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第3話
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柳がシャワー室で汗を流し、頭を洗い終えるまでに30分以上かかっていた。
とりあえず仕事を終えた後なのでスウェットのようなゆるい服で過ごしたいし、髪もタオルで拭いた後は自然乾燥ですませたいのが柳の理想だった。しかし、黒井のわがままを叶えるために柳はドライヤーできちんと髪を乾かし、外に出ても恥ずかしくない程度の服を着た。流石にスーツではなく、ポロシャツにチノパンと言うファストファッションだが文句はないはずだ。
「ちっ、帰ってないのか」
事務所へのドアを開けて柳は思わず舌打ちをした。黒井が帰宅しているわけがないとは思っていたが、柳の予想通りであっても嬉しくない。
そんな柳の心中を知ってか知らずか、黒井は薄く笑って柳に視線を向けていた。笑いたいなら素直に普通に笑えば良いのにと柳はいつも思う。
この探偵事務所の所長である黒井のフルネームは黒井正義(くろいまさよし)と言う。年は40半ばで、2年前までは全国紙の新聞で記者をやっていた。本人曰く、敏腕記者で政治関係を長い間担当していたらしい。
何度か大きなスキャンダルをすっぱ抜いたこともあるそうだが、柳は興味なく聞いていたのでどの話の事なのかは覚えていない。改めて訊けば得意風を吹かせながら黒井は話すだろうが、柳は特別聞きたいと思っていないのでこの件に関しては迷宮入りである。
「ニヤニヤしてんなよ」
呆れたように言う柳に黒井はふっと口元を緩ませただけだった。柳が唇を真横にして不満の感情を示したが、黒井はどこ吹く風だ。
黒井正義と言う名前は言いえて妙だと柳は思っている。そのままの字面でなら「くろいせいぎ」と読むことが出来るように黒井はやはり食えない男だった。
どこまで本当かはわからないが政治家のスキャンダルを探った結果、命にかかわるような脅迫をされたこともあると言う。その話は完全なウソではないだろうが、話を盛っているんのではないだろうかと柳は思っている。
なお、黒井の名字は昔は違ったそうだ。10代の頃に親が離婚して母親の姓になったため、名前の字面の印象が変わったそうだ。ただ、黒井自身はこの名前の方が話のネタになって良いと言っていた。
こんな話を聞かされた時、黒井は昔っからひねくれてんだなぁと柳は自分の事を棚に上げて思った。
そんな黒井が柳を急かしてまで楽しみにしている事がある。そしてそれは柳がこの探偵事務所に雇われている大きな理由でもある。
柳が首を回すと乾いた音がした。
「やるか」
柳は呟くと納得はしていないが諦めて作業を始めることにした。柳は空いている事務机の引き出しから白い布を取り出してノロノロと広げる。厚手のしっかりしたその布をテーブルクロスのように机にかける。
柳が横目で黒井を見ると、表情はいつも通りの固い印象はあるが、黒井はどこか楽しそうに不服そうな顔をしている柳を見ていた。
「どうした?」
「なにも」
柳は小さく舌打ちをしつつ、引き出しから道具を取り出す。木製の小ぶりの台、白いロウソクとロウソク立て、白く小さい丸皿と、塩である。
あら塩を丸皿に盛る。本当は僅かに湿らせた塩を型に入れて高い盛り塩を作らなければならないのだが、とりあえずあれば良いと柳は思っている。
木製の台はいわゆる祭壇のミニチュアで、布の上に置く。ロウソク台にロウソクを指して、祭壇の左右にそれぞれ3本ずつ置く。そして、黒井の机からライターを取るとロウソクに火をつけた。
塩を盛りつけた丸皿は手前の方に置き、祭壇の前…布の中央に依頼者から借りてきたコントローラーを置く。
なにかの儀式が始まりそうな雰囲気だが、実際これから行われるのは儀式である。
柳が選択権を与えられた仕事から秒で行方不明者捜査を選んだのは、彼の特技と言うべき特殊な力を生かせるからだった。
