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1章
23.後輩との初仕事その3
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「大丈夫か?」
山賊が去った後、周囲を十分に見回してからへたり込んでいるルミエナに声を掛ける。
ぽーっと熱に浮かされたような様子で俺を見ている。
「どうした? やはりどこか痛むのか?」
「あ、いえ……だ、大丈夫ですけど……」
「なら良かった。怪我なんてして欲しくないからな」
怪我なんかして仕事に影響が出ると困る。
俺なら怪我をしてても動ける限り働くが、それをルミエナに求めるのは酷というものだ。
「い、いとーさん……そこまであたしを……た、たいせつに……」
「ああ。大事に思っている」
「ほ、ほわぁ……」
ルミエナの顔がますます赤くなった。
……もしかしたら怪我ではなく熱でもあるのかもしれない。それなのに勤務初日から突然仕事を振られても文句一つ言わずに同行してくれたのか……なかなか出来る後輩だ。
「そ、そいえばイトーさん怪我っ!」
「ああ背中か。さっきまで痛かったが今はもうなんともないな」
「それは麻痺してるだけですっ! やばいやつです! 治療します!」
パタパタと慌ただしく俺の背中に回り込む。
「うわ……ぱっくり……えと、これだと……98ページ――回復術一式」
回復魔術もあるのか。
せっかくの体験なのに既に痛みがないので回復してる感がないのがちょっと残念に思う。
「一応傷は塞ぎましたけど、あまり激しく動くとまた開いちゃう可能性があるので……」
え? もう?
凄いな回復魔術。外科医も驚きのスピードだ。
「ありがとう。やっぱり凄いなルミエナは」
「…………全然凄くなんかないです。さっきもあたしが失敗したせいで……」
沈んだ声。
さっきの出来事が結構響いているか……まぁ無理もない。
「あたしだめなんです。いつも失敗ばかりして色んな人に迷惑かけちゃって、ギルドにいられなくなって、他のギルドに移って、でもそこでもまた失敗して……」
「――失敗にはしてもいい失敗と、してはいけない失敗があるんだ」
俺にそう教えてくれたのは竹中さん。
新人だった俺が仕事でミスをしてへこんでいた時、これを教えてもらった。
「今回は前者、取り返しのつく、してもいい失敗だ」
「え、でも……あたしのせいで山賊を取り逃がしちゃって……証拠が……」
「証拠ならこれがある」
俺の背中に刺さっていた斧。山賊本人よりは格が数段落ちるが奴らの所持品には変わりない。それに奴らの容姿も特徴程度ならばっちり覚えている。成果としては十分だろう。
「だから今回みたいな失敗で必要以上にへこむことはない。というかへこむな。小さな失敗でいちいちへこんでいたら身体も心も保たないぞ」
新入社員の中には未熟者の癖して「完璧さ」を求める若者が多い。
だからちょっとの失敗や、失敗とは言えないような小さなことで躓いて起き上がれずにそのまま……という奴を俺は何人も見てきた。常に満点を目指す必要なんてない。合格点さえ超えていれば仕事はこなせる。許されるギリギリまでの妥協を覚えなければすぐに潰れてしまうのが社会だ。
俺が思うにきっとルミエナにはそれが出来ていない。
人の目を意識しすぎて、だからちょっと失敗してはギルドを転々として、結局は失敗を取り返す機会もなくただ逃げ続け、自分に自信を持つことが出来ない。
なら俺は先輩として、少しでも後輩の力になろうと思う。
「……じゃあ、してはいけない失敗をしたときは……?」
「へこめ。大いにへこめ。死ぬほどへこめ。死ぬことを考えるぐらいへこめ」
「ひぃ……」
「それで一通りへこんだら――俺が絶対に助けてやる。何としてでもな」
可愛い後輩を助けるのは先輩の役目。
――ですよね、竹中さん。
山賊が去った後、周囲を十分に見回してからへたり込んでいるルミエナに声を掛ける。
ぽーっと熱に浮かされたような様子で俺を見ている。
「どうした? やはりどこか痛むのか?」
「あ、いえ……だ、大丈夫ですけど……」
「なら良かった。怪我なんてして欲しくないからな」
怪我なんかして仕事に影響が出ると困る。
俺なら怪我をしてても動ける限り働くが、それをルミエナに求めるのは酷というものだ。
「い、いとーさん……そこまであたしを……た、たいせつに……」
「ああ。大事に思っている」
「ほ、ほわぁ……」
ルミエナの顔がますます赤くなった。
……もしかしたら怪我ではなく熱でもあるのかもしれない。それなのに勤務初日から突然仕事を振られても文句一つ言わずに同行してくれたのか……なかなか出来る後輩だ。
「そ、そいえばイトーさん怪我っ!」
「ああ背中か。さっきまで痛かったが今はもうなんともないな」
「それは麻痺してるだけですっ! やばいやつです! 治療します!」
パタパタと慌ただしく俺の背中に回り込む。
「うわ……ぱっくり……えと、これだと……98ページ――回復術一式」
回復魔術もあるのか。
せっかくの体験なのに既に痛みがないので回復してる感がないのがちょっと残念に思う。
「一応傷は塞ぎましたけど、あまり激しく動くとまた開いちゃう可能性があるので……」
え? もう?
凄いな回復魔術。外科医も驚きのスピードだ。
「ありがとう。やっぱり凄いなルミエナは」
「…………全然凄くなんかないです。さっきもあたしが失敗したせいで……」
沈んだ声。
さっきの出来事が結構響いているか……まぁ無理もない。
「あたしだめなんです。いつも失敗ばかりして色んな人に迷惑かけちゃって、ギルドにいられなくなって、他のギルドに移って、でもそこでもまた失敗して……」
「――失敗にはしてもいい失敗と、してはいけない失敗があるんだ」
俺にそう教えてくれたのは竹中さん。
新人だった俺が仕事でミスをしてへこんでいた時、これを教えてもらった。
「今回は前者、取り返しのつく、してもいい失敗だ」
「え、でも……あたしのせいで山賊を取り逃がしちゃって……証拠が……」
「証拠ならこれがある」
俺の背中に刺さっていた斧。山賊本人よりは格が数段落ちるが奴らの所持品には変わりない。それに奴らの容姿も特徴程度ならばっちり覚えている。成果としては十分だろう。
「だから今回みたいな失敗で必要以上にへこむことはない。というかへこむな。小さな失敗でいちいちへこんでいたら身体も心も保たないぞ」
新入社員の中には未熟者の癖して「完璧さ」を求める若者が多い。
だからちょっとの失敗や、失敗とは言えないような小さなことで躓いて起き上がれずにそのまま……という奴を俺は何人も見てきた。常に満点を目指す必要なんてない。合格点さえ超えていれば仕事はこなせる。許されるギリギリまでの妥協を覚えなければすぐに潰れてしまうのが社会だ。
俺が思うにきっとルミエナにはそれが出来ていない。
人の目を意識しすぎて、だからちょっと失敗してはギルドを転々として、結局は失敗を取り返す機会もなくただ逃げ続け、自分に自信を持つことが出来ない。
なら俺は先輩として、少しでも後輩の力になろうと思う。
「……じゃあ、してはいけない失敗をしたときは……?」
「へこめ。大いにへこめ。死ぬほどへこめ。死ぬことを考えるぐらいへこめ」
「ひぃ……」
「それで一通りへこんだら――俺が絶対に助けてやる。何としてでもな」
可愛い後輩を助けるのは先輩の役目。
――ですよね、竹中さん。
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