秘密組織で改造された二重人格の俺は全世界を破滅させることにしました

草薙銀之介

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第二話 リエ=藤松=グランフィールド

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 翌朝、体中が痛くて起きた悠は、まだ日が上がりきっていない時間帯にも関わらず、何も考えないで天井を眺めた。

「起きたか、悠……」

 狂は昨日の闘いで負けたことをどう話すか、これからも悠の代わりに戦えるのか、その様な資格が有るのかと自身で繰り返す。

 悠が生返事をして様子を見るも、回答も無ければゴールもない様な迷路に突入している狂には、それがプレッシャーにも思えた。

 長い沈黙の中で、個室のベッドから悠はテレビのスイッチを入れて、ニュース番組が表示されると、次のニュースが始まった。

『次のニュースです。昨日の夕方四時ごろ、AIを使用した凶悪犯罪組織による事件が発生しました。調べに拠りますと……。』

 二千四十年頃には全世界の殆どがスマート化、それ以来から二千五百年までの約五世紀の間に、AIに関する事件がより複雑化した。

 警察や軍隊または日本なら自衛隊など、サイバーテロやネットワーク犯罪は当然、警視庁やFBI等の警察内では特化チームの編成。

 サイバー系捜査員や特化チームとの連携、更に対AI特殊対策本部の設置等、世界中の警察や軍隊が状況に合わせて機能する。

『次のニュースです。おとといの昼頃、医療特化型AIによるデイサービス分野で、アンドロイドAIの神対応の様子です……。』

 画面が切り替わると施設内の映像が流れるが、凶悪犯罪が増えても医療関係の施設で、十二分に活躍するAIもいる。

 五世紀以前と比べて精神的な後天的障害は減って、大分スッキリしたスマート環境が増えたが、一部の延命人類も存在する。

 今ではサイバー上に意識データを移住させたり、コールドスリープから復帰したり、それ以外に義体化等の延命措置が普通。

 そうした延命技術をこうじた人類、それが『延命人類(ファーストオルディア)』であって、中には細部に遺恨を遺す者も存在する。

 そこへのアプローチでブチギレた者へ、福祉向けのメイルアンドロイドが神対応する場面が、報道メディアから発信されていた。

「これまでの様々な事情が存在して精神がこじれても、また昨今の凶悪犯罪も後を絶たない中、社会不安も煽りを受けています。

 ですが、今は殆どクリーンで快適な時代であって、私達のようなアンドロイド型AIの従事で、更に安心できる様に努力します。」

 このようなことを謂わせてしまっては、さすがに当の老夫も閉口しながら忍し黙って、ゆっくり自分の寝台に戻っていった。

 そこへ、戸を叩く音がした途端に開いたと思うと、誰かが悠の病室に入ってきて、悠を見下ろすと一言口を開いた。

「アンタが黒田悠ね。 教務室にみんな集まってる。着替えて早く来て!」

 強くも華奢な声が低身長の少女から出てきては、ふりんと金髪のツインテールを振りながら、青く透き通る瞳で見据える。

 少し引き気味になりながら悠は無言だったが、少女は仕方ないと割り切って、言葉足らずかともう一言付け足した。

「筆記試験のとこよ。わかったら早くして。伝えたから。」

 要件が済んだと納得したのか、背を向けたまま繰れていた瞳を扉側に戻して、少女はさっさと静かに気品よく去って行った。

 悠はこの間の制服に着替えて病室を出たが、あまり記憶出来てないだけに、何処か分からないで廊下を歩き廻った。

 そうしていると、教官女が来て静かに強く「こちらだ」と云って、悠をユウだけに誘導して、教務室へと連行されてゆく。

 部屋に入ると既にZ席以外は全て埋まっていて、殆どの者が悠へ目を向けてくるには、なんだかソワソワして堪らない。

 その席へ着くと何かヒソヒソと聞こえて来るが、やはり『あの試合』と今の『実質的な遅刻』が、原因だと思って緊張する。

 『あのときのあいつが?』とか『そうは見えない』とか、その他にも『やっと始まるか』など、室内がザワザワしてくる。

