悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

文字の大きさ
22 / 49
第二章:スタートきったら必要なもの? 解ります。体力ですね。

7.うまくいきっこない

しおりを挟む
 ミネルヴァの内心が大慌ての一人大運動会みたいな事になっているとは、表面上は気付かれずに済んでいる。お茶を待っている間話しかけないくらいの事は普通の対応だからだ。
(今の内に、何とかして心臓を落ち着けないと。というか、私は本当に何でこんな…)
 初恋は、強制力が強かったとはいえ、淡い憧れを持って確かに在った恋心が玉砕。
 そして、次は初めて会った職人の男性。何かが始まる前から玉砕の未来が拓けていた。
(恋には縁が無いのよ私、きっとそう…)
 自分がグリッツの家を捨てて彼に嫁げるとは思えない。逆に彼をグリッツの家に迎える事も考えられない。そもそもイーグルに似ているなんて理由で一目惚れをした事を伝えられる気がしない。
(ない、ない、ない…結局いつもこうだわ)
 未来を想像して障害を探して数える自分の性格が恨めしかった。だが、大切な周りの人々に迷惑をかけたくないという思いがその根底にはある。どうしても、自分の気持ちを推すような考え方はできなかった。
「お待たせいたしました」
 リーネアッラがお茶を持って入ってきたのを契機に、ミネルヴァは令嬢としての振る舞いで心の中を覆い隠す。
「それで、本日はどのようなご用で?」
「はい。実は、グリッツ公爵ご令嬢様にお願いしたい事があって罷り越しました」
 傍らでリーネアッラが嫌そうな雰囲気を出した事を感じながら、ミネルヴァは不思議に思っていた。
 サフ=ジーノは礼儀の教育を徹底している。彼の工房は入って一ヶ月の見習いの少年でさえ、きちんとした礼儀を心得ている。雇用主であるサフ=ジーノも連れず初対面の貴族令嬢の元へ約束もなくやってきて、要件が自分の願いであるというのは、あまりにも無礼であった。
 リーネアッラが口を開きそうなのを目線で制して、ミネルヴァは問いかけを続ける。
「どのような?」
「お嬢様がお飼いになっている猫鷹を見せていただきたいのです」
「………まぁ」
 ミネルヴァにとっては完全に想定外で、口から出た反応はそれだけになってしまった。もっとも、リーネアッラにも想定外だったようで、さっきまでの敵対するような気配がすっかり消えていた。
「えっと…」
 困惑のままリーネアッラに視線を向ける。
「こちらに連れて来るよりも、庭に出て、呼ぶ方がよろしいかと」
「ああ、そうね。そうしましょうか」
 リーネアッラから敵意は無くなったが、不審感は拭いきれず、彼女はミネルヴァからは絶対に離れないぞ、という体制でギリットを庭に案内した。
 応接室からは直接庭には出られないため、一度玄関へ戻り、屋敷の横庭へ向かいながら詳しく話を聞く事ができた。
 要するに、ギリットはスランプに陥っているらしい。
 ミネルヴァが気に入って夜会などにもイーグルの髪飾りを着けていくので、ギリットの元には幾つかの細工の注文が来たらしい。ところが、新しく細工を作ろうと決めて取り掛かるのだが、作っている内に完成図が霧散してしまうというのだ。
「誠に無礼な事とは存じておりましたが。あの羽を見た時、手が自然に動いたのを思い出し、もう一度、と思いまして」
「………無礼な事、とは思います。でも、貴方の品を知っていますから、真剣にお悩みなのだとも解ります。私は構いませんから、どうぞイーグルに会っていってください」
「ありがとうございます」
 庭に着くと、ミネルヴァはリーネアッラから呼子笛を受け取る。軽く吹けば、少し間を空けてイーグルが飛んできた。
(あら、まだ鼠を持ったままだわ)
 てっきり食べているかと思ったのだが、イーグルは先ほどのものと思われる鼠を掴んだまま飛んでいる。あれでは腕に止める事は出来ないなと考えていると、みるみる近付いたイーグルが、ギリットの上に鼠を落とした。
「あ!」
 いけない、と思いミネルヴァは短く叫んだ。だが、ギリットは落ちてきた鼠を片手で受け止めると、嬉しそうに飛翔するイーグルを見つめていた。
(良かった怪我がなくて………嬉しそうだわ、すごく)
 その後、放り投げた鼠を取る姿や止まり木で休む姿など、ひたすらイーグルを観察したギリットは、ミネルヴァに深々と謝意を告げて帰っていった。
 後日、青い顔をしたサフ=ジーノが事前約束の上で謝罪に来たので、ミネルヴァは次のシーズンには新しいブローチが欲しいわ、と告げる事で謝罪を受け入れた。
 そんな風に、ミネルヴァの心はごたついたが、最後の夜会への参加は良くも悪くも何事もなく終えた。
 ミネルヴァは、父のスティアンと共にグリッツ領への旅路につく。
 学院在学中の三年間は一度も帰る事が出来なかったため、実に久しぶりの帰郷であった。
「イーグル。グリッツ領は海が無いし、ライネッツ領より少し寒いけれど、大丈夫よね?」
「ピー」
「ミーナの騎士は頼もしいね」
「ええ、きっと、お父様より頼りになります」
「えぇ…」
「ピー」
「ほら、イーグルも言ってます」
「そんなぁ」
 自分を優しい笑みで見つめるスティアンに笑って、ミネルヴァは馬車に乗り込んだ。これからはグリッツ領で父の仕事を手伝い、ゆくゆくは担わなければならない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

ざまぁされるのが確実なヒロインに転生したので、地味に目立たず過ごそうと思います

真理亜
恋愛
私、リリアナが転生した世界は、悪役令嬢に甘くヒロインに厳しい世界だ。その世界にヒロインとして転生したからには、全てのプラグをへし折り、地味に目立たず過ごして、ざまぁを回避する。それしかない。生き延びるために! それなのに...なぜか悪役令嬢にも攻略対象にも絡まれて...

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...