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ミッション8 王都進出と娯楽品

284 従業員へのサービス

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ピンと来ないのは当然でもある。たった一度しか会っていない相手だ。それも、装いと雰囲気が全く違う。だから、覚えが良いフィルズも思い出せなかった。二度と会わないだろうと思っていたというのもある。

「こっちは、この王都では有名なギラーリ商会のキラーリさんとその護衛二人だよ」
「キラーリ……ギラーリ……っ、ああ! ギラギラした服着てた、ギラーリさんっ」
「いや、キラーリだ……」
「ああ、悪い。覚え方間違えた」

あまりにもギラギラしていたので、キラーリではなくギラーリと認識してしまったのだ。

「なんで今日はギラギラしてねえの? お忍び? 護衛さん達も防具も着けてねえし」
「……謹慎中だ……」
「謹慎? なんで?」
「……」

フィルズには本気で思い当たらない。なので、気軽に昼食に誘う。

「メシは?」
「まだだが……」
「食べてく? なんか疲れてそうだし、帰るのも嫌だろ。そんで、ばあちゃん、そっちの二人は?」

人数分の空いている席を確認しながら、ファリマスに問う。

「この人らは、商業ギルドの元警護員だってさ。ここで雇ってもらえないかって相談に来たんだよ。それなりに動けるみたいだから、どうかと思ってね」
「ばあちゃんが言うなら、良いぜ? なんか、嫌がらせに来る奴多いみたいだし、ばあちゃんやリュブラン達だけだと、ちょいキツくなってるだろ?」

外の見回りをファリマスとリュブラン、マグナでお願いしていたのだ。しかし、思った以上に周りに人が集まっており、フォローしきれていないようだ。

「範囲が広いからねえ。クマ達は、まだ認知されていないから、下手に出せないんだろ? ラフィット型のウサギさんは出ているみたいだが」
「ああ」

クマ達を魔獣と間違えて、要らぬ争いを誘発してもいけない。そのため、完全に敷地に入って来た者以外の相手はさせていなかった。だが、嫌がらせで敷地内まで入って来ることは稀だ。クマ達が相手にすることは今のところほぼない。

隠密ウサギが暗躍するのは今に始まったことでもないので、そちらは、内だ外だとは気にしていなかった。

「そういえば、捕まえた奴らの尋問はしていないが、良いのかい? そのまま兵に引き渡しているが、命じた奴らをどうにかしないとダメなんじゃないか?」

迷惑行為をしてきた者は、捕らえて町の兵に引き渡している。こちらで尋問などは行っていなかった。

「そっちは、別働部隊を動かして情報を集めてるから問題ないよ。大体、ゴミを投げつけて来るとか、クレーム付けてくるとか、傍で騒ぎを起こすとか、そんな細々とした事を罪に問えねえじゃん」
「まあ、そうだねえ」
「けど、そういうのもチリツモで責められるようにはなるわけよ」
「チリツモ……?」
「塵も積もれば~ってやつ。あと命じた証拠。確実に繋がってるってのは証明しねえと意味ねえもん」
「それはそうだが……あのウサギだけでも大概なのに、どんなの使ってるんだい……」

一番立証が難しいところだ。その証拠集めをしている別働部隊。ファリマスさえも少し不安に感じたようだ。だが、その説明はせずに食堂の方に目を向ける。

この食堂では、自分たちで料理を運び、席について食べ終わったら食器を洗い場の方に運ぶ。セルフサービスだ。

窓口の上に、本日の献立の写真が二枚、大きな画面に映されている。それを指さしてキラーリ達に説明する。

「あれが今日のメニュー。①が野菜中心、②が日によって肉か魚が中心。好きな方の番号のカウンターに行くんだ」

番号の振られた二つの窓口があり、そこでは、その番号の食事だけが受け取れる。

「……昼食を……ここで食べられるのか? お金はどうする?」

キラーリが目を丸くしていた。護衛達も唖然としている。食堂というもの自体、初めて見たのだろう。どんな大きな商会も、昼食をこうして出すことはない。昼食は食べに出るか家に帰るのが普通だ。

「これは従業員へのサービスの一つ。だから、金は取らない。朝、昼、晩、三食食べたい奴は食べられる。ただ、ここに入れるのは、従業員と、招かれた業者だけ。あとは俺とか、上役が呼んだやつだけだ」
「従業員ならば、三食も食べられると……? それも……あんな料理、見た事もない……」

丁度、受け取っている人を見て、その出て来る早さも驚くが、見た目の美しさや、いくつものお皿が並ぶのではなく、一つのプレートで出されていることも、外の者達には珍しいだろう。

護衛の一人が、別の窓口で箱を受け取っている者達を見て問いかけてくる。

「あっちは、何を受け取っている?」
「ん? ああ、家族への弁当。あっちは、金が要るけどな。自分はここで食べて、家族用のものを持って帰るってこともできるんだ」
「そんなことまで……」
「すごい……」
「いいな……」

こんな待遇など、あり得ないという認識だろう。

「とりあえず食おうぜ。あんたらは、ゲストだからこのカードを持ってくれ。カウンターの手前にある魔導具に押し当ててくれればいいから」
「手を当てている代わりか?」

受け取りカウンターの所で、石の板があり、そこに手を当てると、中に注文が行く仕組みだ。

「そう。うちの従業員と入ってる業者は魔力登録されてるんだ。だから、替え玉は効かない。このカードはその日一日しか使えない使い捨てだ」
「そんなこともできるのか……」

キラーリ達は、カードをマジマジと見ながら、感心していた。

「それじゃあ、好きな方並んで、受け取ったら、あの奥の辺に座ろうぜ」
「分かった」

そうして、昼食を受け取り、奥の方の空いている席に集まったのだが、キラーリも、護衛の者達も、二人の元商業ギルドの警護員達も、目の前にある料理に目を輝かせていた。

「冷める前に食べようぜ」
「っ、ああ」

ゴクリと喉を鳴らして、一同はフォークを手に取った。








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読んでくださりありがとうございます◎


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