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 治療院からそのまま城に向かうと、先ずは自分の執務室に向かった。普段の制服姿ではないせいかスレ違う人達が振り返るが、誰も話し掛ける事なく執務室の前に付くと部下と出会でくわした。

「団長!?今日は銀色の生き物の討伐だったのでは?まだ、昼前ですよ」

「討伐は完了した。生き物の身柄は一旦、ギルドで預かっている。それより、指示した調査はどうなった?」

「はっ!現在、三名が聴き込み中です」

「午後一で分かった範囲で良いから報告を頼む」

「了解しました!」

 部下の返事を確認した後で執務室のドアに手を掛けた時、ドアノブの違和感に気付いた。何だ……部屋の中から魔力が流れている。この魔力……ダイが夕べのうちに何か仕掛けていたのか?いや待て。アイツは俺が団長だと知らなかったな。それに止めを刺したから彼が仕掛けたなら魔力は消えるはずだ。

「サージスはいるか?」

「はっ!」

 ドアノブから手を離さずに部下の名前を呼べば、彼は直ぐに現れた。流石、騎士団随一の隠密だ。

「すまないがここに結界を張って欲しい。対上級魔法用の強力な物だ」

「団長、理由を尋ねても?」

「部屋に何か仕掛けてある。被害を最小限にする為に結界が必要だ」

 部下の息を飲む音が聞こえたが、俺は何も言わず彼が結界を完成させるのを待った。

「団長……完了しました」

 部下の言葉に合わせて魔力を広げ周囲に人がいないか確認する。良し誰もいないな……さて、何があるやら。

「ありがとう。“開放オープン”」

 自分が剣を構えただけで部下も臨戦態勢に入る。部下に視線で合図してからドアを引いて開けると、中から氷の槍が飛んできた。全ての槍を剣で打ち落とし中に進むと、椅子に座って笑うジェットがいた。

「あーぁ、折角ムカつくアンタを始末出来るチャンスだったのに、ダイもバカだねぇ」

 さっきの魔法は上級。コイツは上級魔法の使い手だったか?いや、そんなはずは無い。上級が使える騎士は魔法騎士のみ。それにさっきの攻撃魔法……ジェットとダイから感じる同じ魔力の理由は恐らく……

「双子か」

「ご名答。流石ですね騎士団団長様」

 人を小馬鹿にするように笑みを浮かべながら拍手をするジェットは、無反応な俺に不満げな表情に変わった。
 ごく稀に魔力が同じ双子が産まれると魔術師から聞いた事がある。しかし、その場合、片方の魔力が少なくなる傾向があると言っていたが……そうなると答えは一つしか浮かばなかった。

「ダイが“ハイド・ローベル”か」

「チッ……そこまで調べたのかよ。ほんと嫌なヤツだな」

 魔力上昇に異常なほど執着したのも片割れに追い付く為か。それならばダイが取った行動が半分は理解出来る。

「ダイが魔力に執着したのも貴様が原因か」

「魔力の事なら双子だから仕方無いだろう?それなのにアイツは魔力を上げても俺に吸い取られるなんて言ってさぁ。俺は悪く無いよ」

 話をしながらヤツの様子を伺っていると、机の上に置かれた書類を勝手に触り始めた。コイツの魔力が以前ほど感じない?双子の片割れが亡くなるとバランスが崩れるのかもしれないが……何か可笑しい。

「重要書類なんで触らんで貰いたいな」

「そうなんだ。関係無いね」

 ヤツの気を反らす為に指摘すると、腹が立ったのかカッと目を見開き右手を突き出した。魔法を使う気か?それにしては時間がかかり過ぎだ。

「糞真面目で本当にムカつくよ、アンタなんか大嫌いだよ団長さん」

「そうか気が合うな。俺も嫌いだ」

 手を突き出したまま動かないヤツの気を反らしながら、魔力を剣に溜めると視線を動かす事なく無言で剣を下から上へと振り抜く。すると斬撃に水の魔力が上乗せされ普段の倍ほどの威力で衝撃が飛び、ヤツの右手から肩まで切付けた。切られた痛みで傷を押さえて踞まったヤツの首に手刀を入れて気絶させた。
 
「団長、何故ここに彼が」

 部下がジェットに駆け寄りロープで縛り上げる。こんなにあっさりと終わるか?やはり何か可笑しい。先ほど突き出した手は何だったのか……

「……サージス離れろ!」

 異様な気配を感じて部下に下がる様に指示すると、剣を構えてヤツに向き直る。床に仰向けで転がっているヤツの体から、靄が吹き出し部屋を白く塗り潰していく。何が目的か知らんがサージスの結界のお陰で、今の所は部屋の外に影響は出ていないな。

「サージス、剣でこの霞を斬る」

「了解」

 真っ白い部屋の中から部下の返事が聞こえる。声は伝わるらしいな……視界がないなら魔力で視るか。目を閉じて魔力を広げ確認すると、ジェットの胸元辺りに強い魔力を発する何かを見つけた。自分の回りにだけ結界を張り靄を避けながらヤツの体に触れると、バチッと大きな音をたてて弾かれた。

「団長!どうされましたか!!」

 廊下からも部下が呼ぶ声がするが、恐らく結界のせいで入れないから焦っているのだろう。だが今は目の前のヤツに集中するしかない。ヤツの体を覆うように広がる靄と小さな雷を、土属性の魔力を纏わせた剣で薄皮を剥ぐように徐々に斬っていく。神経を使う作業の中、やっと魔力の発する物に辿りついて剣先で壊す。硬い物にヒビが入った様なパリンと軽い音が響いた。

「今の音は一体……」

 靄が止まり徐々に視界が戻り始め、廊下にいる部下の姿も見えるようになると更に騒がしくなる。俺の足元にはジェットが縛られているし、先ほど破壊した物は、中心に宝石のついたブローチに見えた。そっと手を出し弾かれない事を確認してから手に取ると、何の変哲も無いアクセサリーに見えたが中心の宝石に見覚えがあった。

「これは……魔法道具マジックアイテム

 ルーシーが見せてくれた父親の残した魔法道具。その装飾に使われている宝石によく似ているブローチは、彼女が持っていた物と違って禍々しい雰囲気を漂わせていた。……これを調べるのは専門家に任せるか。それより

「至急、内通者を探せ。ジェットがどうやって脱獄したか調査せよ」

「「了解!」」

 執務室駆け付けた部下に指示を出すと、短い返事と共に各々が持ち場へ散る。ある程度、各自の裁量に任されている魔法騎士達にはこれで良い。後は騎士団の部隊長を呼び城内の不審者の洗い出しを頼んだ。


……さて、面倒臭いが魔法道具はアイツに頼むか……

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