悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

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第二章:スタートきったら必要なもの? 解ります。体力ですね。

6.想定外です

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 そろそろシーズンも終盤。というか、ミネルヴァの予定では残すところあと一つの夜会に出席するとシーズン終了となり、グリッツ領へ向かう事になる。
「はぁ………」
 結局、手紙をやり取りするような相手は、一人もできなかった。
 アイリーンから家柄や噂による条件クリアのお相手を教えてもらう事には成功した。むしろ、やっと訊いてきてくれたわね、という反応だった。言い出すのを待っていたらしい。
 交流を広め、社交に慣れるという事にも成功した。今やミネルヴァの友人は三十倍に膨れ上がった。初めの数がフランセスカの一な訳だが。
 広がった交流を挟んで、アイリーンからの返事の相手が出席する会を探り、同じ会に参加する事にも成功した。残念ながら世間話以上に話が弾むことはなく、どう会話をしたものか探りながら話をしている、という状況に前世の記憶が重なった。
(男の人との忌憚の無い会話ってどうすれば良いのかしら)
 またこのまま三十三歳までお相手もいないなどという事になったら、と思うと、背筋が凍る。前世では自分一人の問題で終わったが、今世でそうなった場合、グリッツ家の名誉と存亡が関わってくる。
(まぁ、最悪、選択権とか色恋とか抜きで条件の合うお相手と結婚って事になるだけなんだろうけど…)
 蓋を開けてみれば、残念な事に何もない、という状況から始まった。
 出会いの場に赴き、交流を広め、その交流の中から深めていく。それが理想だったのだが、今シーズンは広めるだけで精一杯だった。シーズン中盤でちょっとへたばってしまったせいもあるだろうが。
「はぁ…」
 来シーズンがあるさと心で呟いて立ち上がる。バルコニーに戻ってきたイーグルが、でっぷりと太った鼠を捕まえているのが見えたのだ。
「どうぞ」
 だが、イーグルに声をかける前に扉がノックされ、リーネアッラの声に何気なく入室を許可した。イーグルに良くやったわね、と一声かけてから扉に向き合うと、困った顔で立ち尽くす姿が目に入った。
「どうかしたの?」
「あの、それが…ちょっと変わったお客様が」
「私に?」
「はい。リンク通りのお針子から来た、ギリット・メイスさんという殿方なのですが…」
 リンク通りのお針子というのは、サフ=ジーノの店の名前である。
「ギリット・メイス…ああ、イーグルの羽で髪飾りを作って下さった細工師の方ね」
「あ、そうなのですか」
「でも、お約束はしてないわ。お一人で訪ねていらしたの?」
「はい。今は、応接室に通しております。要件は、お嬢様にお会いしたいと言うだけで…」
 ミネルヴァは少し考えたが、いつかは直接お礼を言いたいなと思っていた事もあり、会うことに決めた。
(ジーノはシーズンが始まってから忙しくしていて全く会っていないし。もしかしたら、何かあって、彼の使いとして来ているのかしら? でもそれならジーノの使いだって言うわよね)
 リーネアッラが先に声をかけ、扉を開けて待ってくれている居間に入っていく。
「っ…!」
 座るでもなく椅子の傍で立ち尽くしているギリットの姿に、思わず息を呑む。丁寧に撫で付けられた灰色の髪にと同色の眉の下で、金の瞳が見つめ返していた。
(え…嘘!)
 イーグルに似ている。真っ先にそう思った事は事実だし、誰が見ても似ていると頷いてくれるだろう。
(駄目よ! それは駄目!)
 だが、とくんと胸が高鳴り、頬に熱が集まるのはまずい。
(落ち着いて私! 落ち着くのよ!)
 ミネルヴァは息の仕方さえよく解らなくなり始め、慌てて側に居たリーネアッラに声をかけた。
「リーネ、お茶をお願い」
「畏まりました」
 声を出して、リーネアッラの声を聞いて、少し落ち着く。そっとリーネアッラに逸らしていた視線を戻せば、ギリットは丁寧に最上級の礼となる角度まで腰を折った。
「本日は、失礼と承知しながら突然の訪問を致しまして誠に申し訳なく。また、快くお迎え下さいました事に深く感謝しております」
「どうぞ、気になさらずに。私もお会いしたいと思っておりましたの。髪飾りの事、とても素敵な品で、心から気に入っております」
「ありがとうございます」
(落ち着いた、低い声だわ。ゆったりとして丁寧な話し方…礼の姿勢もきれい…)
 サフ=ジーノは二十歳で工房入りしてきた変わり者だと表現していた。腕は確かだったので雇ったが、訳有って前職を辞め、特に職人に弟子入りしてはいなかったが銀細工は作れるので職人として雇って欲しい、と突然現れた時は驚いたと苦笑も浮かべていた。
 あまり二十歳という歳で職人に成ろうとする者はいない。職人への弟子入りは十二歳から認められるし、それが家業であれば十歳から仕事を手伝っても許される。子供の時から多くの作品に触れ、多くの作品を生む方が、当然技術は身に付き易い。
(何の仕事をされていたのかしら…)
 ギリットのしっかりとした肩が元の位置に戻るのを目で追って、止まったところでミネルヴァは自分がぼうっとしていた事に気付く。
「どうぞ、おかけになって」
 誤魔化すように声をかけ、自分も椅子へ向かう。
 心の中でリーネアッラをどうして行かせてしまったのだろうと後悔していた。
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