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第六章 新教会のお披露目
206 相当な下衆だったようね
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お腹も落ち着いたところで、神官達がここに来た後にあったことを話して聞かせた。
ベニの暴れ具合を聞いて目を輝かせ、コウヤが助けた者たちを知って涙を浮かべる。とても忙しない。情緒が不安定なのだろうかと心配になった。
ニールが補足するように、今後の国の対応についても話してくれる。
「司教達も捕らえられましたし、あれだけ証拠が揃っていますので、教会ごと一度国が接収する形を取りますが、管理は聖魔教の大司教ベニ様に任せることになるでしょう」
一応は国が押さえたことにし、それをベニに委譲する形だ。聖魔教が喧嘩を売ったという印象にならないよう、王達は考えてくれていた。
ベニとしてはどっちでも構わなかったのだが、国としては、今回の件で借りを作ったままにしないようにという判断だ。
「そうでしたか……それでは、十分休ませていただきましたので、協力できることがありましたら仰ってくだされば何でもいたします。ただ、我々は神教国にとって裏切り者です。ご迷惑になるようならば、切り捨ててくださって構いません」
本来、教会に入ったなら、まずそこから抜けることはしない。あくまでも、教会という組織ではなく、神に仕えているからだ。教会から抜けるということは、神を否定するということ。そう神官達は思い込まされてしまっている。
「切り捨てるはずないですよ」
コウヤが微笑めば、リウムは顔を歪めた。
「ですが、我々は……神に仕えるためにあの場に留まり続けていたのです。それを……これは神への裏切りでもありましょう……」
リウムはいつしか、頭を上げることをしなくなっていた。他の神官達もだ。
「日に日に治癒魔法の力も落ちていたように感じます。これは、我々が神の意に背いているということではないかと……何より、そんな我々をも労ってくださる魔工神様を邪神としていたのです……神に仕えていたと……神官と名乗ることさえおこがましい」
大袈裟だ。そして、とても落ち込んでいた。
「お聞きしたいのですが……魔工神様っ、いえ、聖魔神様は三神様にとって……」
「気にせず、コウヤと呼んでください。他の神とは家族みたいなものですね。俺がこの世界に帰ってこられたのも、三人のお陰です」
消滅していてもおかしくはなかったかつての魔工神の魂を、ゼストラーク達が異世界に渡した。そこで補強され、何とか形を保つことができるようになってから、再びこちらへ道を通した。
人としては脆弱だったが、それでも力溢れる異世界で過ごすことで、再生されたのだ。仮にも神の魂を異世界へやるということは、本来あり得ない。あちらと交渉するのも大変だっただろう。
あの世界は、他の異世界からの干渉を受けすぎており、管理する神々がかなりご立腹なのだ。そこを通したのだから、ゼストラーク達の苦労は相当なものだった。
帰って来るための道を作るのも簡単なことではない。だから、コウヤも道を通すために、無意識に力を使った。そのため、神として神界に戻ることが出来なくなったのだ。
戻ってきたコウヤの魂を、人として現世に送ることで、また弱ってしまった魂を留めた。それだけの労を惜しまないのだから、コウヤは愛されている。
「神であろうと、現世にこうして人の体を得ることは難しいのです。まず、母体が見つからないですから。たまたま、特別強い力を持った母がいた。そこで成立しましたが、母以外ならば生まれることも出来なかったでしょう。無為に母となるはずだった人を殺してしまうだけです」
弱っていても神だ。その命を宿すのは人の身に余る。これを可能とする個体を用意したのは、ゼストラーク達だ。加護を与え、成長を見守り、庇護者を選別する。そこまでしても、三神はコウヤを取り戻したかった。
「母には悪いことをしました。そこまでしてでも、俺を現世に……この世界に戻そうとしてくれたんです」
「っ……」
これだけで、コウヤが三神にとってかけがえのない存在だと分かる。
「っ、そんな方を悪く思われていれば、加護が消えてもおかしくはありませんね……」
深く納得を示すリウム達。だが、コウヤとしては、そう考えて欲しいわけではない。
「いいえ。あなた方が正しく力を使おうとしていたことは、エリィ姉っ……エリスリリア神も分かっていたはずです。確かに、加護は弱めていたようですが……人は見ていると思います。あなた方の加護が弱まったのは……っ」
そこで、儀式場の扉が勢いよく開いた。
オスロリーリェが反射的に、迎え出るように立ち上がる。
「あなた達の加護を弱めたのは、あなた達のためよ? あれ以上、酷使されないようにと思ったのだけれど……周りが思いの外、相当な下衆だったようね」
「エリィ姉……」
