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第一章:まずは、スタートラインに立つために。
EX_フランセスカ様はお怒りです
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華やかな卒院式の会場で、フランセスカは待っていた。ろくにものを考えられない低脳が、馬鹿に連れられて、これ以上ない愚行を犯すその瞬間を。
「フランセスカ・オリガ・ライネッツ」
「はい、何用で御座いましょう、殿下」
「本日はお前の罪を公のものとするべく、少々この場を使うことにした」
「然様でございますか」
低脳が態とらしい媚びた様で馬鹿にしなだれかかっているが、視界に収めつつも絶対に視線を向けないようにする。
(あーあ…本当に、なんでこんな馬鹿がミーナの許嫁なのかしら)
フランセスカは昔から、それこそ物心が着いた頃から、この馬鹿が嫌いだった。
まず、初めて見た時、まるで当然の様にミネルヴァの横に立っていたのが気に入らなかった。
次に、ミネルヴァとのお茶の約束に横入りして彼女を連れて行ってしまった事に腹が立った。大人の都合だと言われていたが、メインが馬鹿に会うことであるなら、フランセスカからミネルヴァを奪ったのは馬鹿だ。
更に、ミネルヴァが懸命に馬鹿なんかのために身につけた行儀作法を、相手が恥ずかしくならないようにとの気遣いで、フランセスカと遊ぶ時間を削ってまで、努めて身につけた行儀作法を、自分は当然の様に嫌いだと言って適当にしたのを見て、殴ろうと思いついた。
それだけではない。
ミネルヴァのあらゆる努力を理解せず。公爵令嬢ならばそれが当然だろうという考えで、自分は身分に相応した態度を身に着けようともせず、まるで何もかも彼女に非があるように時に責めた。
「………殺す」
初めて口に出して呟いた時、ミネルヴァはダンスフロアで独り泣いていた。
今でも覚えている。親に言われたからと渋々ミネルヴァを誘ってフロアに出ておきながら、曲が変わった途端、ミネルヴァを置き去りにして去っていったのだ。後からその曲の踊りを知らなかったからだと聞いた。知らないなら知らないで構わない。馬鹿はやっぱり馬鹿だったな、この馬鹿が、と思っただけだろう。何故共に下がらないのか、何故ミネルヴァに知らないと言わないのか、何故泣いている彼女を独りにしたのか。
明確にこの馬鹿を何時か殺そうと考えたのはこの時からだった。
「まず、訊いてやろう。身に覚えがあるな?」
(はぁ?)
フランセスカは壇上から威圧的に見下ろしてくる得意満面の馬鹿に無言で笑顔を返した。何の感情もない、形だけの笑顔だ。もっとも、ずいぶん昔から馬鹿にはこの笑顔以外向けた事はない。
案の定、馬鹿は気にした様子もなく話し始めた。馬鹿の横で痴態を晒す低脳に、フランセスカが行ったという罪状を。
おおよそ身に覚えのない事だった、はじめの幾つかは悪意的に誇張さていたが確かにやったな、と思った。だが、その後の罪状とやらは知らない事ばかりだ。
よくもまぁここまででっち上げたものだ、と考えた奴の性格の悪さが気になったが、勿論心配したのではなく、身に禍を呼び込むぞと思っただけだ。
学院では、全員が同じ院生という社会的身分を持つ。
だが、それは、そういう建前になっているから、今の内に社会で通用する身分相応の振る舞いを見につけてね、という期間が与えられているにすぎない。
例えば、罪状一つ目。
フランセスカが低脳に挨拶をされて無視をした、あげく話しかけるなと罵った、とあった。
確かにそんな事はあった。フランセスカが候爵家令嬢と親しく話をしていた所に、挨拶を投げかけられ、背を向けていたのでそのまま無視をしたのだ。この時、候爵家令嬢は微苦笑で会釈を返し、やんわりと、話し中ですからお下がりになって、と伝えていた。
まず大前提に、これから彼女達が踏み込む社会では、身分が下の者から上の者へ話しかけることはしてはならない。まして身分が上の人達が会話をしているのを遮るなど、警備につまみ出されても文句が言えない事態だ。もしどうあっても話したいなら会話が終わるまで控えているべきだし、挨拶だけなら無言で会釈をして去るべきだ。という絶対の現実がある。
