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第六章 新教会のお披露目

207 紅茶もう一杯お願いできる?

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仄かに光を放つほど輝く金の長い髪。それはゆるく三つ編みし、前に垂らされている。その髪にはコウヤがいつかプレゼントした白いレースのリボンが結ばれていた。

ふわふわと柔らかそうな薄いピンクと白の布を幾重にも重ねたドレスは、十代半ばごろの見た目を少々大人びて見せている。

「……どうして?」

コウヤが驚いているのを見て、エリスリリアが駆け寄る。

「びっくりした? コウヤちゃんが整えてくれたし、妖精も居たからね。ここの聖域には繋げやすかったわ♪」

いくら神であっても、どこにでも顕現できるわけではない。降りられるのは白夜の見られる特別な場所と、神器によって作られ、固定された聖域のみ。それでも簡単なことではない。

「ここには私の加護を持っている子が沢山いるってのも大事ね。何より、私が来られたのは、使われてる神器がダンゴちゃんの力を受けているからだし。リクトは無理だったわ」

コウヤに付けられた眷属は、コウヤの守護のためにエリスリリア達がそれぞれ選別した個体だった。

エリスリリアはダンゴ。ゼストラークはパックンだ。そして、リクトルスが選んだのがテンキだった。

《私の力が足りなかったのですね……リクトルス様に、久し振りに稽古をつけていただきたかったのですが……》

テンキはリクトルスに手ほどきを受けることがあった。神界へコウヤが行けない以上、来てもらうしかないので、大変残念そうだ。肩を落とす姿は、胸を打たれる。

「ふふふっ、私が行くって言ったら、かなり落ち込んでいたわよ。でも、ユースールとここに新しく出来る教会にはきちんと繋げられるように調整してるの。そうしたら来られるわ。それまでもう少し待ってね♪」
《そうでしたか。承知いたしました!》

尻尾を振ってご機嫌だ。今ちょっと聞き捨てならない言葉があったように思ったが、気のせいだろうかとコウヤは首を傾げた。

「さてと、あなた達と話しをする……前に! コウヤちゃん! 私にもそれある!?」
「あるよ。沢山作ったからね。あ、持って帰れたりするよね! 持ってって!」
「いいわよ♪」

コウヤは、ようやく自分の手料理を食べてもらえると思うと、嬉しくてたまらなかった。その場で作ったものではないのが残念ではあるが、十分だ。このため、先程の疑問はすっかり消え去っていた。

ふと見ると、エリスリリアが座る場所ということで、素早くニールが立ち上がっている。

「畏れながら、お茶をお淹れしてもよろしいでしょうか」
「あら、気がきく子ね。お願いするわ」
「かしこまりました」

エリスリリアのお皿へ、とりあえず全ての種類をのせていたコウヤは、ニールの行動に驚く。完璧な所作でお茶を淹れだしたのだ。執事にしか見えなかった。ニールって執事もできるんだなと考えながら、エリスリリアへ顔を向ける。

「えっと。全種類あるけど、半分にしておくね」
「ふふ。そうして」

食べられる量としては問題ないのだが、この場では控えるだろうと予想したコウヤだ。残りは持ち帰り分として、大きめのバスケットに三人分にプラスして入れておいた。

「お待たせいたしました。レスティーニティーでございます」
「ありがとう。ん~、良い香りね。んっ、甘みの中にも苦味も少しあって……良い腕ね。文官にしておくのはもったいないわ」
「っ、過分なお言葉。光栄でございます」