柳の母親がいわゆる神事に携わる神道系の家系なのである。柳自身もその素質を持ち、扱えるだけの技術と知識も授けられていた。普通の人間には感じることも、扱う事も出来ないこの力をみることが黒井の楽しみなのであった。
柳としては集中力を使うし、はたから見れば地味でしかないこの儀式をみていてなにが面白いのかと思う。
できれば1人で行いたいのだが、雇い主に逆らえないので仕方ない。
幸い、この手の儀式は誰かに見られていてもさほど問題ないのでこのような形を取っている。他者がいると問題がある儀式の場合はさすがに黒井を締め出している。
儀式の祭壇にゲーム機のコントローラーがあると言うちぐはぐな絵面だが、探す存在が愛用していたものが必要なので仕方ない。
いくつかあったコントローラーの中で一番使用感があった1つを借りてきたのだった。
そのコントローラーの上に柳は人の形に切り抜いた白い和紙を乗せる。それを見つめつつ、柳は両手で一冊の本を開いた。
その本は日本地図帳。日本の北から南までの地域を網羅する本である。都道府県の字まで確認できるくらいに細かく記載されている。柳はこの本を持って右手側をたわませて、連続でページをめくる。
乾いた音が響く中、柳は手元ではなく和紙を見つめている。黒井も見ている物は同じだった。
最後のページまでめくり終えた後、柳は本を持ち直してもう一度ページをめくりだす。ただし、先ほどより速度を落としてめくった。
「・・・」
本をめくっている最中に人型の和紙が微かに動いたように見えた。いや、実際動いたのだった。
それを見て柳は地図帳のページを戻す。
和紙の人形はその手足を微かに上下に動かす。柳はその様子を見ながら地図帳のページをめくっていく。徐々に人形の動きが大きくなり、柳が次のページをめくった時に人形が宙に舞った。
下から風が吹いたかのように紙人形が浮かび上がり、滑り込むように地図帳の上に落ちてきた。
時間にして2秒もかからない僅かな時間である。
「おぉ…」
沈黙を続けていた黒井が思わず声をこぼした。
ちょっとしたトリックで十分な再現が出来そうなこんな事象を見て、テンションが上がっている黒井を柳は冷ややかな気持ちで見ていた。
確かに柳には不思議な事を起こすだけの力があるが、こんな地味な事で興奮されても柳は逆に冷めるだけだった。
その気持ちを黒井に伝えた事はあるが「お前にとっての普通は、こっちにとっては奇跡なんだ」と目を輝かせて言われてから、柳は言葉を飲み込んでいた。
紙人形が落ちたページは都心付近のページだった。
それを確認して柳は縮尺が小さい地図帳の都心付近を掲載した地図帳を取り出す。そして、紙人形をまたコントローラーの上に置いてから同じことを繰り返す。
紙人形が示した地域はこの事務所から比較的近い所だった。
「まぁ、そんなとこだろう」
家出をするのなら地方に行くより、都心が便利な事は昔から言われている。宿泊施設から漫画喫茶やカラオケ、場合によってはマンスリーマンションなど手軽に拠点にできる場所が多い。
また、とにかく人が多いのでその人物がいつもこの付近にいるのか、どこからかやってきたのかわからないし、気にする人もいない。
「今から行くのか?」
黒井が意地悪な笑みを浮かべて柳に問う。
「なわけないだろ」
そう返事をすることがわかって問いかけるのだから、質が悪い。
集中力を途切れさせて、柳があくびをする。
今夜はもう遅い。捜索対象者もどこかしらの店で夜を明かそうとしているだろう。もちろん、今の時期なので野外で夜を明かすことも不可能ではないが手持ちにまだ余裕がある時に現代っ子がそんな選択肢を選ぶわけがない。
「明日だよ。明日」
ロウソクの火を消して答える柳の頭に黒井が手を置いた。
「じゃあ、頼んだぞ」
それだけ言うと黒井は柳の頭を軽く叩いた。そして、踵を返して事務所を出て行ったのだった。そんな黒井の後ろ姿を一瞥して柳はため息を吐く。
ドアが閉じる音を聞きながら、柳は出した道具を順番にしまっていく。たいした労力ではないが、片付けないわけにはいかないのでしまうのだった。
