夢の橋

日清戦争12

「伯爵止めておきましょう？」
「駄目だ」
　伯爵は籠っているのが耐えられなくなってクラブに行くと言ってきかない。私と総司は連日王族の亡命の準備で走り回っている。
「仕方がない。私が行く」
と総司が立ち上がる。伯爵に韓服を着せ私も付いていく。
　袁世凱が来ていると厄介なことになる。だが今日は軍人姿が少ない。代わりに朝鮮人が多い。保守派と言われる官吏達だろう。それに商人姿も多い。その中に混じってテーブルに座る。李が花籠を下げて売りに来る。
「２階席に袁世凱の傀儡の政府の要人が来ています」
　まだ私は朝鮮ことは詳しくない。だがホークが袁世凱の手先としてこの要人と繋がっているように思う。１刻半飲んでいるとホークと要人が降りて来た。周りにホークの部下が立ち上がっている。その中伯爵が立ち上がった。とんでもないことだ。たかが伯爵を捕えたようだ。弾丸が２つ鳴った。
　階段を降りて来た要人が階段に倒れた。伯爵を狙った弾は総司が咄嗟に押したので壁を貫いた。どうも伊藤のスパイが要人を狙っていたのだ。銃撃戦が続いて私は総司と伯爵を外に引っ張り出した。そこを待っていた李が路地に導く。警察の笛が鳴り響いている。
「この路地は怖くて誰も通らない迷路」
　人一人が通るのが精一杯だ。
「抜けていくと花街に出る」
「たかは私を狙ったのか？」
「狙いましたね」
　私は少し苛立たしく言った。あんな時に立ち上がるなんて。
「致命傷を外していました」
　総司がぽつりと言った。