夢の橋

夢人

文字の大きさ
上 下
155 / 182

日清戦争17

しおりを挟む
 半月も休んだ室長が冴えない顔で帰りがけに私を呼んだ。
「あの調査は乾に任せる。私はしばらく検査部に出向だ。それに私のパソコンの資料がすべて消えてしまった。お局が室長代行だ」
 それを聞いて席を立とうとすると、段ボール箱を抱えてきてお局が室長の席に座る。私は席に戻ってメールを見る。東からだ。すでに資料を渡して10日が経っている。6時半に何時ものカファエでと東から入っている。了解のメールを流して鞄を持って会社を出る。
 カフェのドアを押すと東がビールの小瓶を飲んでいる。
「報告が遅れたね?」
と言いながら2本目を頼んで私のグラスに入れてくれる。
「会長と会ったわ」
「寝たんだろう?」
「分かる。この方が早いのよ。70歳を超えて立つのを初めて体験したわ。すべてのクラブの債権を纏めて交渉した。即金で1億返済をした。取り立て料3割いい商売だった。今回は1000万で勘弁して?」
と言うと紙袋をテーブルに置いた。
「でもこれからよ。あの事件もう少し調べて?会長は1月の内3回私のマンションに泊まることになった」
 私は時計に目をやって急いで外に出る。今夜は総司と川崎の立ち飲みの前で待ち合わせしている。15分の遅刻だ。総司はスカートにブラウスでノートを持って立っている。
「悪い」
「いいのよ。店の周りを調べていたから」
 総司は今は店のリホームに精一杯だ。ここは総司が見本にしている店の一つだ。ここはカウンターは立席で壁側に長椅子に簡易のテーブルが付いている。総司は厨房を見たいとカウンターに並ぶ。ノートを出してスケッチをしながらメモを入れている。お互いにビールを手酌で飲む。
「夢を見るか?」
「覚えていない」
「今朝鮮で死を覚悟した戦いをしている。死ぬなら一緒に死ぬ」






しおりを挟む

処理中です...