してファサラは帰って行った。
「腹減った」
良い時間だと、フィルズは既に完成している食堂に向かう。食事を作るクマや屋敷管理の者なども配置済みのため、問題なく稼動していた。
クラルスとリーリルはちゃんと切り上げて来ているだろうかと確認していれば、祖母のファリマスが五人の男達を連れてやって来た。
「フィル。ちょっと良いかい?」
「ん? ばあちゃん? え~っと、あんたら……」
五人のうちの三人を見て、フィルズはどこかで会ったなと首を傾げた。
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