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第八章 学校と研修
329 バッチリ記録するんだから♪
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テンキ達が降下したのと同時に、海の上までしっかり魔法の光が届くようにしていた。
それでも暗い夜の海。その色に呑まれない煌めく青い鱗。長い胴体が揺れる度、キラキラと月の光や星の光すら反射する。
背と耳にある広がった大きなヒレは、濃い青から先に向かって薄くなり、銀に変わるグラデーション。
怖いと思うよりも美しいとため息を吐いてしまう姿だ。けれど、それはこちらの味方だと分かっているからだろう。圧倒的強者の風格も感じられるのだから。
「やっぱり綺麗だな~」
コウヤは懐かしいと感じながらその姿を見つめた。今、鮮明に思い出したのだ。海を渡るのには当然、舟に乗らなくてはならなかった。その舟はパックンが嫌がる。酔い止めはあっても、舟は嫌なのだと。
『《ながされてるかんじがイヤ》』
コウルリーヤとしても、海に乗り出す必要はなく、船を開発しようなんて考えも出てこなかった。魔法があっても、舟は木を掘り出して作られた一人から三人が乗れるような手漕ぎの小舟が一般的だった。今もそう変わらない。
小さくある島々は、無人島。人を導くために世界を回っていたコウルリーヤには、特に行く必要がなかった。何より、転移を使えば海や川、谷だって関係ない。
しかし、そこでテンキがリヴァイアサンに変化できるようになった。
テンキはコウルリーヤに世界の全て、余すことなく見て欲しかった。だから、コウルリーヤを乗せて大地を駆け、空を飛べるようになったら、次は海だ。
そうして、一時期リヴァイアサンになったテンキに乗って、海を渡るのがブームだったのだ。パックンも流されないからか、単純に揺れが少ないからか、酔わなかったのも良かった。
「そうだ。それで釣りとか、漁の仕方を考えたんだ」
これは魔導具ではなく、ゼストラークと相談しながら、技工でも作れるものを考えた。だから、沿岸部の集落では、これらを教えたコウルリーヤに感謝し、魔工神教が多かった。
「この島に逃げて来た人たちにも、漁とか教えたんだっけ」
見れば、船着場に辿り着いた島の冒険者達が、膝を突いて手を組んでいた。テンキを見て拝んでいる。
リクトルスも気付いた。
「そういえば、リエラさんの報告で、あの集落では、家々にヘビのような飾りが天井付近に掲げられていたそうですよ」
それを聞いて思い出す。
「そっか。この島では、テンキがほとんどあの姿だったから、それかも。確か、この辺りは岩礁とか多くて、波も凄かったんだ。だから、漁がしやすいように変えたり、付近の海流を弄ってもらってたんだよ」
「なるほど」
それで、守り神的なものになったのだろう。
「その時、コウヤ君は?」
「ん? テンキに乗ってたよ? 見ながら細かく調整しないといけなかったから」
海流は大きく変えれば、周りにも影響が出てしまう。その影響を見ながらの調整だったので、テンキの側にいる必要があった。
「ちょっとずつ、精霊が島を大陸から移動させることにもなってたから、それも計算しないといけなくて。もう一度ちゃんと見ないとダメかな……終わったら確認しよ」
「ふふっ、なら、余計に彼らは恩を感じていたでしょうね」
「ん? そうかな?」
「そうですよ」
そんな話をしている内に、迷宮が活性化したことにより、この島から流れ出た魔力に惹き寄せられたらしい海の魔物達を、テンキが追い立て始めていた。
普段ならば舟を丸呑みにするウツボを巨大化したような魔物も、テンキには敵ではない。海面にビチビチと激しく波立たせながら出て来た魔物も、陸に打ち上げられたり、遠くに弾き飛ばされたりしていた。
