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海デート
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しおりを挟む「はー……今週も無事終わったぁ……」
夏休み真っ盛りであっても、私の仕事は休みじゃない……っていうか、社会人並みにバリバリ働いちゃっている。
去年の夏休みも朝から晩まで、月曜日から金曜日までみっちり働いたんだけど、今年は更に土曜日も朝からしっかりと働いている。
夕紀さんには遠慮されちゃったんだけど、これも私自身が決めた事なんだ。
「疲れたけど、疲れたなんて言ってらんないよぉ。私だけ『就活しないお気楽大学生』って訳にいかなくなるんだもん」
夏休みに入ったからとはいえ、りょーくんや真澄達だって暇になるわけじゃない。寧ろ就活準備や学内のセミナー受講で慌しく、去年みたいにりょーくんは部屋の中でボーっと過ごす夏では無くなっているんだ。
後期の授業が始まれば、私の授業コマは更に少なくなり夕紀さんの右腕となるべく私も本格的に仕事に邁進していく……夏休みとはいえど、「皆とは別の進路を歩んでいるんだな」と実感せざるを得ない。
「でもっ! でもでもっ!! 明日は待ちに待った海水浴だもんねっ!!」
だからこそ、明日出掛ける海水浴ダブルデートは楽しみでしょうがない。
今夜は真澄と藤井くんがお泊まりしてくれる予定になっていて、今の時間は既にマンションで酒盛りしてる筈だ。
この前はお父さんの日本酒で暴走しまくったりょーくんだけど「今夜は節度を守る」と約束しているし、そもそも私は疲れ果てていてお酒を呑む気もイチャイチャする元気もない。流石にない。
(りょーくんはきっとイチャイチャしたがるだろうけど真澄達が居るんだし、私も私でしっかりと自分の体を守らなくっちゃね!)
「あと、ただいまのキスも! しっかり阻止しなくちゃ!! 初めて真澄がお泊まりした日は本当に恥ずかしかったんだから!!
りょーくんが飛びついてきたら両手で……こう! 押し返して……っ!!」
……なーんて、脳内シミュレーションしながらマンションのエレベーターに乗り込んで
「ただいま~」
玄関扉を開けると、リビングからワイワイと楽しそうな声が聞こえてきた。
(みんな楽しそうにしてるなぁ♪ りょーくんはちゃんと私の下拵えしたお肉を焼いて振る舞ってるんだろうなぁ♪」
今朝仕事へ行く前に夕食分の料理の下拵えをしておいて良かったと私は胸を撫で下ろす。
「あーちゃんおかえり!!」
靴を脱いでいたらりょーくんが廊下を走って出迎えてくれた。
リビングからあんなに楽しそうな声がしていたのに、私の帰る音によく気付いたなと思う。
「わあ! キッ……キスはダメだからね!」
シミュレーション通りにはいかなかったとはいえ両手で自分の顔をガードしてみる。
「えー? キス、ダメ?」
飛び付く寸前で私がそんな事をしたものだからりょーくんは不満そうだ。
「当たり前だよ! 真澄と藤井くんがいるのに玄関先でイチャイチャするのは恥ずかしいもん!」
りょーくんだって真澄が初めて泊まりに来た日の事をちゃんと覚えている筈だ。あの時だって「りょーくん」「あーちゃん」呼びがバレただけでなく、夜中のあんな事まで見られてしまったのだから……。
「じゃあ、ハグだけならいい?」
不満顔のままであっても物分かりの良いりょーくんが可愛らしく甘えた声で両腕を広げるから
「ハグだけなら良いよ」
履いていたものを脱いでりょーくんの前に立つと
ガバッ!!
「あーちゃん、1週間お仕事お疲れ様♡」
音がするくらいりょーくんが大胆に抱きついてきて、私はりょーくんの体に包まれた。
「りょーくんも大学でお勉強お疲れ様♡」
友達が泊まりに来ているんだから、玄関先でのイチャイチャはなるべく短時間に留めておきたい……けどやっぱり大好きなりょーくんにスッポリと包まれるハグは心地良く、離れがたくなってしまう。
「お腹空いたでしょ? あーちゃんの分温めておかないと!」
りょーくんもハグを解くのが辛かったみたいで、ご飯を温める使命感を込めた言葉をやや大きめの声で言い、私の手をグッと強く握るなり一緒に廊下を歩き出した。
「うん……お腹すいたぁ~」
りょーくんの言葉も行動も、私への強い気持ちが溢れていて嬉しい。
りょーくんと並んでリビングに入ると真澄と藤井くんがダイニングテーブルから手をひらひら振っていて
「むらかーさんおかえりー!」
「朝香おつかれ♪」
と言ってくれる。
「ただいま。真澄も藤井くんも出来上がってるねー♪ 顔赤いよ~」
ビールやチューハイの缶がテーブルの上にいっぱいだ。
「うんっ! むらかーさんのご飯が美味し過ぎて酒グイグイ進んじゃったよ! むらかーさんご飯ごちそうさまぁ♡」
真澄よりも藤井くんの方が舌ったらずになっててベロンベロンだ。
「どういたしまして……って藤井くん酔いすぎてない? 大丈夫?」
「へーきへーき! 飲む前にちゃーんと笠原とレンタカー行ってきたし。準備おっけー! なー! かさはらー♪」
「まぁな」
シャワールームが設置されている海水浴場を選んでるとはいえ、明日の移動に上原さんの高級車を借りるのは流石に気が引けた。
だから車の免許を持っている私、藤井くん、りょーくんで協力しながらレンタカーを運転しようという事になったんだ。
応援ありがとうございます!
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