9 / 78
第2章
体育大会 3
しおりを挟む
体育大会の朝は、雲一つない青空が広がっていた。
絶好の天気の中で中学最後の体育大会が始まった。応援や歓声の声が飛び交い、いつもの学校とは全く違う雰囲気になっていた。僕もこの雰囲気は好きで、テンションが上がってくる。
順調に種目が進んでいったが、そんな中でアクシデントが起きた。
リレーに出るはずだった女子の高峰さくらが全員競技の騎馬戦で足を捻ってしまったのだ。最初は「走るよ」とさくらも言っていたが、足を軽く引きずっている状態だった。
「これで走らせるわけにはいかないですね。代わりに誰かに走ってもらいましょう」
濱田先生が言った。
誰が代わりに走るんだ? とみんながきょろきょろし始める。さくらは小学校の頃からリレー常連で足が速かった。対抗できるならこのクラスでは美咲ぐらいだけど、その美咲もまたリレーを走る。ほかのクラスも学年上位の足の速さの女子が出てくる。
先生が女子を見渡すと、みんな目線を合わせたくないかのようにやや俯きはじめた。さすがに僕もここを仕切ることはできない。どうしたものかなと思っているときだった。
「彩夏なら……走れるよね?」
美咲が言った。女子も男子もみんな柴崎彩夏に注目した。彼女は大きな目を少しだけ見開いた。
「私?」
「うん。みんな知らないかもだけど、彩夏は速いよ。スポーツテストで50mほとんど同じくらいだったよね?」
「……美咲のほうがちょっと速かったけどね」
不敵に柴崎彩夏が微笑むと、
「なんかあのときは遠慮されてた気もするけどね」
美咲も微笑み返した。スポーツテストで柴崎彩夏は本気ではなかったという意味だろうか。それに対し、彼女は首を左に傾けるだけだった。
「さくらの代わりができるなんて彩夏ぐらいしかいないよ」
美咲が言った。
みんなの視線を浴びながら彼女はどう反応するのか、何か助け船は出すべきかと思ったが、それは不要だった。
凛とした目をした彼女はゆっくりと頷いた。
「私でよければ」
「彩夏ー!」
美咲が柴崎彩夏に抱きついた。
「あ、ちなみに」
抱きつかれたまま柴崎彩夏が口を開いた。「なに?」と美咲が尋ねる。
「さっきパン1つ食べた後だから走って気持ち悪くなっちゃったらごめん」
「マジか」
美咲だけでなく、クラスのみんながどっと沸いた。さくらが走れないという不穏な雰囲気は一瞬にして一気に晴れた。
絶好の天気の中で中学最後の体育大会が始まった。応援や歓声の声が飛び交い、いつもの学校とは全く違う雰囲気になっていた。僕もこの雰囲気は好きで、テンションが上がってくる。
順調に種目が進んでいったが、そんな中でアクシデントが起きた。
リレーに出るはずだった女子の高峰さくらが全員競技の騎馬戦で足を捻ってしまったのだ。最初は「走るよ」とさくらも言っていたが、足を軽く引きずっている状態だった。
「これで走らせるわけにはいかないですね。代わりに誰かに走ってもらいましょう」
濱田先生が言った。
誰が代わりに走るんだ? とみんながきょろきょろし始める。さくらは小学校の頃からリレー常連で足が速かった。対抗できるならこのクラスでは美咲ぐらいだけど、その美咲もまたリレーを走る。ほかのクラスも学年上位の足の速さの女子が出てくる。
先生が女子を見渡すと、みんな目線を合わせたくないかのようにやや俯きはじめた。さすがに僕もここを仕切ることはできない。どうしたものかなと思っているときだった。
「彩夏なら……走れるよね?」
美咲が言った。女子も男子もみんな柴崎彩夏に注目した。彼女は大きな目を少しだけ見開いた。
「私?」
「うん。みんな知らないかもだけど、彩夏は速いよ。スポーツテストで50mほとんど同じくらいだったよね?」
「……美咲のほうがちょっと速かったけどね」
不敵に柴崎彩夏が微笑むと、
「なんかあのときは遠慮されてた気もするけどね」
美咲も微笑み返した。スポーツテストで柴崎彩夏は本気ではなかったという意味だろうか。それに対し、彼女は首を左に傾けるだけだった。
「さくらの代わりができるなんて彩夏ぐらいしかいないよ」
美咲が言った。
みんなの視線を浴びながら彼女はどう反応するのか、何か助け船は出すべきかと思ったが、それは不要だった。
凛とした目をした彼女はゆっくりと頷いた。
「私でよければ」
「彩夏ー!」
美咲が柴崎彩夏に抱きついた。
「あ、ちなみに」
抱きつかれたまま柴崎彩夏が口を開いた。「なに?」と美咲が尋ねる。
「さっきパン1つ食べた後だから走って気持ち悪くなっちゃったらごめん」
「マジか」
美咲だけでなく、クラスのみんながどっと沸いた。さくらが走れないという不穏な雰囲気は一瞬にして一気に晴れた。
47
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる