夢の橋

夢人

文字の大きさ
上 下
37 / 182

総司17

しおりを挟む
 ばらばらに隠れ家に引き上げてきた。私が一番で痺れた短銃を持った手を擦っている。慌てて迂闊にも片腕で撃ったのだ。玉はしっかり外れたが隊長の射撃を僅か狂わせたようだ。
「ありがとう」
 総司が部屋に入ってきた。額の端に血の滲んだ跡がある。
「まさか、玉が?」
「鼠が撃たなかったら即死だった」
 最近総司の目の色が変わってきている。私は立ち上がると総司の席を空けた。炬燵の上には酒の徳利を置いて飲んでいる。まだ緊張が収まらないのだ。総司も杯を手に取り私の入れた酒を一杯を飲む。
「腕を上げたな?」
「軽く切ることで多数と対決できると思った」
 総司も緊張しているのか荒い呼吸をしている。
「総司を遂に見つけたぞ」
「見つけた?」
「ああ、総司は立ち飲み屋の娘だった。でも私にはまだ気づいていない」
 興味があるのか私を思わず大きな目で見ている。剣を抜くと総司は目を細めるのだ。少し恥ずかしい気がする。
「どんな子だった?」
「新選組の漫画を持っていた。少し暗かったかな?」
 向こうの世界のことを少し覚えておくことができるようになっている。
「やはり暗い子だったのね?そんな気がした」
「次は覚えていてくれると嬉しい」
 総司はこくりと頷いた。
 襖が開いて蜘蛛と黒揚羽が戻ってきた。
「侍従長は無事だった。今回は警察ではなく親衛隊が調査を始めた。これは伯爵が依頼したようだ。これでしばらく暗殺団は動きが封じられることになりだろう」
「早々戻ることになるわ」
 黒揚羽が総司の横に座る。




しおりを挟む

処理中です...