夢の橋

夢人

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出会う5

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 今日から私と蜘蛛が変装して博徒の中に混じった。伯爵の屋敷でここほどスパイの入りやすいところはない。博徒の大半は男で女中は黒揚羽がすべて把握している。博徒は毎日通ってくるものが大半だが常時大広間で泊まり込む者もいる。およそ1日5百人ほどが出入りしている。
 もちろん書斎には博徒は入れない。書斎の本棚の裏に地下室の階段があるからそう簡単に入り込むのは無理だ。この本棚を守っているのは総司だ。総司は朝の剣の練習以外はこの本棚の前に真剣を持って座っている。
 元々蜘蛛は博打が好きだ。私は初めてで与えられた資金を3日ですってしまった。逆に蜘蛛は手元資金を倍に増やしている。時々黒揚羽がサイコロを振る。もろ肌を脱いだ艶めかしさは博徒のマドンナだ。30歳にも見えない若さだ。
「鼠は半ばかり賭けているといいわ」
 耳元で黒揚羽に囁かれて今日はそれを守っている。それでもう持ち金が倍になっている。蜘蛛曰くいかさまではなくて思い通りサイを出せるようだ。だから蜘蛛は黒揚羽が振る時は席を外す。
 私は博徒を見ていて5人ほどをマークしている。蜘蛛と話をするがまったくマークする相手が違う。夕刻に伯爵が博士の元に人力車で出かける。この時は蜘蛛が車夫になって警護に出る。
 私は疲れて書斎に戻って総司と弁当を一緒に食べる。この時が一番楽しいのだ。今までだったら総司は嫌がって背中を向けるのだが、今は結構話もするようになっている。
「不思議な夢を見た」
と総司が塩をつまんで酒を飲みながら話す。
「それは夢ではなくて向こうの世界でのことだよ」
「総司の漫画を読んでいたら総司は私と同じ女だった」
 それは私が総司に上げた10巻の漫画だ。きっと読んだのだ。
「それをくれた人覚えていない?」
「覚えていない」
 まだまだだ。
 突然総司が小柄を書斎の扉の隙間に投げた。書斎の扉は源内が作った鍵を使わないと開かない。
「今のは鍵の音じゃなくすーと開いた。右足に刺さったと思う」








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