そして、この時候爵家令嬢がわざわざ会釈を返し言葉で話し中だから下がって欲しいと言ったのは、貴族社会の常識を知らない途中編入生に、より身分が近い立場の自分が伝えてあげなくては、と考えたからだ。その役割分担を理解しているから、フランセスカもただ黙っていたのだ。
ところが、何故同じ身分の院生であるのにそんな事を守らなくてはならないのですか、と言われ、候爵家令嬢は唖然とした。
何故も何も、身分がはっきりした社会に出てから失敗したら刑罰の対象になるから、そこをぼやかしている今の内に振る舞いを身につけるのだが、とは、普通入学した時に聞かされる。編入してきた彼女には誰も教えなかったのだろうか、と慌てた候爵家令嬢は伝えた。
だが。そんなのはおかしい、振る舞いは身につけるべきかもしれないがそれでもここでは自由にして良いといわれているのだから、私が挨拶をしたら返すのが人として当然だろう、と返された。
もはや候爵家令嬢には続けられる言葉がない。学院に居る内に振る舞いを身に付けるのだと聞かされていてこの態度なのかと呆れ返っていたし、彼女の論法についていけず僅かに嫌悪も感じ始めていた。
そんな候爵家令嬢に気付いたフランセスカは、言葉が通じない人と出来る話は無いわよ、と言って候爵家令嬢に共に移動しようと促してその場を去った。
あの一連が、罪だという。
(あら、いけない、聞いているのも面倒になって最後の方何を言ったかよく解らなくなったわ。まぁ、いいか)
罪状とやらが述べられている間は一応聞いていたのだが、その内、低脳が泣き真似などして馬鹿に絡むのを見せられてうんざりしたのだ。低脳の話を聞く気がないので、そちらが口を開いて言い募り始めたせいでもある。
ともあれ、状況は最終局面を迎えたらしい。
低脳が紙の束を馬鹿に渡して叫んでいる。
「これが証拠です!」
馬鹿がドヤ顔で見せつける様に紙の束を示しているので、フランセスカは視線をこんな時のためにと来てもらっていた人物に向ける。
視線を受けた男性は一つ頷いて、二人の部下と共に馬鹿へ近付いていく。彼等は身分と職を名乗り紙束を受け取るとその場で持ってきた書類と照らし合わせ始めた。
量が多い事もあって多少時間がかかっていたが、フランセスカは表情を変えずに時を待った。馬鹿と低脳はまだかと文句を言いながらべたべたと相変わらずの痴態を晒していたが、フランセスカはもうその二人を見ていない。
彼は部下に何事かを言いつけ使いに出すと、証拠だという紙束を持ってフランセスカへ近付いた。
「確認は終わりましたよ」
「ご苦労様でございます」
「貴方こそ、大変でしたね」
大したことではない、と笑顔を浮かべれば、苦笑が返ってきた。
彼、マリウスの父親であり現判事長であるトーラス・リッツ・フリッツ候爵は、昔から息子の幼馴染の少女によくこんな顔をする。
少しご機嫌伺いのような世間話をしていると、候爵の背後から悲鳴と怒号が聞こえたが、フランセスカは興味がないので無視をして世間話を続けた。
しばらくそうしていると、候爵に馬鹿が絡んだ。
「どういうことだ!」
「どう、とは?」
「この女ではなく何故リリィが連れて行かれるのだ!」
「現在既に明らかな罪状については連行の際に申し渡されたはずですが」
「そんな罪は嘘だ! 貴様は判事長の地位に在りながら真実を捻じ曲げるつもりか!?」
フランセスカは馬鹿の怒鳴り声を聞きながら、馬鹿ってここまで馬鹿だったかしら低脳って伝染るのね嫌だわ、などと考えていた。
侯爵は、努めて無表情を作り冷静に対応しているが、喚き散らす相手には落ち着かせるというより逆なでる結果になってしまっているようだ。次第に言葉が低脳の潔白を訴えることから、息子が親交のあるフランセスカに肩入れし証拠を偽造したのだろうという論調に変わっていっている。
ちなみに、候爵等が持参し証拠と言われた紙束と照らし合わせていたのは、国家文書の写である。国王直属の王立騎士団配下による活動報告書であり、団長は勿論、国王陛下の署名も書かれた正式な国家文書だ。活動の内容は、王太子の許嫁であるミネルヴァ・アイネ・グリッツ公爵令嬢ならびに、その友人であるフランセスカ・オリガ・ライネッツ公爵家令嬢の日常警護報告だ。
