元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第六章 新教会のお披露目

211 マジ大工天職っスから

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視察があると知らせた晩の打ち合わせで、棟梁は『視察=レンスフィート』と思っていたことが分かって慌てた。

「あ、すみません。きちんと伝えるべきでしたね。今回の視察は国王がいらっしゃいます」
「……」

沈黙してしまった棟梁の表情を見て、いつも通りの寡黙な棟梁だと思うことはできなかった。

「お~、棟梁が固まってるっスねぇ」
「どうしましょう。続けても大丈夫でしょうか」

視察の進め方についての話合いをしているのだが、進行役は棟梁ではないので、このまま続けても良いかもしれない。迷っていると、もう一人の同席者が笑った。

「復活したら俺から伝えるんでいいっスよ。明日改めて進行については確認するんでそん時にでも」
「じゃあ、お願いします。ふふっ、ギーツさんは緊張したりしないんですか?」
「コウヤっちは分かってんでしょ? 貴族や上司とかにおもねらないのが俺のいい所っ」

ニっと笑って片目を瞑り、サムズアップ。この人はずっと、どこにいてもこんな感じだ。ドラム組の中では小柄な方。とはいえ、しっかりと筋肉は付いており、一人前の大工だ。年齢は三十頃。大工の中ではまだ若い。

「まあ、それで家から追放されて、ギルドでもクビになったっスけどね~。ってか、結果オーライ? マジ大工天職っスからね。いやあ、コウヤっちに紹介してもらって大正解っスわ」
「ふふ、よかったです」

実はこのギーツ。名をギーツェルストというが、子爵家の三男だった。貴族の生き方に馴染めず、成人前に勘当され、ユースールに流れついた。そして、冒険者ギルドの職員だったのだが、コウヤが入ってすぐ、当時のギルド長達と言い合って辞めたのだ。

その後の生活に困っていたギーツェルストに、コウヤがドラム組を紹介したのだ。事務仕事も出来る有能なギーツェルストは元々、技巧スキルを持っていたこともあり、すぐにドラム組に受け入れられ、馴染んだ。

今回のような視察の段取りなども、ギーツェルストは問題なく組むことができる。口は軽いが本当に有能なのだ。

「そんで、ものは相談なんスけど、レンスフィート様にも同席願えないっスかねえ。ユースールで新しくできた教会っスからね。ここは混ざっておいてもらった方がいいと思うんスよ」
「なるほど……わかりました。俺から話してみます」
「よろしくっス」

貴族の生き方に馴染めなかったとはいえ、ギーツェルストは貴族の子息としての教育は受けてきている。そのため、こういった時の関わり方も知っているようだ。

こうして、レンスフィートも巻き込み、視察の当日を迎えた。

「急ですみませんレンス様」
「いやいや。話してくれて助かったよ。ギーツはやはり優秀だな」
「引き抜きはダメですよ?」
「……やはりか……残念だ」

ギーツェルストの優秀さは既にレンスフィートも目を付けるほどのようだ。

「でも、今日一日、忙しいですよ?」
「移動に時間がかからないだけ楽というものだ。まったく、コウヤには毎回のように驚かされる……」

レンスフィートがそう言うのも無理はない。転移を使っているのだ。前日の昼頃にわざわざテンキに頼んでレンスフィートを連れて王都へ転移で飛び、現場を見せながら視察の打ち合わせを行った。

そして、夜には戻り、今朝また王都にテンキによって転移で飛んできたのだ。あくまでもテンキができることだと印象付けている。神子や巫女はコウヤの渡した四円柱によって聖域間を転移できるが、コウヤは神子だということではない。その矛盾が出ないように一応は気を付けているのだ。

「コウヤは同席しないのか?」
「いえ。少し離れてですが、ご一緒します。万が一があってはいけませんので、俺は護衛のようなものと思ってください」
「なるほど。わかった。そちらは任せるとしよう」
「はいっ」

因みにこの時、レナルカはビジェに頼んである。テルザの家で子守中だった。

約束の時間。

屋台部隊の者が道を開けるようにして馬車を先導してくれる。

王家の豪奢な馬車が正面に停まった。

真っ先に出てきたのはアルキス。それからアビリス王、ジルファス、シンリーム。後続の馬車からはニールと宰相のベルナディオが降りてきた。

出迎えるレンスフィートに、コウヤといつも通りのにこやかな笑みを浮かべるギーツェルストが続く。だが、途中で彼は驚いたように呟いた。

「あれ? ニール?」
「ん? ニールさんと知り合いでしたか?」
「あ、あ~……ガキの頃によく遊んだ仲っスよ。まあ、本当にガキの頃っスから」

あっちは覚えてないだろうなとか呟きながら、表情を標準装備に戻し、レンスフィートの後ろに控えた。だが、一瞬目の合ったニールが驚いたように目を見開いたことにコウヤは気付いている。

「ようこそいらっしゃいました。足下にお気をつけください。舗装が完了しておりませんので」
「うむ。今日は頼む」
「はい。まずは紹介を……ドラム組の事務長もしておりますギーツです」

