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第一章:まずは、スタートラインに立つために。
1.転生というか覚醒かな
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どうも、乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生し、婚約破棄された者です。
「こんな一文が自己紹介として思いつく日が来ようとは…」
ミネルヴァ・アイネ・グリッツ公爵令嬢は、寝台の上で半身を起こし、呆然とした様子で呟いた。
室内は全てカーテンが引かれているが、分厚くとも遮光性能を科学的に付加されているわけでもないただの布である、遮り切れない日差しで室内は本を読むことも出来そうなほど明るい。寝台横のチェストに置かれた時計を確認すると、正午をわずか数分過ぎた時刻だと示している。
「…どうすれば良いんだろう」
ひとまずふかふかの羽根枕を集めて、背中に当てる。身の沈む感覚を楽しみながら、息を吐いて体から力を抜く。ミネルヴァが生涯で一度だってとった事がないだらけた態度だ。
「もう分岐全部終わってるし…っ!」
突然のノック音に慌てて背筋が伸びる。体に染み付いたミネルヴァとしての対応だ。そして、声を出そうとして、はたと思い出す。自分は今、何故寝台に寝ていたのかを。
「失礼いたします」
ミネルヴァの声を待たずに、暗い顔をした少女が室内へ入ってきた。湯気を立てるお湯を張った洗面器を台車に乗せて運んできた少女は、ミネルヴァが寝台の上で半身を起こしているのを見て、驚きに目を見開き、その真ん丸な目からぽろぽろと涙を零した。
「お嬢様っ!」
毛足の長い絨毯に蹴躓きながらも寝台へ駆け寄り、跪いてミネルヴァの顔を見つめる。
「お目覚めになられたのですね、お加減はいかがですか? 何か、お望みはございますか? お顔を拭かれるのでしたらお湯が御座います。お水か、果実水でよろしければそちらに、温かいものの方がよろしければ直ぐにお持ちちします。それともご入浴されますか? 直ぐに用意できるよう準備だけはしておりましたから、何でもお言い付けになって下さい!」
矢継ぎ早な少女、ミネルヴァ付きの侍女であり、子爵家令嬢で有りながらミネルヴァに生涯仕える事を誓ってくれた、リーネアッラ・アイネ・ミクイラの様子に、思わず笑みが浮かぶ。
「ありがとう、リーネ、果実水が飲みたいわ」
「はい、かしこまりました!」
飛び跳ねるように壁際の棚上へ向かうと、リーネアッラは二つ並んだ水差しの、青い方からグラスへと水を注ぐ。ミネルヴァが好きで常備させている柑橘を浸した果実水だ。
グラスを受け取り、口をつけようとすると、再び扉が鳴る。ミネルヴァ付きの執事であるヴァラド・クリス・ロイの声がした。ミネルヴァが声を上げる前に、私が、とリーネアッラが扉へ向かう。リーネアッラから事情を話されたのだろう、安堵の表情を浮かべてヴァラドが入って来た。
「心配をかけて御免なさいね」
ヴァラドが口を開く前に、ミネルヴァの方から声をかける。幼い頃から既に老執事だった彼は、近頃すっかり真っ白になった眉をはね上げた。
「私を助けてくれたのは誰かしら」
「護衛のビンスです」
「そう、では、彼には褒賞を与えて頂戴。物思いに耽るあまり池に落ちるような令嬢をよく助けてくれました、と。それから、お父様とお母様には何も言わないで。流石に池に落ちたなんて恥ずかしいわ」
「…かしこまりました」
ほんのわずかな間だけ沈黙し、ヴァラドは微笑んで頷いた。幼い頃から見ているお嬢様が、何を考えているのか思い至ったのだろう。
「お嬢様?」
一方、まだ人生経験的にも付き合いの長さ的にも浅いリーネアッラは不安と心配を浮かべた顔でミネルヴァを見つめる。
「リーネ、心配しないで」
そっとその手をとって、微笑みと共にその目を見つめ返す。
「今までの私は、死んだのよ」
ミネルヴァの囁きに、リーネアッラが息を呑むように言葉を詰まらせる。
「これからは新しく生きていくの。さっき、目を覚まして、今、貴方達と共にここにいる自分を、私はとても嬉しく受け止めているわ。だから、心配しないで」
続いた言葉に泣き笑いの表情で答えて、リーネアッラは頷いた。
池に落ちたなど、大嘘だ。実際のミネルヴァは、崖から海へ飛び降りたのだ。護衛としてついていたビンスに一人になりたいと告げ、間違っても止められることのないよう何気ないふりをして、海中へ飛び込んだ。
持ってきたお湯を下げるため、リーネアッラが退室した隙に、ヴァラドから説明を受ける。一度は心肺停止になり、蘇生処置を施されても目を覚ますことなくこの寝台で丸一日眠っていたらしい。よく生きていたものだ、と思うと同時に、だからこんな記憶を持って目を覚ましたのだろうな、と納得してしまった。
