見えない明日に揺れる僕たちは

多田莉都

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第3章

夏休みの前に 3

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 期末テストが終わったからと言って、僕は急に夏休みモードには変わらない。

 三年の僕にとって最後の陸上部の大会が待っているからだ。地区大会は既に通過しているので、今月末の県大会に僕は出場する。ここを突破すると北信越大会、その先には全国大会がある。前年度全国大会出場者という肩書のある僕は、今年も全国に進むことを期待されている。

 灼けるような日差しを浴びながら僕は7月も部活を続けていた。
 去年は200mもやっていたが、今年は100m一本に絞っている。タイムがより出せる種目ということで選んだのだが、思いのほか結果が出てこない。
 
 ピストルの音が鳴り、僕はスタートブロックを蹴る。
 隣を走る二年の木田文哉が先行で前に出たのがわかった。前傾姿勢で走りながら少しずつ身体を起こしていく。中盤で文哉と並んだ。そこからは文哉を置いて前に出る。そのままゴールを走り抜ける。

「スタートはよかったんだけどなぁー」

 ゴールの後、息を切らした文哉が僕に話しかけてきた。小学校のときから一学年下の速い奴として知っていて、今月末の県大会には一緒に出場する予定だ。

「さすがに負けないかな」

 息を整えながら僕は返す。余裕で勝てるわけではないが、まだ文哉と100mを勝負して負ける気はしない。
 ただ、スタートだって今まではそうそう負けるはずはなかった。もちろん、文哉が速くなったこともあるのだろうが、僕は自分の走りに納得していなかった。

「もう一本やりましょうよ」
「あんまやりすぎると疲れがたまるぞ」
「何をおっさんみたいなこと言ってんすか。今年はオレも全国狙いますから」

 小学校の頃からずっとこの軽いノリなので僕はいちいち突っ込まない。去年も言っていたが全国どころか県大会を突破することもできなかったことを僕は知っている。

「11秒を切らないことにはなぁ」
「スタートなら勝てるだけどなぁ」

 文哉と僕はふざけ半分で、そんなことを話しながら文哉と僕はジョグでスタートラインに戻る。
 実際、なぜか文哉にスタートが負けることが多くなっていた。決してスタートは遅いほうではないのにだ。
 いまは文哉相手に力任せでも抜き返せるが、上位の選手とやればこんなやり方では勝てなくなってしまうだろう。

 そのあとも三本、100mを文哉と走ったが、僕のスタートはよくないままだった。そのせいもあって中盤もノレていなくて、グラウンドでTシャツで走っているとはいえ、タイムはもう一つ伸びてこなかった。

 集中しきれていない。

 これが僕なりの分析結果だった。
 100mはスピードやスタミナも大切だが、メンタルも大切だ。全神経をまっすぐに走ることに集中させないと勝つことはできない。
 今までは何を思いながら走ってたんだっけ、そんなことを考えているうちに午前が終わった。
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