現れたのは、女神。
エリスリリアだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
次回、二日空きます。
よろしくお願いします◎
ベニの暴れ具合を聞いて目を輝かせ、コウヤが助けた者たちを知って涙を浮かべる。とても忙しない。情緒が不安定なのだろうかと心配になった。
ニールが補足するように、今後の国の対応についても話してくれる。
「司教達も捕らえられましたし、あれだけ証拠が揃っていますので、教会ごと一度国が接収する形を取りますが、管理は聖魔教の大司教ベニ様に任せることになるでしょう」
一応は国が押さえたことにし、それをベニに委譲する形だ。聖魔教が喧嘩を売ったという印象にならないよう、王達は考えてくれていた。
ベニとしてはどっちでも構わなかったのだが、国としては、今回の件で借りを作ったままにしないようにという判断だ。
「そうでしたか……それでは、十分休ませていただきましたので、協力できることがありましたら仰ってくだされば何でもいたします。ただ、我々は神教国にとって裏切り者です。ご迷惑になるようならば、切り捨ててくださって構いません」
本来、教会に入ったなら、まずそこから抜けることはしない。あくまでも、教会という組織ではなく、神に仕えているからだ。教会から抜けるということは、神を否定するということ。そう神官達は思い込まされてしまっている。
「切り捨てるはずないですよ」
コウヤが微笑めば、リウムは顔を歪めた。
「ですが、我々は……神に仕えるためにあの場に留まり続けていたのです。それを……これは神への裏切りでもありましょう……」
リウムはいつしか、頭を上げることをしなくなっていた。他の神官達もだ。
「日に日に治癒魔法の力も落ちていたように感じます。これは、我々が神の意に背いているということではないかと……何より、そんな我々をも労ってくださる魔工神様を邪神としていたのです……神に仕えていたと……神官と名乗ることさえおこがましい」
大袈裟だ。そして、とても落ち込んでいた。
「お聞きしたいのですが……魔工神様っ、いえ、聖魔神様は三神様にとって……」
「気にせず、コウヤと呼んでください。他の神とは家族みたいなものですね。俺がこの世界に帰ってこられたのも、三人のお陰です」
消滅していてもおかしくはなかったかつての魔工神の魂を、ゼストラーク達が異世界に渡した。そこで補強され、何とか形を保つことができるようになってから、再びこちらへ道を通した。
人としては脆弱だったが、それでも力溢れる異世界で過ごすことで、再生されたのだ。仮にも神の魂を異世界へやるということは、本来あり得ない。あちらと交渉するのも大変だっただろう。
あの世界は、他の異世界からの干渉を受けすぎており、管理する神々がかなりご立腹なのだ。そこを通したのだから、ゼストラーク達の苦労は相当なものだった。
帰って来るための道を作るのも簡単なことではない。だから、コウヤも道を通すために、無意識に力を使った。そのため、神として神界に戻ることが出来なくなったのだ。
戻ってきたコウヤの魂を、人として現世に送ることで、また弱ってしまった魂を留めた。それだけの労を惜しまないのだから、コウヤは愛されている。
「神であろうと、現世にこうして人の体を得ることは難しいのです。まず、母体が見つからないですから。たまたま、特別強い力を持った母がいた。そこで成立しましたが、母以外ならば生まれることも出来なかったでしょう。無為に母となるはずだった人を殺してしまうだけです」
弱っていても神だ。その命を宿すのは人の身に余る。これを可能とする個体を用意したのは、ゼストラーク達だ。加護を与え、成長を見守り、庇護者を選別する。そこまでしても、三神はコウヤを取り戻したかった。
「母には悪いことをしました。そこまでしてでも、俺を現世に……この世界に戻そうとしてくれたんです」
「っ……」
これだけで、コウヤが三神にとってかけがえのない存在だと分かる。
「っ、そんな方を悪く思われていれば、加護が消えてもおかしくはありませんね……」
深く納得を示すリウム達。だが、コウヤとしては、そう考えて欲しいわけではない。
「いいえ。あなた方が正しく力を使おうとしていたことは、エリィ姉っ……エリスリリア神も分かっていたはずです。確かに、加護は弱めていたようですが……人は見ていると思います。あなた方の加護が弱まったのは……っ」
そこで、儀式場の扉が勢いよく開いた。
オスロリーリェが反射的に、迎え出るように立ち上がる。
「あなた達の加護を弱めたのは、あなた達のためよ? あれ以上、酷使されないようにと思ったのだけれど……周りが思いの外、相当な下衆だったようね」
「エリィ姉……」
現れたのは、女神。
エリスリリアだった。
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