見えない明日に揺れる僕たちは

多田莉都

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第2章

体育大会 3

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 体育大会の朝は、雲一つない青空が広がっていた。
 絶好の天気の中で中学最後の体育大会が始まった。応援や歓声の声が飛び交い、いつもの学校とは全く違う雰囲気になっていた。僕もこの雰囲気は好きで、テンションが上がってくる。

 順調に種目が進んでいったが、そんな中でアクシデントが起きた。
 リレーに出るはずだった女子の高峰さくらが全員競技の騎馬戦で足を捻ってしまったのだ。最初は「走るよ」とさくらも言っていたが、足を軽く引きずっている状態だった。

「これで走らせるわけにはいかないですね。代わりに誰かに走ってもらいましょう」

 濱田先生が言った。
 誰が代わりに走るんだ? とみんながきょろきょろし始める。さくらは小学校の頃からリレー常連で足が速かった。対抗できるならこのクラスでは美咲ぐらいだけど、その美咲もまたリレーを走る。ほかのクラスも学年上位の足の速さの女子が出てくる。
 先生が女子を見渡すと、みんな目線を合わせたくないかのようにやや俯きはじめた。さすがに僕もここを仕切ることはできない。どうしたものかなと思っているときだった。

「彩夏なら……走れるよね?」

 美咲が言った。女子も男子もみんな柴崎彩夏に注目した。彼女は大きな目を少しだけ見開いた。

「私?」
「うん。みんな知らないかもだけど、彩夏は速いよ。スポーツテストで50mほとんど同じくらいだったよね?」
「……美咲のほうがちょっと速かったけどね」

 不敵に柴崎彩夏が微笑むと、

「なんかあのときは遠慮されてた気もするけどね」

 美咲も微笑み返した。スポーツテストで柴崎彩夏は本気ではなかったという意味だろうか。それに対し、彼女は首を左に傾けるだけだった。

「さくらの代わりができるなんて彩夏ぐらいしかいないよ」

 美咲が言った。
 みんなの視線を浴びながら彼女はどう反応するのか、何か助け船は出すべきかと思ったが、それは不要だった。

 凛とした目をした彼女はゆっくりと頷いた。

「私でよければ」
「彩夏ー!」

 美咲が柴崎彩夏に抱きついた。

「あ、ちなみに」

 抱きつかれたまま柴崎彩夏が口を開いた。「なに?」と美咲が尋ねる。

「さっきパン1つ食べた後だから走って気持ち悪くなっちゃったらごめん」
「マジか」

 美咲だけでなく、クラスのみんながどっと沸いた。さくらが走れないという不穏な雰囲気は一瞬にして一気に晴れた。

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