もちろん、当然だが、人の入った光の玉は魔物達の興味を惹いており、餌を求るように集っていたが、それらはテンキが光の玉を尾で移動させてから追い払っていく。
その移動させるのが少々乱暴ではあるが、体が大きいので仕方がない。若干、テンキとしては扱い方などどうでも良さそうだなと感じたが、助けるためだ。問題ない。
島から流れ出る魔力もテンキは同時に散らしているようだ。
そうして、海が落ち着いてきた所で、島の冒険者達が舟を出していく。これで回収作業も目処が立った。
「さて、では、こちらもそろそろ行きましょうか」
リクトルスが手を打つ。それに反応して、指名されていた冒険者達が飛び上がるようにして立ち上がった。
「「「よっしゃー!!」」」
そして、ウキウキしながら降下するためのハッチへと駆け出して行く。もちろん、タリスも混じっている。
「コウヤ君も行きますよ。エリス、ここは任せます」
「は~い。任せて! コウヤちゃんの勇姿もバッチリ記録するんだから♪」
「お願いしますね」
映像は任せろとエリスリリアが張り切っていた。
「エリィ姉、ちゃんと他も見えるようにしてよ?」
「わかってるわよ~」
恐らく大丈夫だろうと苦笑しながら、リクトルスの後に続く。しばらくすると、そこで本来の姿になったパックンとダンゴに出会った。
「あっ。パックンとダンゴはどうする?」
パックンもダンゴもそれぞれマンタとエイの船長として登録されているが、神官達だけで操縦できないこともない。なので、一緒に行くことも可能だ。
《行くー (^O^)》
《行くでしゅ》
「ふふっ。分かった。なら行こうか」
《はい! でしゅ》
《ニールとビジェも行けるみたい》
「そうなの? それは心強いね」
もう二人はスタンバイしているようだ。
次々に楽しそうな声を上げながら降りていく冒険者達。リクトルスも先に降りて行った。
最後まで残っていたのはコウヤを待っていたニールとビジェだった。
「コウヤ様、お供いたします」
「一緒に行きます」
「うん。行こう」
「「はい!」」
そうして、三人と二体は魔獣の犇めく島へ飛び降りて行った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
それでも暗い夜の海。その色に呑まれない煌めく青い鱗。長い胴体が揺れる度、キラキラと月の光や星の光すら反射する。
背と耳にある広がった大きなヒレは、濃い青から先に向かって薄くなり、銀に変わるグラデーション。
怖いと思うよりも美しいとため息を吐いてしまう姿だ。けれど、それはこちらの味方だと分かっているからだろう。圧倒的強者の風格も感じられるのだから。
「やっぱり綺麗だな~」
コウヤは懐かしいと感じながらその姿を見つめた。今、鮮明に思い出したのだ。海を渡るのには当然、舟に乗らなくてはならなかった。その舟はパックンが嫌がる。酔い止めはあっても、舟は嫌なのだと。
『《ながされてるかんじがイヤ》』
コウルリーヤとしても、海に乗り出す必要はなく、船を開発しようなんて考えも出てこなかった。魔法があっても、舟は木を掘り出して作られた一人から三人が乗れるような手漕ぎの小舟が一般的だった。今もそう変わらない。
小さくある島々は、無人島。人を導くために世界を回っていたコウルリーヤには、特に行く必要がなかった。何より、転移を使えば海や川、谷だって関係ない。
しかし、そこでテンキがリヴァイアサンに変化できるようになった。
テンキはコウルリーヤに世界の全て、余すことなく見て欲しかった。だから、コウルリーヤを乗せて大地を駆け、空を飛べるようになったら、次は海だ。
そうして、一時期リヴァイアサンになったテンキに乗って、海を渡るのがブームだったのだ。パックンも流されないからか、単純に揺れが少ないからか、酔わなかったのも良かった。
「そうだ。それで釣りとか、漁の仕方を考えたんだ」
これは魔導具ではなく、ゼストラークと相談しながら、技工でも作れるものを考えた。だから、沿岸部の集落では、これらを教えたコウルリーヤに感謝し、魔工神教が多かった。