そう、王太子の許嫁、という身分が産まれながらに与えられていたミネルヴァには、常に警護という名の監視あるいは観察の目が付いていたのだ。そして、彼女と多くの場合行動を共にしていたフランセスカの行動も、その報告書には記載されている。
その国家文書と、低脳がフランセスカを断罪するべく証拠としてまとめた証言録が照らし合わされた結果。証言録が捏造された偽文書であると判明したのである。そして、それは、未だ公的には王太子の許嫁である公爵令嬢ミネルヴァを、虚偽の罪によって侮辱した、と断じられた。
そして、リリィは捕まったのだ。判明している罪状は、侮辱罪と公文書偽造罪。軽く済んでも財産身分剥奪の上国外追放、普通でも極刑という罪である。
言い争い、というか一方的な言いがかりが収まる気配が無いので、フランセスカは判事長の部下に声をかけ、持ってきた書類を提出した。
「あの、こちら、わたくしが持ってまりました殿下への弾劾状です」
ずいぶん五月蝿く怒鳴っていたのに、弾劾状という言葉を聞き逃さなかったらしい。馬鹿はフランセスカに向かって手を伸ばし捉えようとしたが、騒いでいる間に近付いてきていた近衛騎士に取り押さえられた。
そのまま弾劾状と共に退室するのを無表情で見送り、扉が閉まり五月蝿い声が聞こえなくなったところで、この式場に入って初めてフランセスカは心からの笑顔を浮かべた。
(あーすっきりした!)
晴々とした顔で今回の件で協力してくれた人々に挨拶をしていると、不安そうな顔で兄に連れられたミネルヴァの姿を見つける。
「ミーナ!」
自分を見つけて笑顔を浮かべる愛しい幼馴染の元へ向かいながら、フランセスカはようやく長年の怒りが溶けるのを感じていた。
後日。
リリィ・マリア・ネートの罪状に、王太子への薬物投与という事由が加わり、極刑を免れない事態になった。
ただ、既に公的にもミネルヴァとの婚約関係が解消されていた王太子に関わる事など、フランセスカにとっては愛想笑いで聞き流す天気の話にも劣る世間話である。よって、なんの感慨もない。
□fin
「フランセスカ・オリガ・ライネッツ」
「はい、何用で御座いましょう、殿下」
「本日はお前の罪を公のものとするべく、少々この場を使うことにした」
「然様でございますか」
低脳が態とらしい媚びた様で馬鹿にしなだれかかっているが、視界に収めつつも絶対に視線を向けないようにする。
(あーあ…本当に、なんでこんな馬鹿がミーナの許嫁なのかしら)
フランセスカは昔から、それこそ物心が着いた頃から、この馬鹿が嫌いだった。
まず、初めて見た時、まるで当然の様にミネルヴァの横に立っていたのが気に入らなかった。
次に、ミネルヴァとのお茶の約束に横入りして彼女を連れて行ってしまった事に腹が立った。大人の都合だと言われていたが、メインが馬鹿に会うことであるなら、フランセスカからミネルヴァを奪ったのは馬鹿だ。
更に、ミネルヴァが懸命に馬鹿なんかのために身につけた行儀作法を、相手が恥ずかしくならないようにとの気遣いで、フランセスカと遊ぶ時間を削ってまで、努めて身につけた行儀作法を、自分は当然の様に嫌いだと言って適当にしたのを見て、殴ろうと思いついた。
それだけではない。
ミネルヴァのあらゆる努力を理解せず。公爵令嬢ならばそれが当然だろうという考えで、自分は身分に相応した態度を身に着けようともせず、まるで何もかも彼女に非があるように時に責めた。
「………殺す」
初めて口に出して呟いた時、ミネルヴァはダンスフロアで独り泣いていた。
今でも覚えている。親に言われたからと渋々ミネルヴァを誘ってフロアに出ておきながら、曲が変わった途端、ミネルヴァを置き去りにして去っていったのだ。後からその曲の踊りを知らなかったからだと聞いた。知らないなら知らないで構わない。馬鹿はやっぱり馬鹿だったな、この馬鹿が、と思っただけだろう。何故共に下がらないのか、何故ミネルヴァに知らないと言わないのか、何故泣いている彼女を独りにしたのか。
明確にこの馬鹿を何時か殺そうと考えたのはこの時からだった。
「まず、訊いてやろう。身に覚えがあるな?」
(はぁ?)
