嘘の日に初恋が実ることはない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中

文字の大きさ
8 / 11

8.

しおりを挟む
「ユキちゃんは人気者で、いつだって周りに人がいたんだ。それでも友達のいない俺の手を引いて、砂場で一緒に遊んでくれた。一緒にもう一人いて、三人で大きな山を作って真ん中に穴を作った。てっぺんには三人のスコップを立てて。俺ももう一人もユキちゃんが大好きで、同じ黄色いスコップを買ってもらったんだ。ずっと、ずっとこの先も三人で一緒にいられるって思ってた……ああ、懐かしいな」


 その光景を俺は知っている。
 施設に入る少し前のこと。滑り台からの飛び降りを母に止められて、その後は滑り台に近づくことさえ禁じられていた。むくれながらも母の言いつけを破れば一ヶ月おやつ抜きにされてしまう。

 だから渋々砂場に足を運んだ。
 ちょうど近くに手持ち無沙汰にしていた男の子がいたから彼を誘って。そこからしばらく経った後にもう一人仲間が増えた。

 俺が恋をしたのは初めに遊んでいた男の子。そうか、目の前の彼こそがダイチだったのか。

 そのことに気づけば、どことなくその頃の面影が残っているような気がする。
 血色が良くなったからこそ分かるような本当に小さな部分だけど。優しく笑うダイチに胸が高鳴った。

 では彼の探している相手も俺なのかと言えば違う。
 ユキちゃんは別にいた。

「真ん中で手が触れた時、胸がドキッと大きく弾んだんだ。今でもはっきりと覚えている。あれが恋を自覚した瞬間だった。けど俺が終わらせてしまった」

 俺は一緒にいたもう一人。
 ユキちゃんはあの日、公園の入り口でオロオロしていたから砂場に誘ったのだ。

 透き通るような銀色の髪と真っ赤でうるうるとした瞳の持ち主のユキちゃんは周りから遠巻きに見られていた。

 あの時はなんで誰も声をかけないんだろうって思ったけど、今なら周りの気持ちがよく分かる。綺麗すぎて誰も声をかけられなかったのだ。

 あの時はあまり気にしていなかったと思っていたけれど、ユキちゃんが『ユキ』って名乗った後に自分のあだ名も『ユキ』だとは言い出せなかった。あの日から俺は『かっちゃん』になった。

 今の今まで昔は自分もユキちゃんと名乗っていたことをすっかりと忘れていた。記憶を消したくなるほどにユキちゃんは可愛らしかったのだ。

 なぜ彼はこんな俺とユキちゃんの色を間違えて覚えているのだろう。
 銀と暗めの緑、赤と黒なんてどう考えても結びつくはずがない。

 それにユキちゃんはおそらくオメガではない。少なくとも施設には入っていない。
 いなくなる前に何かしらあったことはダイチの様子からも窺い知れる。だがおそらくはタイミング悪く引っ越しをしてしまったとかなのだろう。

 同じくらいの時期に俺が施設に入り、二人揃って消えたせいで情報が混ざってしまっているだけ。

 滑り台から飛び降りようとしたのも俺だ。ユキちゃんはそんなことしない。
 お砂場遊びをするのだって、俺が誘ったあの日が初めてだったのだ。良いところの育ちなんだろうと母が言っていたのを覚えている。

 きっとユキちゃんが急にいなくなったショックで、色々と情報が混ざってしまったのかもしれない。

 ただでさえ十七年前の一ヶ月ほどの記憶しかないのだ。
 多少間違えて記憶していても無理はない。

 今から銀髪で赤目のユキちゃんを探すことだって出来る。だが見た目とかつてのあだ名しか情報がない。

 それはオメガ女性で施設に入ったユキちゃんを探すよりもずっと難しいことで、初恋を諦めようとしている彼に伝えるにはあまりにも残酷だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

番に囲われ逃げられない

ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。 結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

処理中です...