積もるのは嘘と気持ちと

どんころ

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蓮side6

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澪が寝ているベッドの横に椅子を持ってきて、腰掛けて手を繋ぐ。
前もこんなことあったなぁと思いながら、その時より相当痩せこけてしまった頬にそっと触れる。

あたたかさを感じて少し安心する。
まだ顔色は良くないし、見てるだけだと生きてるか心配になる。
でももう、絶対に自分の隣から離したりしない。
あんな風に嘘をつかせたりもしない。

一度離れたことで、逃してはいけないという本能がより色濃くなったのを感じながら、頬から手を離し両手で澪の片手を握りしめた。








結局その椅子でうとうとするだけで、朝を迎えた。
いつ目を覚ますか、その時に混乱するといけないからと考えるとなかなか眠ることができなかった。
顔を洗い、身だしなみを整えていると、ノックの音がする。

「はい。」
「お食事お持ちしました。澪音様の分は起きたらお持ちしますのでお申し付け下さい。専門医は8時にお見えになる予定です。」

いつもはおじいさん達と食べているが、今日は部屋に運んでやってと頼んでくれたのだろう。

感謝しながらベッドの隣で朝食を食べた。
お願いだから目を覚ましてくれと祈っていたが、専門医が来た時もまだ目を覚さないままだった。

医師は田中と名乗った。
30代後半くらいのΩの男性だった。
終わっている点滴を、新しいものに取り替えてくれる。
「夜中も目は覚まさず?」
「はい。」
「うなされたりは?」
「なかったです。」
「そう。診断書書かないといけないから、ごめんね、内診するよ。」
「内診ですか?」
「うん。君のお父さんから状況的に暴行を受けた恐れがあると聞いているから、証拠として残すためにね。悪いんだけど、君は少し席を外せるかな?内診して、採血したら声をかけるね。」
「…分かりました。」
先生に言われるまま部屋の外に出た。

ドアの音で俺が外に出たのに気がついたのか、2つ隣の部屋の扉が開いて、母さんと杏が出てきた。
杏の姿は夜は見なかったけど一緒に来ていたらしい。
ダダダと走るように近づいてきて足にギュッとしがみつかれる。
「おにーちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
雰囲気を察したのか杏が静かに聞いてきたのに答える。

「寝れた?」
「心配で寝れなかった。まだ目を覚まさなくて…」
「そっか。」
母さんが隣に来て俺の背中をさする。
「お父さんもおじいちゃんもあなた達のために動いてくれているから大丈夫よ。」
「父さんとおじいさんが?」
「昨日も2人で遅くまで何か話し合ってたわよ。」
「そうなんだ。ありがたいね。」
あとでおじいさんと父さんにお礼を言おうと思っていると、部屋の中から「もういいよー」と声がかかった。

部屋に戻ると、元通り布団をかぶせてもらった澪がベッドで寝ていた。
「言いづらいけど…暴行のあとは間違いなくあって、患部に軟膏を塗った方がいいけど、君が塗るのはちょっと辛いよね。採血結果まだ出てないけど、内診とこの状態を見るとね、入院した方がいいのかなと思う。」
「え。」
「意識もなかなか戻らないし、診た感じいい状況ではない。入院して安定剤投与しながら様子を見た方がいいと思う。目を覚まして、混乱してしまっても病院ならすぐに処置できるからね。」
「…わかりました。」
「お父さん達と相談してくるから待ってて。」

結局澪は田中先生の働く病院に入院が決まって、知り合いの病院だからと特別室にするようおじいさんが直接お願いしてくれた。
俺もお兄さんとの話が終わったら病院に行って泊まってもいいらしい。

「…君、まだ気が立ってるから抑制剤飲んだ方がいいかも。」
帰り際、先生はそう言って薬を取り出した。昨日来た医師から今日もフェロモンが出てたら渡すように言われていたらしい。
「抑制剤ですか?」
「うん。Ωの薬っていうイメージあると思うけど、α用のも今はよく使われてるんだよ。多分無意識だと思うけど、フェロモンがちょっと攻撃的だから、周りに負担かも。特に病院に来るときは、他の患者さんもいるし、スタッフも慣れていないから、ね?」

大体20歳くらいになると身体の成長の終わりとともにαのフェロモンは自分でコントロールできるようになるらしい。
無意識に出てしまっているらしいから俺はまだまだコントロールできていないということなんだと思う。
落ち着け落ち着けと言い聞かせながら、病院からの迎えの車が来るまで澪に寄り添った。

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