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気が付くとフワフワ浮く様な微睡みの中で、誰かの声が聞こえる。誰の声?
『この子が君の魔法道具の本当の持ち主なの?』
『そうだ。分かったら帰れ』
『ちょっと待ってよ、もー少しだけ』
『話なら俺が分かる範囲の話をしただろう。彼女は怪我をしているんだ。さっさと帰れ』
団長さんと……誰かしら?聞いた事の無い声だわ。私、怪我した?あぁ、そうだったわ。ダイに刺されて……あら?回復薬を飲んだはずなのに体が重いわ。何故かしら?
『怪我って彼女は寝ているだけに見えるけど?』
『院長の話では強い薬の影響だから、損傷した傷が完全に回復すれば目を覚ますらしい』
『へぇー、それで何時、目を覚ますの?』
『さぁな。今日か明日には目を覚ますだろうと言っていたが正直、分からん』
『残念だなぁ。目を覚ましたら話がしたいって伝えといてよ』
『分かったから帰れ。本当にお前は煩い』
団長さんと誰かは気安い雰囲気で話していて、仲が良さそうに感じた。楽しそうで良いわね。私も話してみたいわ……起きなきゃ
「ルーシー」
先ほどより近くで団長さんの声が聞こえる。一人で戻って来たのか他の声はしなかった。
「早く……戻ってこいよ……戻ってきたら話したい事が沢山あるんだ」
戻ってこいって私が遠くへ行ったみたいじゃない。私はここにいるわ。
「俺が躊躇わずに早く斬っていれば……」
バカねぇ……懐に飛び込んだのは私の判断。団長さんが躊躇った時、すでにダイの爪は深く食い込んでいたわ。誰も悪く無いのに本当に……
「バカねぇ……何を言っているのよ」
「ッ!!……ルーシー……」
声が出たと思うと体が少しだけ軽くなった。ゆっくりと瞬きを繰り返しながら目を開けると、目に涙を溜める団長さんの顔が見えた。大の男がこんなことで泣かないの……本当に可愛い人ね。
「おはよう団長さん……ちょっと寝坊しちゃったみたいね」
「……全くだ。寝過ぎだルーシー」
私を確かめる様に顔に伸ばされた手に頬を押し付ける。温かく大きな手には剣タコが沢山あってゴツゴツしていた。
「なんだか体が重いわ」
「院長が君の薬は強過ぎたと言っていたぞ」
「あぁ、団長さんがくれた薬は特別製だったわね……飲む薬を間違えたわ」
まだ少しぼんやりする頭で考えていると、団長さんは私から離れて通信機で何処かに連絡している。誰に連絡しているのかしら?……私を見てよ……
「ルーシー?」
「なぁに」
「……まだ具合が悪いのか?」
「なんだかフワフワするわ……浮いているみたいに……」
「そうか」
一言だけ言うと団長さんは、ベッドの脇に座り布団をかけ直してくれる。腕を伸ばして彼に触れたくなったけど、全身に重りを乗せた様に力を入れても体は動かなかった。
バタバタと廊下を走る音が聞こえたかと思うと、ドアが大きな音をたてて開き院長が肩で息をしながら入って来る。真っ赤になった顔はオーガみたいで笑いが抑えられなかった。
「ルーシー、何が可笑しいんじゃ?」
「院長……オーガみないな顔になっているわ」
「……グッ」
つい思った事を言葉にすると団長さんが吹き出して顔を反らす。笑いを堪えているのが分かるくらい彼の肩は揺れていた。ほら、団長さんだってそう思ったんじゃないの。
「お前は……このバカモンがぁ!!」
院長に怒られた後、診察を受けて状態を確認して貰うと、あと半日程で動けると言われた。半日……長いわねぇ。
「……暇だわ」
「ルーシー」
「言っただけじゃない」
院長に睨まれ上半身すら起こす事が出来ない程の倦怠感に、私がため息をつくと団長さんが寝ている間に片付いた事を教えてくれると言った。
「院長、話だけなら問題ないんだろう?」
「……二人共、話すだけじゃぞ」
団長さんが了承すると院長は仕事に戻って行った。そう言えば院長が直ぐに来たから、ここは治療院なのね。
「ルーシーが寝ている間に厄介な事があったんだ」
そう言って始まった話はギルマスと団長さんが私を治療院に連れて来てくれた後の話。団長さんが城に行くとジェットが脱獄して執務室に入っていたらしい。しかも……