フランセスカは壇上から威圧的に見下ろしてくる得意満面の馬鹿に無言で笑顔を返した。何の感情もない、形だけの笑顔だ。もっとも、ずいぶん昔から馬鹿にはこの笑顔以外向けた事はない。
案の定、馬鹿は気にした様子もなく話し始めた。馬鹿の横で痴態を晒す低脳に、フランセスカが行ったという罪状を。
おおよそ身に覚えのない事だった、はじめの幾つかは悪意的に誇張さていたが確かにやったな、と思った。だが、その後の罪状とやらは知らない事ばかりだ。
よくもまぁここまででっち上げたものだ、と考えた奴の性格の悪さが気になったが、勿論心配したのではなく、身に禍を呼び込むぞと思っただけだ。
学院では、全員が同じ院生という社会的身分を持つ。
だが、それは、そういう建前になっているから、今の内に社会で通用する身分相応の振る舞いを見につけてね、という期間が与えられているにすぎない。
例えば、罪状一つ目。
フランセスカが低脳に挨拶をされて無視をした、あげく話しかけるなと罵った、とあった。
確かにそんな事はあった。フランセスカが候爵家令嬢と親しく話をしていた所に、挨拶を投げかけられ、背を向けていたのでそのまま無視をしたのだ。この時、候爵家令嬢は微苦笑で会釈を返し、やんわりと、話し中ですからお下がりになって、と伝えていた。
まず大前提に、これから彼女達が踏み込む社会では、身分が下の者から上の者へ話しかけることはしてはならない。まして身分が上の人達が会話をしているのを遮るなど、警備につまみ出されても文句が言えない事態だ。もしどうあっても話したいなら会話が終わるまで控えているべきだし、挨拶だけなら無言で会釈をして去るべきだ。という絶対の現実がある。
そして、この時候爵家令嬢がわざわざ会釈を返し言葉で話し中だから下がって欲しいと言ったのは、貴族社会の常識を知らない途中編入生に、より身分が近い立場の自分が伝えてあげなくては、と考えたからだ。その役割分担を理解しているから、フランセスカもただ黙っていたのだ。
ところが、何故同じ身分の院生であるのにそんな事を守らなくてはならないのですか、と言われ、候爵家令嬢は唖然とした。
何故も何も、身分がはっきりした社会に出てから失敗したら刑罰の対象になるから、そこをぼやかしている今の内に振る舞いを身につけるのだが、とは、普通入学した時に聞かされる。編入してきた彼女には誰も教えなかったのだろうか、と慌てた候爵家令嬢は伝えた。
だが。そんなのはおかしい、振る舞いは身につけるべきかもしれないがそれでもここでは自由にして良いといわれているのだから、私が挨拶をしたら返すのが人として当然だろう、と返された。
もはや候爵家令嬢には続けられる言葉がない。学院に居る内に振る舞いを身に付けるのだと聞かされていてこの態度なのかと呆れ返っていたし、彼女の論法についていけず僅かに嫌悪も感じ始めていた。
そんな候爵家令嬢に気付いたフランセスカは、言葉が通じない人と出来る話は無いわよ、と言って候爵家令嬢に共に移動しようと促してその場を去った。
あの一連が、罪だという。
(あら、いけない、聞いているのも面倒になって最後の方何を言ったかよく解らなくなったわ。まぁ、いいか)
罪状とやらが述べられている間は一応聞いていたのだが、その内、低脳が泣き真似などして馬鹿に絡むのを見せられてうんざりしたのだ。低脳の話を聞く気がないので、そちらが口を開いて言い募り始めたせいでもある。
ともあれ、状況は最終局面を迎えたらしい。
低脳が紙の束を馬鹿に渡して叫んでいる。
「これが証拠です!」
馬鹿がドヤ顔で見せつける様に紙の束を示しているので、フランセスカは視線をこんな時のためにと来てもらっていた人物に向ける。
視線を受けた男性は一つ頷いて、二人の部下と共に馬鹿へ近付いていく。彼等は身分と職を名乗り紙束を受け取るとその場で持ってきた書類と照らし合わせ始めた。
量が多い事もあって多少時間がかかっていたが、フランセスカは表情を変えずに時を待った。馬鹿と低脳はまだかと文句を言いながらべたべたと相変わらずの痴態を晒していたが、フランセスカはもうその二人を見ていない。