「この島に逃げて来た人たちにも、漁とか教えたんだっけ」
見れば、船着場に辿り着いた島の冒険者達が、膝を突いて手を組んでいた。テンキを見て拝んでいる。
リクトルスも気付いた。
「そういえば、リエラさんの報告で、あの集落では、家々にヘビのような飾りが天井付近に掲げられていたそうですよ」
それを聞いて思い出す。
「そっか。この島では、テンキがほとんどあの姿だったから、それかも。確か、この辺りは岩礁とか多くて、波も凄かったんだ。だから、漁がしやすいように変えたり、付近の海流を弄ってもらってたんだよ」
「なるほど」
それで、守り神的なものになったのだろう。
「その時、コウヤ君は?」
「ん? テンキに乗ってたよ? 見ながら細かく調整しないといけなかったから」
海流は大きく変えれば、周りにも影響が出てしまう。その影響を見ながらの調整だったので、テンキの側にいる必要があった。
「ちょっとずつ、精霊が島を大陸から移動させることにもなってたから、それも計算しないといけなくて。もう一度ちゃんと見ないとダメかな……終わったら確認しよ」
「ふふっ、なら、余計に彼らは恩を感じていたでしょうね」
「ん? そうかな?」
「そうですよ」
そんな話をしている内に、迷宮が活性化したことにより、この島から流れ出た魔力に惹き寄せられたらしい海の魔物達を、テンキが追い立て始めていた。
普段ならば舟を丸呑みにするウツボを巨大化したような魔物も、テンキには敵ではない。海面にビチビチと激しく波立たせながら出て来た魔物も、陸に打ち上げられたり、遠くに弾き飛ばされたりしていた。
もちろん、当然だが、人の入った光の玉は魔物達の興味を惹いており、餌を求るように集っていたが、それらはテンキが光の玉を尾で移動させてから追い払っていく。
その移動させるのが少々乱暴ではあるが、体が大きいので仕方がない。若干、テンキとしては扱い方などどうでも良さそうだなと感じたが、助けるためだ。問題ない。
島から流れ出る魔力もテンキは同時に散らしているようだ。
そうして、海が落ち着いてきた所で、島の冒険者達が舟を出していく。これで回収作業も目処が立った。
「さて、では、こちらもそろそろ行きましょうか」
リクトルスが手を打つ。それに反応して、指名されていた冒険者達が飛び上がるようにして立ち上がった。
「「「よっしゃー!!」」」
そして、ウキウキしながら降下するためのハッチへと駆け出して行く。もちろん、タリスも混じっている。
「コウヤ君も行きますよ。エリス、ここは任せます」
「は~い。任せて! コウヤちゃんの勇姿もバッチリ記録するんだから♪」
「お願いしますね」
映像は任せろとエリスリリアが張り切っていた。
「エリィ姉、ちゃんと他も見えるようにしてよ?」
「わかってるわよ~」
恐らく大丈夫だろうと苦笑しながら、リクトルスの後に続く。しばらくすると、そこで本来の姿になったパックンとダンゴに出会った。
「あっ。パックンとダンゴはどうする?」
パックンもダンゴもそれぞれマンタとエイの船長として登録されているが、神官達だけで操縦できないこともない。なので、一緒に行くことも可能だ。
《行くー (^O^)》
《行くでしゅ》
「ふふっ。分かった。なら行こうか」
《はい! でしゅ》
《ニールとビジェも行けるみたい》
「そうなの? それは心強いね」
もう二人はスタンバイしているようだ。
次々に楽しそうな声を上げながら降りていく冒険者達。リクトルスも先に降りて行った。
最後まで残っていたのはコウヤを待っていたニールとビジェだった。
「コウヤ様、お供いたします」
「一緒に行きます」
「うん。行こう」
「「はい!」」
そうして、三人と二体は魔獣の犇めく島へ飛び降りて行った。
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