積もるのは嘘と気持ちと

どんころ

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ー始業の時間になり先生が教室に入ってきた瞬間、何か爽やかな香りがふわっと目の前を通り過ぎた。
驚いて入り口を見ると、高校生とは思えないほど体格の良く、精悍な顔立ちの男が少しその大きな体を屈ませながら教室に入ってくるところだった。
αは体格にも、顔の造形にも、頭脳にも恵まれると聞くが、本当なんだなと思いながら、その一挙一動から目が離せず、瞬きも忘れて見入っていると教壇の隣に立った男と目が合った。


その瞬間、あぁ出会ってしまったのだと僕は分かってしまった。
先生が転校生の紹介をするのを上の空で聞き流し、彼の方を見ないように机に顔を伏せることしかできなかった。

僕は戸籍上βとして登録されている。
βは人口のほとんどを占める、αのように優れてもいないが、Ωのようにフェロモンを出して誘惑したりもしない、ごく一般的な人だ。
僕の家族と診察した父の知り合いである医師以外は僕がΩであることを知らない。

12歳を過ぎると血液検査で第二の性が診断できるようになるが、調べることは義務ではない。
しかし、αやΩと診断されると国立学校に行けるなど利点がある為、調べる親がほとんどだ。
僕はこれを調べていないという事になっているが、既に12歳でΩと検査結果がでている。
父は医師に頼んでこの検査結果を隠蔽した。

それから数年間、Ωだとわからないようにヒートが始まる前から月に一度注射を打ち続けている。注射のせいで僕からフェロモンが出ることもなければ、ヒートを起こすこともない。
ヒートは通常Ωの体が成熟した16-18歳くらいから始まる繁殖行為のことしか考えられない発情期のことである。
項からフェロモンを出し、αだけでなくβをも誘惑する。
このヒートがあるため、Ωは男性であっても妊娠が可能となっているが、βより圧倒的にαの方が受精しやすい。
αとΩには相性が遺伝子レベルで良い、運命の番と呼ばれるものが存在するという。
ほとんど会う事はないとされているが、会えば分かると言い伝えられていたのは間違いではなかった。
一目見て彼は僕の運命だと分かってしまった。

僕のヒートは、18歳になったら家のためにΩとして出来る最大限のことをするため、注射によってとめられている。
それまでに何かがあっては困ると、βとしてこの田舎で過ごさせているのだ。
18歳というのはΩの保護法として最近制定されたれたボーダーラインで、元来余り体の強くないΩが成熟前に性行為をすると体の負担となり、その後不妊など悪影響を及ぼすため、どんな性別でも手を出すと逮捕されるという。

αが転校してきた事を父は多分まだ知らない。
18になるまであと3ヶ月と言えども、用心深いあの父が接触を許すはずがない。
初ヒートに戸惑うΩを買いたい男はごまんといて、そこから1番はぶりの良さそうな男を選び、話をつけてあると何度も聞かされた。

バレたら転校か、もしくはもう家から出れなくなるかもしれない。

1日でもその日が来るのが遅いといい。
永遠に来なかったらもっといい。

タイムリミットを伸ばすにはバレてはいけない。
念のため極力彼とは関わらないようにしよう。

…そもそも雲の上のようなαと関わることもないか。
そう思うとやっと少し息が楽になった気がした。
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