 しかし、そこは教官女の静止が瞬時に抑えて、悠の事情や療養が必要だったことを説明するのを、自由な体勢で一同は謹聴した。

 その中には剛力の顔もあったが、今はとにかく教務の進行に流されることにして、悠は教官女の方に向いて置くことにした。

 出席点呼を席名とセットで取る時に、真っ先に呼ばれるのは朝のあの少女だったが、リエ=藤松=グランフィールドは返事をした。

 やたらと剛力がニヤニヤすれば、A席で様よくして教務に合わせる少女の背面が、左斜端にいる悠のZ席からよく見えた。

 A席に在ってすべての評価が高水準だったことも、ランク戦の優勝者であることも、初日の朝に教官女が云っていたらしい。

 しかし、失血やスキルラッシュ等で、悠は無理をしたせいか三日の間は寝こんでいて、その間に発表があった事を知らない。

 最後に悠が呼ばれたときにはZ席で通ったが、試験内容は確かに自身はなかったし、狂が闘っても、結局は体力面が響いたのか。

 ほかの者は悠が知る限りナリに済ませていたが、それがうらやましくもありながら、闘いにおける『一番肝心な体力』が足りない。

 呼ばれるまでの間、悠は段々とソワソワし始めるが、案の定そのまま呼ばれれば、『この席順は正式に決まった』とわかる。

 ケタケタとわらう者やあざけるような顔をする者、確かにリエのように整然とする者も在ったが、狂は「悠、気にするな」という。

 自分の代わりに苦痛も逆境も我慢して闘った者へ、『有りもしない怒り』を喰らわせる根性など、どうやっても悠には微塵もない。

 朝の八時半辺りから1時間半ほど経つと、小休憩が挟まれたのでまた喧しくなったが、その時は剛力勢で悠をギラギラと観ていた。

 リエの方も女子がA席に集結して悠を瞥視してはスルーして、大きく見て2つ以上の勢力が、この三日間で既に成立していた。

 先の時間には悠が不在の間に済ませたこと、既に立派な士官で在ることや、秘密組織の者として肉親にすら他言無用等の説明。

 次の時間は何をするのかと思えば、『士官における最重要なことに就いて』、このレポートを明日までに提出する課題を出した。

 そのまま教官女は部屋を出たが、一部を除いて違えているのか、各勢力に分かれてザワザワ始めれば、悠を観てニヤニヤする。

 リエ勢の者はほぼ同時にワークモードを解除して、教室内の様子を正面を向きながら、悠たちを腕を組んて静観していた。

 時は十二時の昼休みになって三十分ほど経つと、狂の懺悔と悠の礼と併せて昼食を済ませると、狂の予想通りに剛力勢が来る。

 相手にするなと静止したところで、悠は付いて行ってしまうのも予想通りだったが、柱の裏で伺う小さな気配までは気づかない。

 校舎裏に着くと剛力のワンインチを腹に喰らって、軽く吹っ飛ばすと怯む悠に鬼の如く見下しながら、殺気をむき出しにしている。

 やはり貯めていた怒りを吐き出す機会に、いよいよとモリモリに燃えに燃えて、これでもかと威圧して悠を見下す。

 悠の怯えるリアクションに勢力一同高笑いして、必要以上に罵倒してはケラケラ笑う間に、剛力の足で蹴られまくる悠。

 もう我慢できんと飛び出しかけた狂は、先の闘いで大敗していたことを思い出して、どうする事もできないのかと諦めかけた。

「弱い者イジメなんて、サイッコーにダサいわね、アンタ達……。」

 何かと思うと例の高飛車ロリの金髪ツインテール、ときのAランク美少女戦士セー……ではなく、リエ様が武力介入なされた。

 狂でも勝てない相手とその他もも併せて、ものの五分程度ですべて倒す様は、一瞬過ぎるほどに思えてよくわからない。

「またやったら今度はコロス……」

 静かに見据えながらも鋭く刺さるような瞳を飛ばすと、剛力勢一同は慌てて逃げ去るを見届けて、今度は悠にもそれを向ける。

 狂が例を云おうとすると目線が刺さってやや怯もうと、自分の限界を超えていない事実も、同時に狂そして悠にも刺さった。

「何が目的だ、テメェ……」

 狂は何故か覚えぬ内にリエを見てはにらみつけて、この様な事を聞いて仕舞ったのか、その返答は意外にもアッサリしていた。

「Aランクで学務委員長だからよ……。」




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