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陽の光霞ませる、強い香りを持つもの

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「ごめんねスズさん。僕はまだ下っ端のチワワだからね、話下手で聞く事くらいしか出来ないしオイルもまだまだ勉強中で全然上手くないんだ」
「えー謙遜は良くないよ、リョウくんはオイルとっても上手だと思う! プロの資格とか持ってそうな感じ!」

 僕はご主人様からしかレクチャーをしてもらっておらず、マッサージに関する正式な資格を持ってはいない。

「そうかなぁ?」
「そうだよ! 初めてしてもらってるけどなんとなく分かるよ! 『リョウくん楽しそうだなぁ』『もっと上手になろうと勉強しながらやってそうだなぁ』って」

 僕がほぐし行為のプロだというのであれば、スズさんの会話のプロなんじゃないかと思った。
 決して大袈裟に感じられないスズさんの真っ直ぐな言葉は僕の手を時々止めそうになるも、誠心誠意ほぐしてあげようと意識も同時に高まってくるからだ。

「オイルを使ってほぐしていくの……確かに好きかも。もっと上手になりたいし、スズさんみたいな人をたくさん癒してあげたいって思うかな」
「だろうね、リョウくんの手や指には誠実さが見えるもの」
「ありがとう」

 僕は「元日の日に花ちゃんに言われた言葉とスズさんの今の言葉が似ているな」と感じながら御礼を言い、スズさんの背中の筋肉を時間の許す限りほぐしていった。



「ありがとうリョウくん。すっごく気持ち良かった。全然下手っぴなんかじゃないよ」
「こちらこそ喜んでもらえて嬉しいな。海外旅行の目処がたって、お金に余裕が出来たらまた指名してね」
「仕事頑張る!だからリョウくんも頑張ってね!」

 施術が終わり、衣服を整えてあげるとスズさんはとても晴れやかな表情をしていて

「うん、頑張るよ♪ ありがとうスズさん」

 僕は笑顔でお見送りした。


「ふぅ……」

 スズさんが退室して部屋の扉が閉まるとそれまで上がっていた僕の口角は一緒にして下がり、後片付けと次のお客様に向けての準備に取り掛かる。

(花の名前をつけた女性達から求められるのは嬉しいし、もっともっと勉強して癒してあげたいと強く思う。
 その僕の行動はきっと女性達を綺麗に花開かせてよりよく輝ける筈だから……)

(だとすると花ちゃんも僕の手で綺麗に花開かせてよりよく輝かせないといけない……?)

 片付けに集中しながらもつい脳内で引っ掛かってしまうのはその点と「再会から3ヶ月」という現実だ。

(花ちゃんはこのまま僕と一緒に居て幸せなのかな? もっと花開かせる場所へ……輝ける場所へと解放してあげた方がいいんじゃないのかな?)

 だからこそ、そんな考えが頭を過ぎり心が騒つくんだ。


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