出しっぱなしでも出来なくはないが、精度が落ちたり、単純に出しっぱなしに出来るほど空間のゆとりが無いとか色々理由がある。
紙人形だけはしまわず、コントローラーの上に乗せておく。
立ち上がると柳は腕を天井に向けて伸ばし、大きく背伸びをする。
「っはぁ…」
力を抜くと自然と声が漏れた。
ドアの鍵が閉まっている事を確認すると柳は事務所の明りを消し、自分の部屋に戻っていった。
廊下の明りも消し、自分の部屋のドアを開ける。室内は暗かったが、カーテンが開いていたので街の明かりが入っていた。そのおかげで十分に室内は見えたし、後は寝るだけなので柳は部屋の灯りをつけることはしなかった。
シャツとチノパンを脱ぎ捨てるとベッドの上に転がる。クーラーは常時動かしているので問題は無い。
そのまま寝ようとする柳だったが、カーテンが開いている事が気になった。しかし、窓に背を向けるとそのまま眠りに入る。
多くの事が面倒くさいと感じる柳だが自分が普通の人間だったとしたら、どんな人生だったのかと思う事がある。
2年と少し前にたまたま居合わせた黒井に柳の能力を目撃された。柳自身は別に見られたとしても構わなかったが、気に入られるとは思っていなかった。
相手が新聞記者のため変にメディアで取り上げられるのかと警戒はしたが、黒井にそんなつもりはなかった。
黒井はただ「知りたい」人間なのだ。
新聞記者になったのも「知りたい」からその職に就いたと言う。
柳の特殊な力は黒井の「知りたい」欲求にハマった。
その後、紆余曲折はあったものの柳も「知りたい」ことがあり、黒井がそれを知ることが出来るための場所を提供すると申し出た。
決して悪い話ではなかった。
そうして、今、柳はこんな生活をしている。
1人で知るために行動をしていたが、雲をつかむような話であったのは確かだ。そこに有利に働くのなら話に乗るのも悪くはないと柳は考えた。
「…めんどくせぇ…」
明日、起きてからのスケジュールを考えていたら柳は自然と言葉を零していた。
「知りたい」ことに出会えるまでの事を思えば、簡単なことのはずだが。
柳は掛け布団を掻き抱いて改めて眠りと向き合ったのだった。
とりあえず仕事を終えた後なのでスウェットのようなゆるい服で過ごしたいし、髪もタオルで拭いた後は自然乾燥ですませたいのが柳の理想だった。しかし、黒井のわがままを叶えるために柳はドライヤーできちんと髪を乾かし、外に出ても恥ずかしくない程度の服を着た。流石にスーツではなく、ポロシャツにチノパンと言うファストファッションだが文句はないはずだ。
「ちっ、帰ってないのか」
事務所へのドアを開けて柳は思わず舌打ちをした。黒井が帰宅しているわけがないとは思っていたが、柳の予想通りであっても嬉しくない。
そんな柳の心中を知ってか知らずか、黒井は薄く笑って柳に視線を向けていた。笑いたいなら素直に普通に笑えば良いのにと柳はいつも思う。
この探偵事務所の所長である黒井のフルネームは黒井正義(くろいまさよし)と言う。年は40半ばで、2年前までは全国紙の新聞で記者をやっていた。本人曰く、敏腕記者で政治関係を長い間担当していたらしい。
何度か大きなスキャンダルをすっぱ抜いたこともあるそうだが、柳は興味なく聞いていたのでどの話の事なのかは覚えていない。改めて訊けば得意風を吹かせながら黒井は話すだろうが、柳は特別聞きたいと思っていないのでこの件に関しては迷宮入りである。
「ニヤニヤしてんなよ」
呆れたように言う柳に黒井はふっと口元を緩ませただけだった。柳が唇を真横にして不満の感情を示したが、黒井はどこ吹く風だ。
黒井正義と言う名前は言いえて妙だと柳は思っている。そのままの字面でなら「くろいせいぎ」と読むことが出来るように黒井はやはり食えない男だった。
どこまで本当かはわからないが政治家のスキャンダルを探った結果、命にかかわるような脅迫をされたこともあると言う。その話は完全なウソではないだろうが、話を盛っているんのではないだろうかと柳は思っている。