「魔法道具を持っていた?」
「あぁ、どうやら君の祖父の持ち物だったらしい。もしかしたら君の父親が持っていた武器と同じ物かもしれない」
「そう……父から聞いた事は無いわね……父の日記が見付かれば何か分かるかもしれないけど……」
そこまで言ってから自宅が壊れた事を思い出した。魔法道具も気になるけど住むところ探さなくちゃいけないわね。
「君達の家だがメイソンが現場検証が終わり次第、無事な物は回収して預かるそうだ」
「そうなの……住むところが決まるまで預かってくれるのかしら?」
「どうだろうな。ギルドが駄目なら俺の家に置いて置けば良いだろう」
「ありがとう……早く家を探さなくちゃね」
動けるようになったら先ずはギルマスに聞いてみよう。そんな事を考えていると、団長さんが何か言おうとして止めた。
「団長さん?」
「いや……父親の日記の特徴はあるか?メイソンに探させる」
「特徴……黒い私の手のひらに乗るくらいの大きさの手帳よ……鍵がついていた気がするわ」
父の日記の特徴を伝えながら部屋の中を考える。棚やベッドの下は探したから……
「もしかしたら床下とか棚の裏とかに隠したのかもしれないわ」
「そこまでするのか?」
「家の事で揉めた時、必死で探したけど見付からなかったの。探していない場所はそこくらいなのよ」
「分かった必ず伝える。他に気になった事は無いか?」
「うーん……今は思い浮かばないわ。気付いたら伝えるわ」
大きく頷いた団長さんが、制服のポケットから何か取り出すと私の手のひらに乗せた。小さな……イヤリング?
「それは小型の通信機で俺の通信機に直接繋がる」
「こんなに小さな通信機があったの?」
「いや、魔術師に特別に作って貰った。何時でも連絡してくれ」
「……ありがとう……」
手のひらに乗るイヤリングを見詰めていると、団長さんが私の耳に着けてくれた。
「仕事に戻るが、また、明日来る」
動けない私はベッドの中から団長さんを見送った。急に部屋が静かになったせいか、なんだか寂しくなって重い腕を動かしてイヤリングにそっと触れる。
「寂しいなんて……私……変ね」
『この子が君の魔法道具の本当の持ち主なの?』
『そうだ。分かったら帰れ』
『ちょっと待ってよ、もー少しだけ』
『話なら俺が分かる範囲の話をしただろう。彼女は怪我をしているんだ。さっさと帰れ』
団長さんと……誰かしら?聞いた事の無い声だわ。私、怪我した?あぁ、そうだったわ。ダイに刺されて……あら?回復薬を飲んだはずなのに体が重いわ。何故かしら?
『怪我って彼女は寝ているだけに見えるけど?』
『院長の話では強い薬の影響だから、損傷した傷が完全に回復すれば目を覚ますらしい』
『へぇー、それで何時、目を覚ますの?』
『さぁな。今日か明日には目を覚ますだろうと言っていたが正直、分からん』
『残念だなぁ。目を覚ましたら話がしたいって伝えといてよ』
『分かったから帰れ。本当にお前は煩い』
団長さんと誰かは気安い雰囲気で話していて、仲が良さそうに感じた。楽しそうで良いわね。私も話してみたいわ……起きなきゃ
「ルーシー」
先ほどより近くで団長さんの声が聞こえる。一人で戻って来たのか他の声はしなかった。
「早く……戻ってこいよ……戻ってきたら話したい事が沢山あるんだ」
戻ってこいって私が遠くへ行ったみたいじゃない。私はここにいるわ。
「俺が躊躇わずに早く斬っていれば……」
バカねぇ……懐に飛び込んだのは私の判断。団長さんが躊躇った時、すでにダイの爪は深く食い込んでいたわ。誰も悪く無いのに本当に……
「バカねぇ……何を言っているのよ」
「ッ!!……ルーシー……」
声が出たと思うと体が少しだけ軽くなった。ゆっくりと瞬きを繰り返しながら目を開けると、目に涙を溜める団長さんの顔が見えた。大の男がこんなことで泣かないの……本当に可愛い人ね。
「おはよう団長さん……ちょっと寝坊しちゃったみたいね」
「……全くだ。寝過ぎだルーシー」
私を確かめる様に顔に伸ばされた手に頬を押し付ける。温かく大きな手には剣タコが沢山あってゴツゴツしていた。
「なんだか体が重いわ」
「院長が君の薬は強過ぎたと言っていたぞ」
