21 / 49
第二章:スタートきったら必要なもの? 解ります。体力ですね。
6.想定外です
しおりを挟む
そろそろシーズンも終盤。というか、ミネルヴァの予定では残すところあと一つの夜会に出席するとシーズン終了となり、グリッツ領へ向かう事になる。
「はぁ………」
結局、手紙をやり取りするような相手は、一人もできなかった。
アイリーンから家柄や噂による条件クリアのお相手を教えてもらう事には成功した。むしろ、やっと訊いてきてくれたわね、という反応だった。言い出すのを待っていたらしい。
交流を広め、社交に慣れるという事にも成功した。今やミネルヴァの友人は三十倍に膨れ上がった。初めの数がフランセスカの一な訳だが。
広がった交流を挟んで、アイリーンからの返事の相手が出席する会を探り、同じ会に参加する事にも成功した。残念ながら世間話以上に話が弾むことはなく、どう会話をしたものか探りながら話をしている、という状況に前世の記憶が重なった。
(男の人との忌憚の無い会話ってどうすれば良いのかしら)
またこのまま三十三歳までお相手もいないなどという事になったら、と思うと、背筋が凍る。前世では自分一人の問題で終わったが、今世でそうなった場合、グリッツ家の名誉と存亡が関わってくる。
(まぁ、最悪、選択権とか色恋とか抜きで条件の合うお相手と結婚って事になるだけなんだろうけど…)
蓋を開けてみれば、残念な事に何もない、という状況から始まった。
出会いの場に赴き、交流を広め、その交流の中から深めていく。それが理想だったのだが、今シーズンは広めるだけで精一杯だった。シーズン中盤でちょっとへたばってしまったせいもあるだろうが。
「はぁ…」
来シーズンがあるさと心で呟いて立ち上がる。バルコニーに戻ってきたイーグルが、でっぷりと太った鼠を捕まえているのが見えたのだ。
「どうぞ」
だが、イーグルに声をかける前に扉がノックされ、リーネアッラの声に何気なく入室を許可した。イーグルに良くやったわね、と一声かけてから扉に向き合うと、困った顔で立ち尽くす姿が目に入った。
「どうかしたの?」
「あの、それが…ちょっと変わったお客様が」
「私に?」
「はい。リンク通りのお針子から来た、ギリット・メイスさんという殿方なのですが…」
リンク通りのお針子というのは、サフ=ジーノの店の名前である。
「ギリット・メイス…ああ、イーグルの羽で髪飾りを作って下さった細工師の方ね」
「あ、そうなのですか」
「でも、お約束はしてないわ。お一人で訪ねていらしたの?」
「はい。今は、応接室に通しております。要件は、お嬢様にお会いしたいと言うだけで…」
ミネルヴァは少し考えたが、いつかは直接お礼を言いたいなと思っていた事もあり、会うことに決めた。
(ジーノはシーズンが始まってから忙しくしていて全く会っていないし。もしかしたら、何かあって、彼の使いとして来ているのかしら? でもそれならジーノの使いだって言うわよね)
リーネアッラが先に声をかけ、扉を開けて待ってくれている居間に入っていく。
「っ…!」
座るでもなく椅子の傍で立ち尽くしているギリットの姿に、思わず息を呑む。丁寧に撫で付けられた灰色の髪にと同色の眉の下で、金の瞳が見つめ返していた。
(え…嘘!)
イーグルに似ている。真っ先にそう思った事は事実だし、誰が見ても似ていると頷いてくれるだろう。
(駄目よ! それは駄目!)
だが、とくんと胸が高鳴り、頬に熱が集まるのはまずい。
(落ち着いて私! 落ち着くのよ!)
ミネルヴァは息の仕方さえよく解らなくなり始め、慌てて側に居たリーネアッラに声をかけた。
「リーネ、お茶をお願い」
「畏まりました」
声を出して、リーネアッラの声を聞いて、少し落ち着く。そっとリーネアッラに逸らしていた視線を戻せば、ギリットは丁寧に最上級の礼となる角度まで腰を折った。
「本日は、失礼と承知しながら突然の訪問を致しまして誠に申し訳なく。また、快くお迎え下さいました事に深く感謝しております」
「どうぞ、気になさらずに。私もお会いしたいと思っておりましたの。髪飾りの事、とても素敵な品で、心から気に入っております」
「ありがとうございます」
(落ち着いた、低い声だわ。ゆったりとして丁寧な話し方…礼の姿勢もきれい…)
サフ=ジーノは二十歳で工房入りしてきた変わり者だと表現していた。腕は確かだったので雇ったが、訳有って前職を辞め、特に職人に弟子入りしてはいなかったが銀細工は作れるので職人として雇って欲しい、と突然現れた時は驚いたと苦笑も浮かべていた。
あまり二十歳という歳で職人に成ろうとする者はいない。職人への弟子入りは十二歳から認められるし、それが家業であれば十歳から仕事を手伝っても許される。子供の時から多くの作品に触れ、多くの作品を生む方が、当然技術は身に付き易い。
(何の仕事をされていたのかしら…)
ギリットのしっかりとした肩が元の位置に戻るのを目で追って、止まったところでミネルヴァは自分がぼうっとしていた事に気付く。
「どうぞ、おかけになって」
誤魔化すように声をかけ、自分も椅子へ向かう。
心の中でリーネアッラをどうして行かせてしまったのだろうと後悔していた。
「はぁ………」
結局、手紙をやり取りするような相手は、一人もできなかった。
アイリーンから家柄や噂による条件クリアのお相手を教えてもらう事には成功した。むしろ、やっと訊いてきてくれたわね、という反応だった。言い出すのを待っていたらしい。
交流を広め、社交に慣れるという事にも成功した。今やミネルヴァの友人は三十倍に膨れ上がった。初めの数がフランセスカの一な訳だが。