その後は、夕食まで一人になりたいと告げ、心配そうに何度も何かあれば呼んでくれ、と言うリーネアッラに頷いて部屋に一人きりとなった。
「こんな一文が自己紹介として思いつく日が来ようとは…」
ミネルヴァ・アイネ・グリッツ公爵令嬢は、寝台の上で半身を起こし、呆然とした様子で呟いた。
室内は全てカーテンが引かれているが、分厚くとも遮光性能を科学的に付加されているわけでもないただの布である、遮り切れない日差しで室内は本を読むことも出来そうなほど明るい。寝台横のチェストに置かれた時計を確認すると、正午をわずか数分過ぎた時刻だと示している。
「…どうすれば良いんだろう」
ひとまずふかふかの羽根枕を集めて、背中に当てる。身の沈む感覚を楽しみながら、息を吐いて体から力を抜く。ミネルヴァが生涯で一度だってとった事がないだらけた態度だ。
「もう分岐全部終わってるし…っ!」
突然のノック音に慌てて背筋が伸びる。体に染み付いたミネルヴァとしての対応だ。そして、声を出そうとして、はたと思い出す。自分は今、何故寝台に寝ていたのかを。
「失礼いたします」
ミネルヴァの声を待たずに、暗い顔をした少女が室内へ入ってきた。湯気を立てるお湯を張った洗面器を台車に乗せて運んできた少女は、ミネルヴァが寝台の上で半身を起こしているのを見て、驚きに目を見開き、その真ん丸な目からぽろぽろと涙を零した。
「お嬢様っ!」
毛足の長い絨毯に蹴躓きながらも寝台へ駆け寄り、跪いてミネルヴァの顔を見つめる。
「お目覚めになられたのですね、お加減はいかがですか? 何か、お望みはございますか? お顔を拭かれるのでしたらお湯が御座います。お水か、果実水でよろしければそちらに、温かいものの方がよろしければ直ぐにお持ちちします。それともご入浴されますか? 直ぐに用意できるよう準備だけはしておりましたから、何でもお言い付けになって下さい!」
矢継ぎ早な少女、ミネルヴァ付きの侍女であり、子爵家令嬢で有りながらミネルヴァに生涯仕える事を誓ってくれた、リーネアッラ・アイネ・ミクイラの様子に、思わず笑みが浮かぶ。
「ありがとう、リーネ、果実水が飲みたいわ」
「はい、かしこまりました!」
飛び跳ねるように壁際の棚上へ向かうと、リーネアッラは二つ並んだ水差しの、青い方からグラスへと水を注ぐ。ミネルヴァが好きで常備させている柑橘を浸した果実水だ。
グラスを受け取り、口をつけようとすると、再び扉が鳴る。ミネルヴァ付きの執事であるヴァラド・クリス・ロイの声がした。ミネルヴァが声を上げる前に、私が、とリーネアッラが扉へ向かう。リーネアッラから事情を話されたのだろう、安堵の表情を浮かべてヴァラドが入って来た。
「心配をかけて御免なさいね」
ヴァラドが口を開く前に、ミネルヴァの方から声をかける。幼い頃から既に老執事だった彼は、近頃すっかり真っ白になった眉をはね上げた。
「私を助けてくれたのは誰かしら」
「護衛のビンスです」
「そう、では、彼には褒賞を与えて頂戴。物思いに耽るあまり池に落ちるような令嬢をよく助けてくれました、と。それから、お父様とお母様には何も言わないで。流石に池に落ちたなんて恥ずかしいわ」
「…かしこまりました」
ほんのわずかな間だけ沈黙し、ヴァラドは微笑んで頷いた。幼い頃から見ているお嬢様が、何を考えているのか思い至ったのだろう。
「お嬢様?」
一方、まだ人生経験的にも付き合いの長さ的にも浅いリーネアッラは不安と心配を浮かべた顔でミネルヴァを見つめる。
「リーネ、心配しないで」
そっとその手をとって、微笑みと共にその目を見つめ返す。
「今までの私は、死んだのよ」
ミネルヴァの囁きに、リーネアッラが息を呑むように言葉を詰まらせる。
「これからは新しく生きていくの。さっき、目を覚まして、今、貴方達と共にここにいる自分を、私はとても嬉しく受け止めているわ。だから、心配しないで」
続いた言葉に泣き笑いの表情で答えて、リーネアッラは頷いた。
池に落ちたなど、大嘘だ。実際のミネルヴァは、崖から海へ飛び降りたのだ。護衛としてついていたビンスに一人になりたいと告げ、間違っても止められることのないよう何気ないふりをして、海中へ飛び込んだ。
持ってきたお湯を下げるため、リーネアッラが退室した隙に、ヴァラドから説明を受ける。一度は心肺停止になり、蘇生処置を施されても目を覚ますことなくこの寝台で丸一日眠っていたらしい。よく生きていたものだ、と思うと同時に、だからこんな記憶を持って目を覚ましたのだろうな、と納得してしまった。
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