夢の橋

夢人

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伯爵20

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 平手打ちから妙なわだかまりが総司と私に生まれたようだ。
 総司は何時ものように伯爵の警護で枢密院に出かけている。西郷は無事に鹿児島に到着したようだ。明治維新の正念場であると伯爵は考えている。再び内乱が起こると見ているようだ。私には博打場を開いている伯爵と枢密院に向かう伯爵は別人のように思う。
 私は平賀源内の手伝いで伯爵の計らいで刑場に出かけている。これは不思議な死体が見つかったと言う情報でここに来ている。裏木戸から入りそのまま小屋の中に入る。本日の処刑は終わったようだ。小屋の中から手袋を履いた医者が顔を出す。源内の顔見知りらしく会釈をしている。
「解剖が済めばいつものように穴に捨ててください。この状況は他言無用です」
 台の上に寝かされているのは全裸の女囚だ。歳は30歳頃か。私は用意してきた手袋と手術用具を袋から出して置く。源内は増子をしてメスを握る。体には首が付いていない。
「やはりな。これで2体目だ。見て見ろ鼠。心臓から消え始めている」
「溶けているのでは?」
「いや腐りも始まっていない。トラベラーだ」
「この世で死んだらこうなるのですか?」
「のようだな?心臓から内臓とどんどん消えていく。推測するに体が時間の歪みに吸い込まれていくのだと思う」
 私も総司も死んだら消えていくのだ。総司はだんだん総司自体になっていく。この世で総司として生きていくのかもしれない。私はまだ二つの世界に未練を残している。
 源内はメスで女のシンボルを切り取っている。
「どうするのですか?」
「消えていく瞬間を見てみたいのだ」
 私は丁寧に和紙に包んで袋にしまう。本当に何も残らないのか。




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