広がった交流を挟んで、アイリーンからの返事の相手が出席する会を探り、同じ会に参加する事にも成功した。残念ながら世間話以上に話が弾むことはなく、どう会話をしたものか探りながら話をしている、という状況に前世の記憶が重なった。
(男の人との忌憚の無い会話ってどうすれば良いのかしら)
またこのまま三十三歳までお相手もいないなどという事になったら、と思うと、背筋が凍る。前世では自分一人の問題で終わったが、今世でそうなった場合、グリッツ家の名誉と存亡が関わってくる。
(まぁ、最悪、選択権とか色恋とか抜きで条件の合うお相手と結婚って事になるだけなんだろうけど…)
蓋を開けてみれば、残念な事に何もない、という状況から始まった。
出会いの場に赴き、交流を広め、その交流の中から深めていく。それが理想だったのだが、今シーズンは広めるだけで精一杯だった。シーズン中盤でちょっとへたばってしまったせいもあるだろうが。
「はぁ…」
来シーズンがあるさと心で呟いて立ち上がる。バルコニーに戻ってきたイーグルが、でっぷりと太った鼠を捕まえているのが見えたのだ。
「どうぞ」
だが、イーグルに声をかける前に扉がノックされ、リーネアッラの声に何気なく入室を許可した。イーグルに良くやったわね、と一声かけてから扉に向き合うと、困った顔で立ち尽くす姿が目に入った。
「どうかしたの?」
「あの、それが…ちょっと変わったお客様が」
「私に?」
「はい。リンク通りのお針子から来た、ギリット・メイスさんという殿方なのですが…」
リンク通りのお針子というのは、サフ=ジーノの店の名前である。
「ギリット・メイス…ああ、イーグルの羽で髪飾りを作って下さった細工師の方ね」
「あ、そうなのですか」
「でも、お約束はしてないわ。お一人で訪ねていらしたの?」
「はい。今は、応接室に通しております。要件は、お嬢様にお会いしたいと言うだけで…」
ミネルヴァは少し考えたが、いつかは直接お礼を言いたいなと思っていた事もあり、会うことに決めた。
(ジーノはシーズンが始まってから忙しくしていて全く会っていないし。もしかしたら、何かあって、彼の使いとして来ているのかしら? でもそれならジーノの使いだって言うわよね)
リーネアッラが先に声をかけ、扉を開けて待ってくれている居間に入っていく。
「っ…!」
座るでもなく椅子の傍で立ち尽くしているギリットの姿に、思わず息を呑む。丁寧に撫で付けられた灰色の髪にと同色の眉の下で、金の瞳が見つめ返していた。
(え…嘘!)
イーグルに似ている。真っ先にそう思った事は事実だし、誰が見ても似ていると頷いてくれるだろう。
(駄目よ! それは駄目!)
だが、とくんと胸が高鳴り、頬に熱が集まるのはまずい。
(落ち着いて私! 落ち着くのよ!)
ミネルヴァは息の仕方さえよく解らなくなり始め、慌てて側に居たリーネアッラに声をかけた。
「リーネ、お茶をお願い」
「畏まりました」
声を出して、リーネアッラの声を聞いて、少し落ち着く。そっとリーネアッラに逸らしていた視線を戻せば、ギリットは丁寧に最上級の礼となる角度まで腰を折った。
「本日は、失礼と承知しながら突然の訪問を致しまして誠に申し訳なく。また、快くお迎え下さいました事に深く感謝しております」
「どうぞ、気になさらずに。私もお会いしたいと思っておりましたの。髪飾りの事、とても素敵な品で、心から気に入っております」
「ありがとうございます」
(落ち着いた、低い声だわ。ゆったりとして丁寧な話し方…礼の姿勢もきれい…)
サフ=ジーノは二十歳で工房入りしてきた変わり者だと表現していた。腕は確かだったので雇ったが、訳有って前職を辞め、特に職人に弟子入りしてはいなかったが銀細工は作れるので職人として雇って欲しい、と突然現れた時は驚いたと苦笑も浮かべていた。
あまり二十歳という歳で職人に成ろうとする者はいない。職人への弟子入りは十二歳から認められるし、それが家業であれば十歳から仕事を手伝っても許される。子供の時から多くの作品に触れ、多くの作品を生む方が、当然技術は身に付き易い。
(何の仕事をされていたのかしら…)
ギリットのしっかりとした肩が元の位置に戻るのを目で追って、止まったところでミネルヴァは自分がぼうっとしていた事に気付く。
「どうぞ、おかけになって」
誤魔化すように声をかけ、自分も椅子へ向かう。
心の中でリーネアッラをどうして行かせてしまったのだろうと後悔していた。
11
あなたにおすすめの小説
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
ざまぁされるのが確実なヒロインに転生したので、地味に目立たず過ごそうと思います
真理亜
恋愛
私、リリアナが転生した世界は、悪役令嬢に甘くヒロインに厳しい世界だ。その世界にヒロインとして転生したからには、全てのプラグをへし折り、地味に目立たず過ごして、ざまぁを回避する。それしかない。生き延びるために! それなのに...なぜか悪役令嬢にも攻略対象にも絡まれて...
乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが
侑子
恋愛
十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。
しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。
「どうして!? 一体どうしてなの~!?」
いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる