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第一章:まずは、スタートラインに立つために。
2.考えよう
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一人の部屋でゆっくりと考える。
公爵令嬢ミネルヴァ・アイネ・グリッツの身に起きた顛末。
そして、自分が知る悪役令嬢ミネルヴァ・アイネ・グリッツの設定。
(………あ、駄目だ…意外と憶えてない)
彼女が思い出そうとしたのは、前世でプレイした乙女ゲームの記憶。だが、そもそもゲームのタイトルすら覚えていなかった。
元々、中学生になると同時にテニス部に入った姉が、部活漬けでゲームをしなくなったために触っても良いと言われて、遊び始めた。自分が欲しいとかしたいと思うゲームが有った訳ではない。ただ、姉の持ち物で触ることが許されていなかったゲームに、触れることが嬉しかったのだ。だから、ゲームへの興味は操作できることそのものであって、ソフトにはあまり向いていなかった。
(えーっと…でも確かにストーリーに覚えはあるのよ…多分、今ぼんやり思い出してるタイトルは、違う気がするけど………まぁ、良いわ。タイトルは肝心じゃないし、重要なのはストーリーの方よ)
幾つかプレイしたソフトのストーリーが微妙に混ざっている気はするが、ミネルヴァの身に起きた事実を元に、この世界のストーリーを思い返す。
まず、ミネルヴァが、この国の王太子クリストフ・クリス・ローグネッツと婚約関係になったのは、産まれたその瞬間からだった。当然ミネルヴァの意思ではない。
現国王ジェラルド・クリス・ローグネッツと国王妃フローティア・リンク・ローグネッツ、スティアン・ディオ・グリッツ公爵ならびにその妻アイリーン・オリガ・ライネッツ公爵、彼等は幼少期から親しく友誼を結ぶ幼馴染同士であった。そんな彼等であるから、妻達の妊娠時期が重なった際に、子供達の性別が男女であれば許嫁にしようと約束したのである。
まだ産まれぬ子供達からすれば、重大な将来を酒盛りの合間に決めやがって、と怒りたいところだろうが。性別が、どちらがどちらであっても、身分的にも不足が無いことを考えれば、酒盛りの場で無くとも確実にその婚姻関係は成立しただろう。
(産まれながらに国王妃への道が決まっていた少女。実情の見えない庶民からしたら生粋のプリンセスって事しか考えないもんなぁ)
ゲームをプレイしていた時、彼女は小学四年生だった。キャラクターのバックグラウンドを想像してゲームをプレイするような事は無く。当然の事として主人公視点で自分をゲーム世界に没入させ、悪役令嬢ミネルヴァを何て意地の悪い酷いヤツだろうこんな人がお姫様で婚約者なんてありえない、と考えていた。
物語のキャラクターが、その人物にはその人物なりの人生があって主人公と対立している。そんな見方で物語を見るようになるのも、そんな物語を好んで見るようになったのも、大学生になった頃からだった。既に、ハードが壊れていたミネルヴァのゲームを再度プレイした事は無い。
(確か…王太子はその身分から周囲の期待に押しつぶされそうになっていて、平民として育ち、実は子爵家の庶子だった事が解って転校してきた主人公は、その貴族らしさの無い明るい言動で王太子の心を射止めるっていう、よくあると言ってしまえばよくある順当なストーリーだったはず)
産まれながらに国王となることが定められ、自身の伴侶である結婚相手すら自由にならず、何をするにも周囲の目を気にして生きなければならない事に、王太子は疲れ果てていた。そして、その王太子の心を救い、明るく朗らかな優しさで包み込んだのが主人公、リリィ・マリア・ネート子爵令嬢である。
(…同じはずなのに)
産まれながらに道が定められ、周囲の目と期待に晒され、緊張し続ける人生はミネルヴァも同じはずだった。いや、既存の身分よりも高みに上ることが決まっていながら、今はその高みに届かない場所に居た分だけ、ミネルヴァに向けられた目と期待は大きかっただろう。
昼の明るい光の中で、鏡に映るミネルヴァの姿を見る。簡素な白い寝巻きに身を包む、金髪碧眼の美少女。同じく金髪碧眼の王太子と並ぶ姿はただ立っているだけで絵画の様だと讃えられたものだ。
(白い肌…)
だが、実際にミネルヴァとなれば、解る。
母譲りの白い肌を維持するために、ミネルヴァがどれほど苦労していたか。父譲りの彫像めいた美貌が、冷徹に映らないよう絶えず嫌味にならない程度の微笑みを顔に貼り付けるよう苦心していたか。歴史ある二つの公爵家の血を引いている事を、やがて国王妃となるに相応しい人間である事を、出会う誰からも疑問に思われないよう立ち振る舞うために、どれほどの緊張と不安を胸中に抱いて生活していたか。
(容姿を磨き、教養を磨き、求められる期待に懸命に答えようとした十六歳の少女。同じものを抱えながらもミネルヴァは王太子に選ばれなかった…)
ずきりと胸が痛んだ気がした。心の中で、ミネルヴァに話しかける。大丈夫か、と問うてみる。返事はない。彼女が記憶を思い出してから、ずっと、何処か遠くでミネルヴァは固く閉じ篭っていた。本当に死んでしまってはいないと思うのは、確かにミネルヴァの存在を感じているからだ。だが、王太子を思い出して胸が痛んだ以外、応えてはくれない。
(私に、何ができるのかしら)
公爵令嬢ミネルヴァ・アイネ・グリッツの身に起きた顛末。
そして、自分が知る悪役令嬢ミネルヴァ・アイネ・グリッツの設定。
(………あ、駄目だ…意外と憶えてない)
彼女が思い出そうとしたのは、前世でプレイした乙女ゲームの記憶。だが、そもそもゲームのタイトルすら覚えていなかった。
元々、中学生になると同時にテニス部に入った姉が、部活漬けでゲームをしなくなったために触っても良いと言われて、遊び始めた。自分が欲しいとかしたいと思うゲームが有った訳ではない。ただ、姉の持ち物で触ることが許されていなかったゲームに、触れることが嬉しかったのだ。だから、ゲームへの興味は操作できることそのものであって、ソフトにはあまり向いていなかった。
(えーっと…でも確かにストーリーに覚えはあるのよ…多分、今ぼんやり思い出してるタイトルは、違う気がするけど………まぁ、良いわ。タイトルは肝心じゃないし、重要なのはストーリーの方よ)
幾つかプレイしたソフトのストーリーが微妙に混ざっている気はするが、ミネルヴァの身に起きた事実を元に、この世界のストーリーを思い返す。
まず、ミネルヴァが、この国の王太子クリストフ・クリス・ローグネッツと婚約関係になったのは、産まれたその瞬間からだった。当然ミネルヴァの意思ではない。
現国王ジェラルド・クリス・ローグネッツと国王妃フローティア・リンク・ローグネッツ、スティアン・ディオ・グリッツ公爵ならびにその妻アイリーン・オリガ・ライネッツ公爵、彼等は幼少期から親しく友誼を結ぶ幼馴染同士であった。そんな彼等であるから、妻達の妊娠時期が重なった際に、子供達の性別が男女であれば許嫁にしようと約束したのである。
まだ産まれぬ子供達からすれば、重大な将来を酒盛りの合間に決めやがって、と怒りたいところだろうが。性別が、どちらがどちらであっても、身分的にも不足が無いことを考えれば、酒盛りの場で無くとも確実にその婚姻関係は成立しただろう。
(産まれながらに国王妃への道が決まっていた少女。実情の見えない庶民からしたら生粋のプリンセスって事しか考えないもんなぁ)
ゲームをプレイしていた時、彼女は小学四年生だった。キャラクターのバックグラウンドを想像してゲームをプレイするような事は無く。当然の事として主人公視点で自分をゲーム世界に没入させ、悪役令嬢ミネルヴァを何て意地の悪い酷いヤツだろうこんな人がお姫様で婚約者なんてありえない、と考えていた。
物語のキャラクターが、その人物にはその人物なりの人生があって主人公と対立している。そんな見方で物語を見るようになるのも、そんな物語を好んで見るようになったのも、大学生になった頃からだった。既に、ハードが壊れていたミネルヴァのゲームを再度プレイした事は無い。
(確か…王太子はその身分から周囲の期待に押しつぶされそうになっていて、平民として育ち、実は子爵家の庶子だった事が解って転校してきた主人公は、その貴族らしさの無い明るい言動で王太子の心を射止めるっていう、よくあると言ってしまえばよくある順当なストーリーだったはず)
産まれながらに国王となることが定められ、自身の伴侶である結婚相手すら自由にならず、何をするにも周囲の目を気にして生きなければならない事に、王太子は疲れ果てていた。そして、その王太子の心を救い、明るく朗らかな優しさで包み込んだのが主人公、リリィ・マリア・ネート子爵令嬢である。
(…同じはずなのに)
産まれながらに道が定められ、周囲の目と期待に晒され、緊張し続ける人生はミネルヴァも同じはずだった。いや、既存の身分よりも高みに上ることが決まっていながら、今はその高みに届かない場所に居た分だけ、ミネルヴァに向けられた目と期待は大きかっただろう。
昼の明るい光の中で、鏡に映るミネルヴァの姿を見る。簡素な白い寝巻きに身を包む、金髪碧眼の美少女。同じく金髪碧眼の王太子と並ぶ姿はただ立っているだけで絵画の様だと讃えられたものだ。
(白い肌…)
だが、実際にミネルヴァとなれば、解る。
母譲りの白い肌を維持するために、ミネルヴァがどれほど苦労していたか。父譲りの彫像めいた美貌が、冷徹に映らないよう絶えず嫌味にならない程度の微笑みを顔に貼り付けるよう苦心していたか。歴史ある二つの公爵家の血を引いている事を、やがて国王妃となるに相応しい人間である事を、出会う誰からも疑問に思われないよう立ち振る舞うために、どれほどの緊張と不安を胸中に抱いて生活していたか。
(容姿を磨き、教養を磨き、求められる期待に懸命に答えようとした十六歳の少女。同じものを抱えながらもミネルヴァは王太子に選ばれなかった…)
ずきりと胸が痛んだ気がした。心の中で、ミネルヴァに話しかける。大丈夫か、と問うてみる。返事はない。彼女が記憶を思い出してから、ずっと、何処か遠くでミネルヴァは固く閉じ篭っていた。本当に死んでしまってはいないと思うのは、確かにミネルヴァの存在を感じているからだ。だが、王太子を思い出して胸が痛んだ以外、応えてはくれない。
(私に、何ができるのかしら)
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