夢の橋

夢人

文字の大きさ
上 下
182 / 182

夢の橋23

しおりを挟む
「いらしゃい!」
 総司の声が店に中に響く。義理母は最近はぎっくり腰で店に出ない。私と総司がエプロンをして10時から10時まで働いている。総司は子供ができないだけでなくまだ高校生のような若さだ。私は無精ひげを生やして常連も兄妹と疑わない。敢えて夫婦と伝えない。こちらでは単調な平和な生活が続いている。だが夢の中では子供を2人産んだのにまだ毎日のように抱いている。こちらの総司は体力がない。だがずいぶん明るくなった。
 久しぶりに義理母が降りてきてカウンターのウインナーを付け足している。総司は後ろに座っていて私はカウンターでビールの栓を抜いている。
「必ず結婚式を挙げるのよ」
 最近は義理母の口癖になっている。
 9時になると客は疎らになり総司が丁寧におでんをプラチックケースに移し冷蔵庫に入れていく。私は空いたビールの箱を外に出す。もうこれが日常の流れになっている。10時にシャターを降ろして先に総司を休ませる。私が3階の布団の中に潜るのは11時半だ。すでに総司は寝息を立てている。そっと体を抱いて私も夢の中だ。
 そのシャッターを降ろす30分前に黒のドレスを着た東が入ってくる。
「7年ぶりね?」
 総司が冷蔵庫の扉を開けたままこちらを見ている。私は無意識にビールを抜いた。
「とうとう私にもお迎えが来たわ」
「どういうことだ?」
「私はここ数か月変な夢を見るようになったわ。両手とも義手なの」
「ハルピンに?」
「そう。たかが私を引き寄せた。もう待てないようよ。総司、私の左腕を切った腕は見事だったわ」
 総司は凍りついたように見ている。
「このお金は残していくわ」
と通帳とカードの入ったケースを置く。私はウインナーを渡している。
 翌日テレビで蒲田の八環通りで車に飛びこんだ東のニュースを見た。その夜に私と総司はともにたかに東の目を見ていた。

                         

                              ≪完≫

ご拝読ありがとうございました。
『夢の橋』は私の新しいジャンヌになるかと思います。
『アユタヤ***続復讐の芽』を書き終えて心が気持ちよく疲れて、
ふと、東京に始めて出て新人として働いた時を思い出していました。
希望と言うよりも不安が多く仲間もできないで、
会社を出ると少し寄り道して蒲田と言う街に出会いました。
ここに無口な少女がいて私はいつもウインナーを2本頼むようになりました。
それが1年も経つころに私の顔を見ると2本を差し出してくれるのでした。
ここで夢を見たのが『夢の橋』でした。
このほのかな時間の中で続きを書きたうなと思っています。
                        夢人

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...