ギーツェルストは、ドラム組に入ってから名をギーツと改めているため、この紹介になる。

「ご紹介に預かりました。ギーツと申します。本日の案内役をさせていただきます」

きちんと普段とは口調を変えて、微笑みながらも真面目な顔をしている。切り替えが上手い。

「事務長……? 大工ではないのか?」
「いえ。彼も立派な大工です」

そう説明されても、大工で事務というのが結びつかないのだろう。この世界では、わざわざ事務員を雇うことはしない。

職人は家族経営が基本なため、妻など女の仕事となるのが一般的だ。とはいえ、どこかで教えてもらうわけでもなく。代々受け継いだ場合はなんとかなるが、完全に手探り状態で事務仕事をする場合が多い。よって、経理の管理も杜撰だ。

それでも問題がないのは、単に気にしていないからだ。知らない内に破産しているということも多々ある。職人達は仕事が出来ればそれで満足。細かいことは気にしない。問題があると気付かない困った人たちだ。因みに、離婚率が非常に高い。

「職人というのは総じて経営という観点を無視しがちです。しかし、それを疎かにしては、いずれ立ち行かなくなります。職人の多くは自分で自分の首を絞めていることに気付かず、家族を犠牲にしても止まることができません。そこで、事務仕事を専門で行う者を置くことで、職人達は仕事に集中することができ、経営という観点でもって継続させていくことも可能となります」
「なるほど……だが、ある程度の知識は必要ではないか? 君は……どこかでそれを学んだのかな?」

アビリス王の問いかけにギーツェルストは表情を崩すことなく自然な様子で答えた。

「以前は冒険者ギルドの職員として働いておりました」
「では、コウヤと……コウヤと働いていたのかい?」

これはジルファスだ。チラリとコウヤへ視線を投げかけていた。

「はい。ほんの一時ではありますが……コウヤにドラム組の棟梁を紹介されたのがきっかけです。事務員を専門で置くべきだと言ったのもコウヤです」
「コウヤの……そうか」

ジルファスは若干嬉しそうだ。

「もう少し詳しく聞きたいが、まずは中を見せてもらおうか」
「はい。ご案内いたします」

アビリス王達は、先ず遮音布について聞いて驚き、本当に音がほとんど漏れていないことに驚愕する。

「これは是非とも普及させて欲しいものだ」
「すでに商業ギルドで扱えるようになっております。ただし、本格的にこちらの商業ギルドが普及に努めることが必要かと思われます」
「……やっぱ、商業ギルド、ちょい問題ありそうか?」

アルキスはずっと気になっているのだろう。ギーツェルストの言い方からも不安要素を感じ取った。

「私どもは、ユースールの商業ギルドと比べてしまいますので、これが正しいとは申せません」
「ユースール……マジで気になんだけど……」

色々と違うところがあり過ぎるというのは、既に感じているため、気になって仕方がないらしい。

「それにしても……本当にこれで数日しか経っていないのか? 確かに、先程から信じられない光景が見えるのだが……」
「あれ……釘……なのかな……? あんな一回で入るものなの?」

アビリス王は半ば口を開けたまま。その後ろに居るシンリームも同じ顔をしていた。

目の前に見えるのは、ダーツのように釘を投げる大工。それを上で刺さった端から一発で打ち込む大工。同じように、木材をはめ込む作業も、投げる大工。それを飛んで足ではめ込んでいく大工がいる。さながら、その飛んでいく大工は猿のようだ。

「トンカンいってるのを聞いてるだけじゃ、アレは分からんわ……」

トンカントンで一本の釘を打っていると思うだろう。トンカントンで三本打てるとは予想できない。

「なるほど。あの速さならば、この出来る早さにも納得がいきますねえ」
「すごいな……誰もがバラバラに動いているように見えるが、うまく連携し合っている……」

宰相は、ほうほうと感心しながら頷き、ジルファスは信じられないと少し感動気味だ。

止まることのない作業。流れるように役割を時に交代し、移動の時には飛んで行きがてら、はめ込んでいく。そんな見事な連携が見えた。

「残像が見えるほどの速さで動くとは素晴らしいです。あの速さでも連携を失わないとは……一体、何でタイミングを……」

ニールも感心しきりだ。

「確かに、あの連携をどうやって……」

宰相が気になりだしたようだ。

「よくお聴きくだされば分かりますよ」

レンスフィートの言葉に、一同が耳を澄ませる。

「……なんか、踊りたくなるような、工事中とは思えん……うるさいと感じないな……ん? あ、もしかして……あの音でタイミングを取ってんじゃ……」

アルキスが目を丸くしながらも確信した。これにギーツが頷く。

「おっしゃる通り。我々は既に体に染み付いてしまいましたが、このリズムによってタイミングを合わせております。そして、その指揮を取っているのが、あちらにおります、ドラム組棟梁……シュヴィアです」
「シュヴィア……? ま、まさか……っ」

宰相がなぜか棟梁を見て目を丸くしていた。

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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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