「あぁ、団長さんがくれた薬は特別製だったわね……飲む薬を間違えたわ」
まだ少しぼんやりする頭で考えていると、団長さんは私から離れて通信機で何処かに連絡している。誰に連絡しているのかしら?……私を見てよ……
「ルーシー?」
「なぁに」
「……まだ具合が悪いのか?」
「なんだかフワフワするわ……浮いているみたいに……」
「そうか」
一言だけ言うと団長さんは、ベッドの脇に座り布団をかけ直してくれる。腕を伸ばして彼に触れたくなったけど、全身に重りを乗せた様に力を入れても体は動かなかった。
バタバタと廊下を走る音が聞こえたかと思うと、ドアが大きな音をたてて開き院長が肩で息をしながら入って来る。真っ赤になった顔はオーガみたいで笑いが抑えられなかった。
「ルーシー、何が可笑しいんじゃ?」
「院長……オーガみないな顔になっているわ」
「……グッ」
つい思った事を言葉にすると団長さんが吹き出して顔を反らす。笑いを堪えているのが分かるくらい彼の肩は揺れていた。ほら、団長さんだってそう思ったんじゃないの。
「お前は……このバカモンがぁ!!」
院長に怒られた後、診察を受けて状態を確認して貰うと、あと半日程で動けると言われた。半日……長いわねぇ。
「……暇だわ」
「ルーシー」
「言っただけじゃない」
院長に睨まれ上半身すら起こす事が出来ない程の倦怠感に、私がため息をつくと団長さんが寝ている間に片付いた事を教えてくれると言った。
「院長、話だけなら問題ないんだろう?」
「……二人共、話すだけじゃぞ」
団長さんが了承すると院長は仕事に戻って行った。そう言えば院長が直ぐに来たから、ここは治療院なのね。
「ルーシーが寝ている間に厄介な事があったんだ」
そう言って始まった話はギルマスと団長さんが私を治療院に連れて来てくれた後の話。団長さんが城に行くとジェットが脱獄して執務室に入っていたらしい。しかも……
「魔法道具を持っていた?」
「あぁ、どうやら君の祖父の持ち物だったらしい。もしかしたら君の父親が持っていた武器と同じ物かもしれない」
「そう……父から聞いた事は無いわね……父の日記が見付かれば何か分かるかもしれないけど……」
そこまで言ってから自宅が壊れた事を思い出した。魔法道具も気になるけど住むところ探さなくちゃいけないわね。
「君達の家だがメイソンが現場検証が終わり次第、無事な物は回収して預かるそうだ」
「そうなの……住むところが決まるまで預かってくれるのかしら?」
「どうだろうな。ギルドが駄目なら俺の家に置いて置けば良いだろう」
「ありがとう……早く家を探さなくちゃね」
動けるようになったら先ずはギルマスに聞いてみよう。そんな事を考えていると、団長さんが何か言おうとして止めた。
「団長さん?」
「いや……父親の日記の特徴はあるか?メイソンに探させる」
「特徴……黒い私の手のひらに乗るくらいの大きさの手帳よ……鍵がついていた気がするわ」
父の日記の特徴を伝えながら部屋の中を考える。棚やベッドの下は探したから……
「もしかしたら床下とか棚の裏とかに隠したのかもしれないわ」
「そこまでするのか?」
「家の事で揉めた時、必死で探したけど見付からなかったの。探していない場所はそこくらいなのよ」
「分かった必ず伝える。他に気になった事は無いか?」
「うーん……今は思い浮かばないわ。気付いたら伝えるわ」
大きく頷いた団長さんが、制服のポケットから何か取り出すと私の手のひらに乗せた。小さな……イヤリング?
「それは小型の通信機で俺の通信機に直接繋がる」
「こんなに小さな通信機があったの?」
「いや、魔術師に特別に作って貰った。何時でも連絡してくれ」
「……ありがとう……」
手のひらに乗るイヤリングを見詰めていると、団長さんが私の耳に着けてくれた。
「仕事に戻るが、また、明日来る」
動けない私はベッドの中から団長さんを見送った。急に部屋が静かになったせいか、なんだか寂しくなって重い腕を動かしてイヤリングにそっと触れる。
「寂しいなんて……私……変ね」
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