夢の橋

決心11

「話すべきかな？」
　珍しく隣で寝ている総司に声をかけた。最近は書斎で寝ているのは私と総司と蜘蛛だけになっている。だが蜘蛛は帰ってこないことが多い。今日も蜘蛛の姿がない。総司はもう剣を取っている。一が来る時間なのだろうか。
「仕事どう？」
「新米の記者にはなれたかな？」
「一は警察庁を辞めるかもしれない。その話は？」
「たかのことだよ。どうも何か起こしそうな気がするのだ」
「伯爵も感じているのではないかしら？男の人はたかみたいな不思議な女に惹かれるようね？男と女にはかかわらないほうがいいよ鼠」
　そう言うともう総司は書斎を出て行く。私も書生の着物を着て風呂敷を持って庭に出る。すでに一が来ていて真剣を振っている。あの居酒屋には最近私は行っていないがあの二人は飲んでいるのかな。総司が真剣を抜いて一に構えている。瞬間に総司の剣が飛び込む。一の剣がやはり唸りを上げて総司に目がけて振りおろされる。それぞれが首のところで寸止めされている。腕を上げた。
　新聞社にとぼとぼと歩いていくと戻ってくる蜘蛛に会った。
「朝帰りですか？」
「ああ、つまらん朝帰りさ。あの浪士達大久保をやる気のようだ」
「どうして？」
「交代で大久保を見張っているのさ」
「たかは？」
「短銃を磨いている」
　それだけ言うと蜘蛛はもう路地から消えた。
「おい、鼠これから皇居に行くぞ」
と編集長の玄道が出かける用意をしている。私は写真機を背負う。
「これで流れが変わるかもしれんぞ。憲法に対する意見書が出るそうだ」
　伯爵は度々地下道から皇居に通っていた。恐らく伊藤の憲法案を押していたと思う。伯爵は天皇に発言権を与えようとしている。