執事とお嬢様にしか見えなかった。

そして、エリスリリアは優雅な所作でコウヤの作ったパンケーキを口にする。

「んんっ、美味しいわっ! コウヤちゃん、凄いわね!」
「よかった。気に入った?」
「とっても! きっと今頃、リクトが崩れ落ちてるわ~♪」

意地悪な感情を見せながらも、それが魅力的に見える良い笑顔だった。

「あ、あのぅ……おねえさん、メガミさま? なの?」

リルファムがおずおずと尋ねた。コウヤが立ち上がってからも、身動き一つせずにリルファムとシンリームはエリスリリアを見つめていたのだ。

もちろん、神官達などもっと動けない。唯一、動いたのはコウヤ以外にはニールとオスロリーリェだけだ。

そんな中でリルファムが一番早く正気付いたようだ。

「そうよ~♪ ふふ。あなたかわいいわねえ」
「でしょう?」
「っ……あ、あの……っ」

コウヤも自慢するように目を向けると、リルファムが戸惑っていて、更に可愛かった。

「ふふ。うん。コウヤちゃんの弟合格ね♪ これからもコウヤちゃんをよろしく♪」
「あ、はい!」

満面の笑顔で返事をするリルファム。顔は照れて赤かった。それがまた可愛いと笑って見せると、今度は俯いてしまった。リルファムは分かっていない。神に正式に家族として認められたことに。それに気付いた神官達は泡を吹きそうになっている。

「あまりからかってはダメよ? 可愛いのは分かるけど♪」

弟を可愛がる気持ちは分かるわとエリスリリアは何度も頷いていた。

「さてと。堪能したところだし、話しをしようかしらね。あ、紅茶もう一杯お願いできる?」
「承知しました」
「……」

ニールがもう執事にしか見えなかった。控える時の様子もそれにしか見えないのだ。これはもう気にしないことにする。

エリスリリアは神官達の方を見た。

「私の加護は、全体的に弱めているのよ。力を過信させないように、力の強い子が酷使されないようにね。まあ、それでも酷使されてて意味なかったけど。コウヤちゃんのところにいる子達は良いわよね~。自衛も出来るし、なんだったらバカやった子をきっちりお仕置きしてくれるしね♪ でもあなた達はできないでしょ?」
「あ……はい……」

放心しながらも、リウムがなんとか答えていた。

「ダメだよ。エリィ姉。ルー君達と比べちゃ。あの子達は特別だよ?」
「あら。新しく入った子達も順調に仕上がってるじゃない。あれくらい出来れば良いのよ」
「あれくらいかあ」

思い浮かべたのは、兵達と追いかけっこをする連携も完璧になってきた神官達だ。確かにちょっとは強くなったなと納得する。実際は、兵達と互角以上に渡り合える神官というのは、あり得ないのだが、これがユースールでは常識になっているので仕方がない。

簡単に納得したコウヤとは違い、テンキは冷静に常識を取り戻そうと努力する。

《エリス様。アレらも特別に訓練され、かなり強化されております。普通には無理です》
「やっぱり? さすがはコウヤちゃんね♪ ベニちゃん達もよくやってくれてるわあ♪」

とても満足そうだ。どうやら、エリスリリアはかなりベニ達にも期待しているらしい。

「ってことで、あなた達もしっかり強化訓練を受けて強くなれば、加護も強くなるわ♪ 頑張ってねん♪」
「……え……?」

わけがわからない様子のリウム達。なので、コウヤが改めて告げる。

「ほら、裏切ったとかないでしょう? ちゃんと努力すればもっと加護の力も強くなりますよ。でもちゃんと、正しく力は使ってくださいね?」
「っ、はい! もちろんです!」

神官達は覚醒した。

「ふふっ、素直な子は好きよ? まずは体をしっかり治しなさい。それは私では治してあげられないからね。コウヤちゃんの言うことをよく聞くのよ? 今後を期待してるわ♪」
「「「「「はい!!」」」」」

もう落ち込んでいた様子はどこにもない。神に加護を約束されたのだ。神官としてはこれ以上ないほどの喜びだろう。

「この子達も大丈夫そうだし、コウヤちゃん。上に案内してくれる?」
「上?」
「そう! ベニちゃんのと・こ・ろっ」
「……ん?」

まだ用は済んでいないらしい。

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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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