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雨のように降り注ぐ愛を、受け止める

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「お姉さんがもし……太地くんの、その話を聞いて……嫌いになってしまったら?」

 樹くんは先程とは打って変わって、言葉を選びながら僕に質問したから

「それはそれで、仕方がないと思っているし……花ちゃんが『辞めてほしい』と言えば、辞めるつもりでいるよ」

 僕は樹くんの丸い瞳を見つめながら、堂々とした態度で返答した。

「太地くん……」

 樹くんは、驚きとは別の感情を吐息と共に露わにする。

 それはきっと「寂しい」に似た感情なのだと僕は理解していたから、笑顔を作って

「勿論、花ちゃんが容認してくれたら続けるよ。その可能性だってゼロじゃないんだから」

 樹くんをそれ以上寂しがらせない言葉を発する。

「そっか……」

 樹くんは、優しい微笑を浮かべてくれた。

「うん」

 だから僕は大きく頷く。

「そしたら、お姉さんが喜びそうなお土産を買ってあげなくちゃね♪ この時間だし大雨だから駅の自販機で買えるものになっちゃうけど」

 樹くんが突然微笑から陽気なニコニコ顔に変化させて近くの自販機を指差した。

「えっ? 樹くん、飲みもの奢ってくれるの?」
「うん、お姉さんの気持ちを逆撫でしないようなアイテムは一つでも多く持っていた方がいいからね。何がいい?」

 僕と樹くんは自販機の方へと足を向けて

「そうだなぁ……あ、メロンソーダが欲しいかなぁ」

 自販機に近付きながら緑色のペットボトル飲料が無いかと眼球を動かす。

「メロンソーダ?」
「うん」
「太地くんのお姉さんは意外にもお子ちゃまなのを欲しがるんだね」
「お子ちゃまなのかなぁ? この前花ちゃんが僕に話していたんだよ『いつでもいいから駅の自販機で売ってるメロンソーダを2本買ってきて』って。クリームソーダが美味しく作れる良いメロンソーダらしいよ」
「クリームソーダって家で作れるの? 昔ながらの喫茶店にしかないものだと思ってたよ」
「この前でっかいバニラアイス買った時に花ちゃんが言ってて、僕も手作り出来る事を初めて知ったんだ」
「へぇ~可愛い事するんだね。太地くんもお姉さんも」
「そうかなぁ?」
「若いからだろうね、俺みたいなおじいちゃんには無い発想だから」
「樹くんだって見た目若いじゃん」

 深夜の自販機の前で、男2人がクスクス笑いながらペットボトル入りのメロンソーダの話をする様子は、はたから見たら異様に感じるだろう。周囲に人の気配が無くて良かったと思った。

「あれ? でも無いね」
「本当だ。お姉さんは『駅の自販機』って言ってたんだよね?」
「うん……おかしいなぁ」

 けれどもその自販機にはメロンソーダの「メ」の字も無く、僕達は顔を見合わせ首を傾げる。

(花ちゃんが『駅の』って言ってたんだから、この自販機に無いとすれば……)

 僕が俯いて花ちゃんの話を思い出している最中、樹くんは突然

「ごめん! 電話かかってきた!! お金渡しておくね」

 慌てて僕に1000円札を握らせると、駅出口の方へと歩いて行ってしまった。

「樹くん行っちゃった……」

 その時僕の視線は樹くんの背中の方を向いていたんだけど、頭の中では公園のベンチで僕を待つ花ちゃんの様子を思い浮かべていて……

「あっ!」

 花ちゃんの言う「駅の自販機」がここと反対側の出口にある自販機だという事を思い出した。

(そうだ! 花ちゃんはいつも公園で待ち合わせする時に缶コーヒーを持っていた……この自販機とは別メーカーの!!)

 ハッとした僕は急いで反対側の出口へと向かって

(あれだ! あの自販機っ!!)

 筐体の中から鮮やかな緑色の円柱体を見つけて頬を弛ませた、次の瞬間

「!!!!」

 何者かによって突然頭に袋状のものを被らされ、視界が真っ暗になった。

「んぐう!!!!」

 視界が遮られた上に羽交い締めにもされ、呼吸し辛くなりパニックに陥る。

「んふふっ」
 
 僕の視界を奪い羽交締めにしている者は不敵に笑うと、20歳の僕じゃ抗えない程の力でそのまま斜め後方へと引っ張っていく…………。


「!!!!」

 10秒もしない内に僕の体は水圧の矢に晒された。

「ハアッ……ハアッ」

 暗闇の中で聞き取れたのは、矢の正体となる激しい雨音と……

「かっ……?」


「ふふ♪」

 僕のよく知る、笑みや喘ぎに似た空気音で



「スミ……さ」


 僕の視界を奪った者の正体を突き止めた直後

「今夜はお散歩日和ね……本当に」

 被されていたものが取り払われると共に僕の視界はグルンと宙を向いた。

「どうして」
「なのにはお迎えに来なかったのね……どうしてかしらね?」

 唯一乾いていた頬にもカスミさんの濡れた髪がぬるぬると妖しく這っていき、濡れていない部分など一つもなくなる。

「……」

 視界は相変わらず暗かった……けれど、僕がひいた紅の色だけは鮮やかに主張していて

「私の方がよっぽどだわ♡」

 紅が動いた「ガールフレンドちゃん」「パートナー」は、16という証明となっていて

(怖い……)

 己の愚かさよりもただ純粋に恐怖の方が優ってしまった。

「ねぇ」

……言ったでしょう? が1番なの」




「だから」

「私を舐めて……欲望を叶えて」

 

 
 

 

 
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