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一輪のバラは柔らかに微笑む
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「今日、楽しかったね!」
「うん、そうだね」
樹里の言葉に賛同しながら、樹は自分と瓜二つの顔を持つ青年を思い浮かべる。
勇樹との交流も絶った今、樹には友と呼べる存在がいなかった。
顔が瓜二つなだけあって、とても気があった。まるで自分の半身とあっているのではないかと錯覚してしまうほどに……。
そこまで考えて、樹はフルフルと首を振った。
これはさすがに樹里のお気に入りの本の読みすぎだろう。物語の中ならともかくとして生き別れの兄弟なんてそうそういるものでもない――と。
途中、何とも言えない雰囲気になったものの、樹里によってどうにかなった。
樹としてはまた斎に会って、そして友人になって欲しい。
『勇樹』の名前を聞いて、気が動転したものの、樹の中ではすでに勇樹は過去の人間だった。
樹の隣にいるのも、そして彼が愛しているのもまた夫である大和なのだ。
すでに樹は勇樹とは違う場所で幸せを手に入れた。
けれど樹にとって、恋愛感情はもうないにしても、橋間 勇樹という人物は大事な人であることには変わりはないのだ。
あの日の出来事を思い返せばやり直したいと樹は願う。何もなかったことに出来ればどれほどいいだろうかと、大和の腕の中で何度だって考えた。
けれど彼は樹に、大和に、樹里を与えてくれたのだ。
あの日がなければ、愛おしい娘はいないのだと思うと、思い出したくもない出来事だったとは断言出来なくなった。
今はもう、樹の中では全ての感情に蹴りがついていて、勇樹も幸せになってくれればと思う。少し、傲慢だなと樹自身も思ってはいるが、それでも。
最近になって勇樹の出る番組をチラホラと見始めた樹にも分かるほどに、勇樹は変わった。
いつからかと言われれば『どこから』とハッキリと答えることは出来ないが、表情が柔らかく、優しく楽しそうに笑うようになったのだ。
斎が勇樹のマネージャーであると聞いて、ああもしかしたら彼がキッカケで……と樹の中で、斎と勇樹が結びついたような気がした。
そして食事を介して、斎が優しい人物であることを知った。
運命の番に惹かれ続け、それでも何も出来ずにいた樹よりも、ずっと。
「いっちゃん、まだ寝ないの?」
縁側で月を眺める樹の肩に大和はブランケットをかける。
樹里はもうすでに眠りについていて、大和は仕事を片付けてから寝ると言って寝室を離れていた。
幸せな今日に浸る樹は大和の声でもうそんな時間かとぼうっと思う。
「ねぇ、大和。俺、今すごく幸せだよ」
「うん、俺も……」
「いっくんとまた、会えるといいな。彼、いい人だよね、樹里じゃないけど、俺もいっくんのこと、好きになった。友達、になれるといいな」
「そうだね」
大和も樹の横に腰を下ろし、並んで空を見上げる。
完全に満たされたまん丸の月である。
その美しさに惹かれる一方で、後は欠けていくだけだということが樹にはひどく悲しく思えてならない。
自分の幸せも後は失っていくだけなのではないかと、不安になるのだ。
「ねぇ、大和」
だからそれを埋めるために、樹は今まで口に出さずにおいた思いを口にする。
「樹里に、弟とか妹とか……作ってあげたいなって、思うんだけど……」
「えっ……」
樹里が弟妹が欲しいと言い出したと伝えた時、大和が困ったような表情を浮かべていたのは知っている。
そしてそれは、樹に多大なる負担をかけてしまうから……と思ってのことだということも、樹には分かってしまうのだ。
結婚当初の樹にとって大和はどこまでも優しい従兄弟だった。
けれど今は、愛した証をこうして欲してしまうほどに求めているのだ。
こんな、オメガから急かすなんてはしたないと嫌いになってしまわないかと不安になりつつも、闇夜で見えづらくなった頬を染めて一世一代の告白をした。
大和が今、どんな表情をしているのか、樹は怖くて確認できずにいる。早いうちに冗談だったと言ってしまえと誰かが言っているような気がした。
けれど樹はもう一歩、踏み出したいのだ。
「いっちゃん」
「なに?」
「俺はいっちゃんが大好きだけど、無理はして欲しくない」
「無理なんて! ……して、ない。俺は大和が……好き、だから。樹里がねだるからじゃなくて、俺が、大和との子どもが欲しいんだ……」
「いっちゃん……俺、嬉しいよ!」
大和は樹の顔や耳が赤くなっていることを知って、背後から覆いかぶさるように抱きつく。
愛おしくてたまらないこのオメガが、正真正銘、自分のものになってくれるというのだから、これほど嬉しいことはないだろう。
「大和、重いよ……」
「ごめん、いっちゃん。早速今度の発情期の時には旅館を予約しておくね。樹里には悪いけど、その間は俺だけのいっちゃんだから」
「大和……」
どちらからともなく口を合わせた。
樹の次の発情期までは後2週間ほど。
それまでに大和は詰まった仕事の一部を仙右衛門や他の人達に押し付ける。だが誰もが嬉しそうに笑ってそれを引き受ける。
