見えない明日に揺れる僕たちは

多田莉都

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第2章

体育大会 2

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 体育大会の準備をする中で、僕は設営班になった。門を作ったり、グラウンドにラインを引いたりする班だ。

「じゃ、リーダーは月島、頼むな」

 と生徒に押しつけがちな金子かねこ先生に言われてしまった。
 いつもこんな役割ばかり回ってくる。引き受けたいわけではなかったが、ほかの誰かがやってくれそうもなく、僕は引き受けた。
 引き受けたからにはグダグダにはしたくない。ホワイトボードに設営リストを書き出し、20人の班員に割り振りを説明した。やる気がない奴もどうしてもいるので、無理に鼓舞などはしない。その代わりその遅れも少し計算に入れながら割り振った。

 計画を説明していると、ウチのクラスの設営班・女子3人の中に柴崎彩夏がいるのが見えた。
 彼女と目が合い、胸の奥に何かのざらつきを感じたが、心を落ち着けて説明を続けた。


 説明が終わり、教室に戻る廊下で、柴崎彩夏が話しかけてきた。

「月島くん、すごいね。作業をテキパキ決めちゃってて先生が座ってるだけのも納得だよ」
「あの人、いつも丸投げだからなぁ。少しは口出ししてほしいけどね」

 僕はため息をついた。
 金子先生は去年2年のクラスのときの担任の先生だ。中堅の先生で、「この生徒なら大丈夫」と思ったことは丸ごと投げてしまうような人だ。それでも憎めないところもある人でもある。

「月島くんは、リレーも走るんだよね?」
「ああ、うん」
「美咲が『佑は速すぎるからいつもリレーしか出れない。他の競技には出る選択肢がない』って言ってた」
「そうなんだよ、もう最初から決まる感じ」

 僕が大げさに肩を落とすと柴崎彩夏が笑った。

「それだけ速いんだから仕方ないよ。だって、去年、100mで全国に出てるんでしょ?」
「うーん、出ただけなんだけどね。全国で予選落ち」
「出場できるだけすごいんじゃないかな」
「出たって実感はあんまりないんだけどね。あっという間に終わる。見せ場もない。10秒ちょっとで負けが決まって帰ってきたわけだし」
「たしかに。100mって10秒ちょっとだもんね。一瞬だよね。すごい世界だね」

 全国大会には100mで出場したけれど、予選突破の着順に入ることができず、準決勝に進むことができなくなった僕はそこで帰ることになった。全国で走った時間は、ほんの10秒ちょっとだった。
 あまりいい記憶とは言えない。

「柴崎さんは何に出るんだっけ?」

 話題を変えるべく、美咲から聞いていて、知っていることを敢えて質問してみた。
 
「私? パン食い競争」
「意外にリレーとかじゃないんだね。速そうなのに」
「転校生としてはいきなり出しゃばるのは難しいところがあってですねー、みんなの様子を見てたらリレ選は決まっちゃってた」
「いきなり……ってもうだいぶクラスに慣れてるのかと思った」
「いやー、この学校って小学校から繋がるメンバーばっかりでしょ? その積み重ねに入ってくのはきついね」

 僕にとって自然な関係も、横浜から来た彼女には入っていくことが難しく思えるらしい。

「どこら辺が?」
「たとえば、クラスの男女がみんな下の名前で呼び合ってるでしょ? 当然のことのように」

 言われればそのとおりだ。小学校から下の名前で呼び合ってきたので、公式な場とかでなければ僕はクラスメイトを苗字で呼ぶことはほとんどない。あるとしても、苗字から来るあだ名の場合ぐらいだ。

「私はさすがに男子は苗字で呼ぶよね」

 そういえば僕のことは「月島くん」と呼んでいるな、と今更になって気がついた。美咲のことは名前で「美咲」と呼んでいるのに。

「名前で話しかければいいだけなんじゃない?」
「えええ、そこは急には変えられないよ」
「そういうものかな」
「そうだよだって、男子はみんな私のこと『柴崎さん』って呼ぶのに。月島くんもだけど」
「たしかに」

 思わず僕は笑った。彼女も笑った。

「ま、今までの面子でリレーって構成されるものかなと思ってね。私はおとなしくしとこうかなと」

 遠慮をしているような言い方だったが、もし選ばれたならば走る自信がないわけではないようにも見えた。
 そして、僕が感じたことは現実のものとなった。

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