双思双愛

益 柚実枝

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第一章[日常]

私ですか?弟ですか?

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「ねぇねぇあれ見てあれ!」

「ほんとだ!」

「やっぱりこの学校来るって本当だったんだ」

「身長高くてかっこいい」

「はだしろっ...かみさらっさら...」

 複数の人が、雪と私が一緒に歩くのを少し離れたところで見ている。こちらを見た様々な感想が飛び交うが、皆一様に喜びを口にしていた。

「相変わらずの人気ですね。反応してあげたらどうですか?」

 雪のほうを見て、口に笑みを浮かべからかうように言う。

「勘弁してくれ...こればっかりはどうにも慣れないんだ。」

 雪がこう言うのも無理はない。なんせ学校の最寄駅から約五分ずっとあの感じだ。

「そうは言っても、今日から三年間はここを通るんですから。」

「それはそうなんだけど...」
 
 今日は高校の入学式。桜舞い、新しい出会いと新しい日常の始まりの日。もっとも、今舞っているのは桃色の花びらではなく黄色い声なんですが。

「別々の高校にしなくてもよかったのか。」

 雪は心配した顔でそんな風に聞いてきた。何故そんなことを聞くのだろうか、もしかして嫌だったのか。と一瞬考えたが、すぐに雪が何を言いたいのか理解できた。

「隣にいる女だれ」

「もしかして彼女とか」

「なんで雪君の隣にいるのよ」

 このことだろう。世界的にも有名な歌手である。それだけでもよく思わない人が一定数いる。中学生の時にも、そのせいで一定の女子から嫌われていた。だからといって、そのせいで雪の傍を離れるのは癪なので、離れる気はこれっぽっちもない。

「別にいいですよ。」

 雪から姉がいると明言すれば、私を嫌う人も少なくなるのだろう。でもそれはそれで面倒なことがおきるので、このままのほうが気楽でいい。

「姉さんが言うならそれでいいけどさ。」

 そんな話をしていると私たちが入学する高校の門が見えてきた。門の横にはでかでかと
東京都立自由之宮高等学校とうきょうとりつじゆうのみやこうとうがっこう
と書かれていた。そのまま視線を横にやると、そこには見覚えのある人が立っていた。

「久しぶりだな、雨宮。」

 変わらないその挨拶に懐かしくもなりながら、いつものように返事した。

「私ですか?弟ですか?」
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