なお、黒井の名字は昔は違ったそうだ。10代の頃に親が離婚して母親の姓になったため、名前の字面の印象が変わったそうだ。ただ、黒井自身はこの名前の方が話のネタになって良いと言っていた。
こんな話を聞かされた時、黒井は昔っからひねくれてんだなぁと柳は自分の事を棚に上げて思った。
そんな黒井が柳を急かしてまで楽しみにしている事がある。そしてそれは柳がこの探偵事務所に雇われている大きな理由でもある。
柳が首を回すと乾いた音がした。
「やるか」
柳は呟くと納得はしていないが諦めて作業を始めることにした。柳は空いている事務机の引き出しから白い布を取り出してノロノロと広げる。厚手のしっかりしたその布をテーブルクロスのように机にかける。
柳が横目で黒井を見ると、表情はいつも通りの固い印象はあるが、黒井はどこか楽しそうに不服そうな顔をしている柳を見ていた。
「どうした?」
「なにも」
柳は小さく舌打ちをしつつ、引き出しから道具を取り出す。木製の小ぶりの台、白いロウソクとロウソク立て、白く小さい丸皿と、塩である。
あら塩を丸皿に盛る。本当は僅かに湿らせた塩を型に入れて高い盛り塩を作らなければならないのだが、とりあえずあれば良いと柳は思っている。
木製の台はいわゆる祭壇のミニチュアで、布の上に置く。ロウソク台にロウソクを指して、祭壇の左右にそれぞれ3本ずつ置く。そして、黒井の机からライターを取るとロウソクに火をつけた。
塩を盛りつけた丸皿は手前の方に置き、祭壇の前…布の中央に依頼者から借りてきたコントローラーを置く。
なにかの儀式が始まりそうな雰囲気だが、実際これから行われるのは儀式である。
柳が選択権を与えられた仕事から秒で行方不明者捜査を選んだのは、彼の特技と言うべき特殊な力を生かせるからだった。
柳の母親がいわゆる神事に携わる神道系の家系なのである。柳自身もその素質を持ち、扱えるだけの技術と知識も授けられていた。普通の人間には感じることも、扱う事も出来ないこの力をみることが黒井の楽しみなのであった。
柳としては集中力を使うし、はたから見れば地味でしかないこの儀式をみていてなにが面白いのかと思う。
できれば1人で行いたいのだが、雇い主に逆らえないので仕方ない。
幸い、この手の儀式は誰かに見られていてもさほど問題ないのでこのような形を取っている。他者がいると問題がある儀式の場合はさすがに黒井を締め出している。
儀式の祭壇にゲーム機のコントローラーがあると言うちぐはぐな絵面だが、探す存在が愛用していたものが必要なので仕方ない。
いくつかあったコントローラーの中で一番使用感があった1つを借りてきたのだった。
そのコントローラーの上に柳は人の形に切り抜いた白い和紙を乗せる。それを見つめつつ、柳は両手で一冊の本を開いた。
その本は日本地図帳。日本の北から南までの地域を網羅する本である。都道府県の字まで確認できるくらいに細かく記載されている。柳はこの本を持って右手側をたわませて、連続でページをめくる。
乾いた音が響く中、柳は手元ではなく和紙を見つめている。黒井も見ている物は同じだった。
最後のページまでめくり終えた後、柳は本を持ち直してもう一度ページをめくりだす。ただし、先ほどより速度を落としてめくった。
「・・・」
本をめくっている最中に人型の和紙が微かに動いたように見えた。いや、実際動いたのだった。
それを見て柳は地図帳のページを戻す。
和紙の人形はその手足を微かに上下に動かす。柳はその様子を見ながら地図帳のページをめくっていく。徐々に人形の動きが大きくなり、柳が次のページをめくった時に人形が宙に舞った。
下から風が吹いたかのように紙人形が浮かび上がり、滑り込むように地図帳の上に落ちてきた。
時間にして2秒もかからない僅かな時間である。
「おぉ…」
沈黙を続けていた黒井が思わず声をこぼした。
ちょっとしたトリックで十分な再現が出来そうなこんな事象を見て、テンションが上がっている黒井を柳は冷ややかな気持ちで見ていた。
