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海デート

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「ねーねーむらかーさんも呑もうよ~♪ むらかーさんはビールとチューハイどっち好き?」

 りょーくんに食事を温めてもらい、私が席に着くなり藤井くんが酔っ払いのうざ絡みを始める。

「私は呑まないでおくよ。クタクタだし、明日は3人で協力して運転しなきゃだし」

 正直藤井くんがフニャフニャになるまで酔っ払っているのを初めて見た。
 去年の私の誕生日パーティーの時も大晦日のカウントダウンイベントの時も藤井くんはまだ未成年だったから。
 
「え~?? ちょっとくらい呑んでもよくね~♪ 二日酔いになったらなったで笠原に運転任せちゃえば良いんだし!」
「運転をりょーくんに任せるって、えええ?! 3人で協力して運転する話は??!!」

 だからこそ藤井くんのこの無責任発言にはビックリしたし、りょーくんと真澄は呆れ顔になっている。

「ごめんね朝香……それから亮輔くん。
 トモ、運転免許は持っているんだけど自動車学校卒業以来車を動かした事が一度も無いらしいの」
「ええ…………藤井くん、私以上にやばいの? 私ですら実家の車を動かしたりするのに」
 
 そして真澄から告げられた事実に頭がクラクラしてきた。
 正直、私もペーパードライバーに近いくらいに運転経験が乏しい。
 今回のレンタカー運転も、りょーくんが助手席についた状態で難しくなさそうな道を走らせてもらって運転のメインはりょーくんと藤井くんに……って、海水浴の計画を立てる段階でみんなと相談していたっていうのに、どうやら先程藤井くんの実態を真澄もりょーくんも知ったらしいのだ。

「まさか藤井が運転経験ゼロとは思わなかった……」
「朝香だって実家帰省したら運転するって言ってたじゃない? トモは帰省する機会が多いから、てっきりその都度運転してるものとばかり思ってて改めてトモに運転出来るかどうかなんて訊かなかったのよ。悪いのは私だわ……」
「真澄は悪くないよぉ」
「そうそう、悪いのは藤井だから。矢野は一つも悪くないから」

 気が付いたら藤井くんはソファに寝そべって機嫌良くしていて、テレビのチャンネルをランダムにポチポチ押しては大笑いしている。

「……藤井くんの『運転してない発言』って、酔っ払いのウソって線はないかなぁ?」

 私は夕食をモグモグしながら、キャッキャと笑う上機嫌の藤井くんのバタ足を見つめていたんだけど

「いやいやいやいや、トモがそんなウソをこのタイミングで言う?!」
「酔っ払ってるからこそ、本当の話をしたんじゃないか?」

 真澄もりょーくんも私の言葉に同意してくれない。

「そっかぁ……」
「まぁ、明日は俺が行きも帰りも運転するよ」

 意を決したようで、りょーくんが私の頭を優しく撫でながらそう言ったから

「ダメだよ! 私もちゃんと運転頑張るし」

 私はすかさず反論したんだけど

「あーちゃんは連日の仕事疲れがあるんだから無理しちゃダメだよ。実質明日くらいしか夏らしい事が出来ないんだから移動中はのんびりしてて」

 りょーくんの頭撫でがより優しくなる。

「私もさ、その方が良いと思うんだ! 亮輔くんは運転キャリアがしっかりあるし、トモは全く運転しないのに日頃珈琲店で働きまくってる朝香が運転手伝うなんて絶対におかしいもの!」

 真澄はりょーくんの意見に賛成なようだ。

「藤井くんだって大学に家庭教師のバイトにと忙しくしてるでしょ?運転するチャンスが無いのも分からないでもないっていうか……」
「朝香はトモに優しい気持ちをかけなくて良いのっ!」
「そうそう! アイツにはレンタカーのワリカン、割合多めにしておくから。ベロベロに酔っ払う上に運転しないだとか迷惑極まりないからな!金銭的に負担してもらわなきゃ!」
「そっかぁ……」

 私は次第に「まともな2人がそう言うなら仕方ない」という思いになっていく。

(運転経験ゼロな事を黙ってた事、藤井くんなら酔いが覚めた段階で謝ってくれそうだし、レンタカー代の割合を変えても文句は言わなさそうだもんなぁ)

 藤井くんも藤井くんで、今まで内緒にしてなきゃいけない事情があったのかもしれない。
 大好きな真澄に未経験なのを先に知られて嫌われたくない……だとか、男のプライド?みたいなものもあったんだと思う。

「りょーくんが行きも帰りも運転するのはかなり負担がかかるだろうから、体が疲れたりしんどかったりしたら遠慮なく言ってね。私頑張るから!」

 りょーくんに強い眼差しを向けて真剣な表情を私がすると、彼は一層優しい微笑み顔になる。

「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ」

 すると真澄が急に「思い付いた!」と言わんばかりな表情になって……

「じゃあさ! 明日亮輔くんが運転頑張れるようにいいモノ今から披露しちゃおうよ!」

 と、突然私にキラキラ笑顔で変わった提案をしてきた。


「「えっ……??!」」
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