食べると未来が見えるようになるアポロチョコを長瀬香が手放した理由

シラサキケージロウ

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六粒目 再会、再び、池袋にて

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 窪塚馨は高校二年生である。彼は部活やクラブには所属していないから、週に四日入っているバイトの時間以外はフリーということになるのだが、彼はそういう日の大半をひとりで過ごす。自分自身、他人に気を遣ってしまう人間だと理解していた彼は、複数人よりもひとりでいることを好む。

 その日も、クラスメイトから送られたプールへの誘いを「バイトがある」と嘘をついて断った彼は、ひとり池袋で過ごしていた。

 池袋にはすべてがあるというのは馨の持論だ。実際のところ、食事も、ショッピングも、遊びも、大抵のことはここまで出てくれば事足りる。おまけに、適当に時間を潰して過ごすのにたいして金がかからないのも魅力的だ。千円払えば二本映画を観ることができる名画座もあるし、時間を潰すには困らない東急ハンズだってあるし、人混みに疲れたら雑司ヶ谷に逃げるという手もある。

 時刻は午後一時過ぎ。無印良品でキッチン用のタオルを数枚購入した馨は、その足で東口から歩いてすぐのところにあるジュンク堂書店まで向かった。ジュンク堂で購入した小説を読みながら、鬼子母神境内で団子をかじりつつのんびり過ごすというのが、馨にとっての贅沢な休日である。

 たまたま目についた森見登美彦の『夜行』の文庫本を購入し、ジュンク堂を出たその時、馨はバッタリ見知った顔と遭遇した。

「おや、窪塚くんじゃない」と手を振ったその人は長瀬香だ。本日の格好は、足首まで丈のあるドット柄スカートに無地の白シャツ、それにワンポイントのロゴが入ったキャップを合わせたスタイルである。
 
 馨が彼女から〝未来〟を見せられたのが二日前のこと。もう会うことは無いだろうと思っていたが、まさか再会するとは。しかもここまで早く。彼女の顔を見たその瞬間、馨はやわな現実が尽く破壊されたあの日のことを思い出し、にゃーにゃーという幻聴を耳に聞いて、やはりアレは実際の出来事だったのかと改めて実感した。

 一方の香はといえば、「相変わらず見えないねえ、君は」となんだか感心したように馨を眺めるなど、とくに普段と変わらぬ調子である。

 美人の前ではカッコつけたいのが男の子というもの。馨は内心ビビりつつも、それを悟られぬよう平然とした表情を作りながら「奇遇ですね。長瀬さんは仕事じゃないんですか」と訊ねる。

「残念。わたしはまだ大学生。夏休み真っ盛りなの」

 そう言って彼女は無駄に胸を張る。膨らんだ胸が突き出され、馨はとっさに視線を逸らした。

「これからちょっとした用事があってさ。その時まで時間潰してるんだけど、そっちは?」
「俺はバイトが休みなので、のんびりしてます」
「のんびりって、老後の爺さんじゃないんだから」

 呆れたように肩を落とした香は馨の腕を掴んだ。

「ま、いいや。ヒマなんでしょ? ちょっとお茶にでも付き合いなさいな」
「あ、いや。俺はひとりで――」
「いいから来なさい。歳上の言うことは聞くもんだよ」

 ぐいと腕が強く引かれる。不意打ち的な彼女の行動に驚き、恥ずかしがり、固まった馨は、されるがままに引っ張られるしかなかった。
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