彼は部下に何事かを言いつけ使いに出すと、証拠だという紙束を持ってフランセスカへ近付いた。
「確認は終わりましたよ」
「ご苦労様でございます」
「貴方こそ、大変でしたね」
大したことではない、と笑顔を浮かべれば、苦笑が返ってきた。
彼、マリウスの父親であり現判事長であるトーラス・リッツ・フリッツ候爵は、昔から息子の幼馴染の少女によくこんな顔をする。
少しご機嫌伺いのような世間話をしていると、候爵の背後から悲鳴と怒号が聞こえたが、フランセスカは興味がないので無視をして世間話を続けた。
しばらくそうしていると、候爵に馬鹿が絡んだ。
「どういうことだ!」
「どう、とは?」
「この女ではなく何故リリィが連れて行かれるのだ!」
「現在既に明らかな罪状については連行の際に申し渡されたはずですが」
「そんな罪は嘘だ! 貴様は判事長の地位に在りながら真実を捻じ曲げるつもりか!?」
フランセスカは馬鹿の怒鳴り声を聞きながら、馬鹿ってここまで馬鹿だったかしら低脳って伝染るのね嫌だわ、などと考えていた。
侯爵は、努めて無表情を作り冷静に対応しているが、喚き散らす相手には落ち着かせるというより逆なでる結果になってしまっているようだ。次第に言葉が低脳の潔白を訴えることから、息子が親交のあるフランセスカに肩入れし証拠を偽造したのだろうという論調に変わっていっている。
ちなみに、候爵等が持参し証拠と言われた紙束と照らし合わせていたのは、国家文書の写である。国王直属の王立騎士団配下による活動報告書であり、団長は勿論、国王陛下の署名も書かれた正式な国家文書だ。活動の内容は、王太子の許嫁であるミネルヴァ・アイネ・グリッツ公爵令嬢ならびに、その友人であるフランセスカ・オリガ・ライネッツ公爵家令嬢の日常警護報告だ。
そう、王太子の許嫁、という身分が産まれながらに与えられていたミネルヴァには、常に警護という名の監視あるいは観察の目が付いていたのだ。そして、彼女と多くの場合行動を共にしていたフランセスカの行動も、その報告書には記載されている。
その国家文書と、低脳がフランセスカを断罪するべく証拠としてまとめた証言録が照らし合わされた結果。証言録が捏造された偽文書であると判明したのである。そして、それは、未だ公的には王太子の許嫁である公爵令嬢ミネルヴァを、虚偽の罪によって侮辱した、と断じられた。
そして、リリィは捕まったのだ。判明している罪状は、侮辱罪と公文書偽造罪。軽く済んでも財産身分剥奪の上国外追放、普通でも極刑という罪である。
言い争い、というか一方的な言いがかりが収まる気配が無いので、フランセスカは判事長の部下に声をかけ、持ってきた書類を提出した。
「あの、こちら、わたくしが持ってまりました殿下への弾劾状です」
ずいぶん五月蝿く怒鳴っていたのに、弾劾状という言葉を聞き逃さなかったらしい。馬鹿はフランセスカに向かって手を伸ばし捉えようとしたが、騒いでいる間に近付いてきていた近衛騎士に取り押さえられた。
そのまま弾劾状と共に退室するのを無表情で見送り、扉が閉まり五月蝿い声が聞こえなくなったところで、この式場に入って初めてフランセスカは心からの笑顔を浮かべた。
(あーすっきりした!)
晴々とした顔で今回の件で協力してくれた人々に挨拶をしていると、不安そうな顔で兄に連れられたミネルヴァの姿を見つける。
「ミーナ!」
自分を見つけて笑顔を浮かべる愛しい幼馴染の元へ向かいながら、フランセスカはようやく長年の怒りが溶けるのを感じていた。
後日。
リリィ・マリア・ネートの罪状に、王太子への薬物投与という事由が加わり、極刑を免れない事態になった。
ただ、既に公的にもミネルヴァとの婚約関係が解消されていた王太子に関わる事など、フランセスカにとっては愛想笑いで聞き流す天気の話にも劣る世間話である。よって、なんの感慨もない。
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