確かに柳には不思議な事を起こすだけの力があるが、こんな地味な事で興奮されても柳は逆に冷めるだけだった。
その気持ちを黒井に伝えた事はあるが「お前にとっての普通は、こっちにとっては奇跡なんだ」と目を輝かせて言われてから、柳は言葉を飲み込んでいた。
紙人形が落ちたページは都心付近のページだった。
それを確認して柳は縮尺が小さい地図帳の都心付近を掲載した地図帳を取り出す。そして、紙人形をまたコントローラーの上に置いてから同じことを繰り返す。
紙人形が示した地域はこの事務所から比較的近い所だった。
「まぁ、そんなとこだろう」
家出をするのなら地方に行くより、都心が便利な事は昔から言われている。宿泊施設から漫画喫茶やカラオケ、場合によってはマンスリーマンションなど手軽に拠点にできる場所が多い。
また、とにかく人が多いのでその人物がいつもこの付近にいるのか、どこからかやってきたのかわからないし、気にする人もいない。
「今から行くのか?」
黒井が意地悪な笑みを浮かべて柳に問う。
「なわけないだろ」
そう返事をすることがわかって問いかけるのだから、質が悪い。
集中力を途切れさせて、柳があくびをする。
今夜はもう遅い。捜索対象者もどこかしらの店で夜を明かそうとしているだろう。もちろん、今の時期なので野外で夜を明かすことも不可能ではないが手持ちにまだ余裕がある時に現代っ子がそんな選択肢を選ぶわけがない。
「明日だよ。明日」
ロウソクの火を消して答える柳の頭に黒井が手を置いた。
「じゃあ、頼んだぞ」
それだけ言うと黒井は柳の頭を軽く叩いた。そして、踵を返して事務所を出て行ったのだった。そんな黒井の後ろ姿を一瞥して柳はため息を吐く。
ドアが閉じる音を聞きながら、柳は出した道具を順番にしまっていく。たいした労力ではないが、片付けないわけにはいかないのでしまうのだった。
出しっぱなしでも出来なくはないが、精度が落ちたり、単純に出しっぱなしに出来るほど空間のゆとりが無いとか色々理由がある。
紙人形だけはしまわず、コントローラーの上に乗せておく。
立ち上がると柳は腕を天井に向けて伸ばし、大きく背伸びをする。
「っはぁ…」
力を抜くと自然と声が漏れた。
ドアの鍵が閉まっている事を確認すると柳は事務所の明りを消し、自分の部屋に戻っていった。
廊下の明りも消し、自分の部屋のドアを開ける。室内は暗かったが、カーテンが開いていたので街の明かりが入っていた。そのおかげで十分に室内は見えたし、後は寝るだけなので柳は部屋の灯りをつけることはしなかった。
シャツとチノパンを脱ぎ捨てるとベッドの上に転がる。クーラーは常時動かしているので問題は無い。
そのまま寝ようとする柳だったが、カーテンが開いている事が気になった。しかし、窓に背を向けるとそのまま眠りに入る。
多くの事が面倒くさいと感じる柳だが自分が普通の人間だったとしたら、どんな人生だったのかと思う事がある。
2年と少し前にたまたま居合わせた黒井に柳の能力を目撃された。柳自身は別に見られたとしても構わなかったが、気に入られるとは思っていなかった。
相手が新聞記者のため変にメディアで取り上げられるのかと警戒はしたが、黒井にそんなつもりはなかった。
黒井はただ「知りたい」人間なのだ。
新聞記者になったのも「知りたい」からその職に就いたと言う。
柳の特殊な力は黒井の「知りたい」欲求にハマった。
その後、紆余曲折はあったものの柳も「知りたい」ことがあり、黒井がそれを知ることが出来るための場所を提供すると申し出た。
決して悪い話ではなかった。
そうして、今、柳はこんな生活をしている。
1人で知るために行動をしていたが、雲をつかむような話であったのは確かだ。そこに有利に働くのなら話に乗るのも悪くはないと柳は考えた。
「…めんどくせぇ…」
明日、起きてからのスケジュールを考えていたら柳は自然と言葉を零していた。
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