金城家の誰もが、ワガママ姫に夢中なのだ。
「うん、そうだね」
樹里の言葉に賛同しながら、樹は自分と瓜二つの顔を持つ青年を思い浮かべる。
勇樹との交流も絶った今、樹には友と呼べる存在がいなかった。
顔が瓜二つなだけあって、とても気があった。まるで自分の半身とあっているのではないかと錯覚してしまうほどに……。
そこまで考えて、樹はフルフルと首を振った。
これはさすがに樹里のお気に入りの本の読みすぎだろう。物語の中ならともかくとして生き別れの兄弟なんてそうそういるものでもない――と。
途中、何とも言えない雰囲気になったものの、樹里によってどうにかなった。
樹としてはまた斎に会って、そして友人になって欲しい。
『勇樹』の名前を聞いて、気が動転したものの、樹の中ではすでに勇樹は過去の人間だった。
樹の隣にいるのも、そして彼が愛しているのもまた夫である大和なのだ。
すでに樹は勇樹とは違う場所で幸せを手に入れた。
けれど樹にとって、恋愛感情はもうないにしても、橋間 勇樹という人物は大事な人であることには変わりはないのだ。
あの日の出来事を思い返せばやり直したいと樹は願う。何もなかったことに出来ればどれほどいいだろうかと、大和の腕の中で何度だって考えた。
けれど彼は樹に、大和に、樹里を与えてくれたのだ。
あの日がなければ、愛おしい娘はいないのだと思うと、思い出したくもない出来事だったとは断言出来なくなった。
今はもう、樹の中では全ての感情に蹴りがついていて、勇樹も幸せになってくれればと思う。少し、傲慢だなと樹自身も思ってはいるが、それでも。
最近になって勇樹の出る番組をチラホラと見始めた樹にも分かるほどに、勇樹は変わった。
いつからかと言われれば『どこから』とハッキリと答えることは出来ないが、表情が柔らかく、優しく楽しそうに笑うようになったのだ。
斎が勇樹のマネージャーであると聞いて、ああもしかしたら彼がキッカケで……と樹の中で、斎と勇樹が結びついたような気がした。
そして食事を介して、斎が優しい人物であることを知った。
運命の番に惹かれ続け、それでも何も出来ずにいた樹よりも、ずっと。
「いっちゃん、まだ寝ないの?」
縁側で月を眺める樹の肩に大和はブランケットをかける。
樹里はもうすでに眠りについていて、大和は仕事を片付けてから寝ると言って寝室を離れていた。
幸せな今日に浸る樹は大和の声でもうそんな時間かとぼうっと思う。
「ねぇ、大和。俺、今すごく幸せだよ」
「うん、俺も……」
「いっくんとまた、会えるといいな。彼、いい人だよね、樹里じゃないけど、俺もいっくんのこと、好きになった。友達、になれるといいな」
「そうだね」
大和も樹の横に腰を下ろし、並んで空を見上げる。
完全に満たされたまん丸の月である。
その美しさに惹かれる一方で、後は欠けていくだけだということが樹にはひどく悲しく思えてならない。
自分の幸せも後は失っていくだけなのではないかと、不安になるのだ。
「ねぇ、大和」
だからそれを埋めるために、樹は今まで口に出さずにおいた思いを口にする。
「樹里に、弟とか妹とか……作ってあげたいなって、思うんだけど……」
「えっ……」
樹里が弟妹が欲しいと言い出したと伝えた時、大和が困ったような表情を浮かべていたのは知っている。
そしてそれは、樹に多大なる負担をかけてしまうから……と思ってのことだということも、樹には分かってしまうのだ。
結婚当初の樹にとって大和はどこまでも優しい従兄弟だった。
けれど今は、愛した証をこうして欲してしまうほどに求めているのだ。
こんな、オメガから急かすなんてはしたないと嫌いになってしまわないかと不安になりつつも、闇夜で見えづらくなった頬を染めて一世一代の告白をした。
大和が今、どんな表情をしているのか、樹は怖くて確認できずにいる。早いうちに冗談だったと言ってしまえと誰かが言っているような気がした。
けれど樹はもう一歩、踏み出したいのだ。
「いっちゃん」
「なに?」
「俺はいっちゃんが大好きだけど、無理はして欲しくない」
「無理なんて! ……して、ない。俺は大和が……好き、だから。樹里がねだるからじゃなくて、俺が、大和との子どもが欲しいんだ……」
「いっちゃん……俺、嬉しいよ!」
大和は樹の顔や耳が赤くなっていることを知って、背後から覆いかぶさるように抱きつく。
愛おしくてたまらないこのオメガが、正真正銘、自分のものになってくれるというのだから、これほど嬉しいことはないだろう。
「大和、重いよ……」
「ごめん、いっちゃん。早速今度の発情期の時には旅館を予約しておくね。樹里には悪いけど、その間は俺だけのいっちゃんだから」
「大和……」
どちらからともなく口を合わせた。
樹の次の発情期までは後2週間ほど。
それまでに大和は詰まった仕事の一部を仙右衛門や他の人達に押し付ける。だが誰もが嬉しそうに笑ってそれを引き受ける。
金城家の誰もが、ワガママ姫に夢中なのだ。
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