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第二章:スタートきったら必要なもの? 解ります。体力ですね。
15.もういいよ
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事務手続きだけで三ヶ月以上かかり、仕事のあるギリットと離れ、単身といってもアイリーンと共にだが、ライネッツ領に向かう事になったミネルヴァは拗ねるような思いでスティアンを見つめてしまった。
(仕方ないわよね、社交シーズンは役所だってフル稼働なのだし…)
繁忙期に役所仕事が遅いのはどうしようもない。スティアンもミネルヴァも、仕事があるギリットだって書類はすぐに書いて提出したのだが、それが提出先から中々返ってこないとか、いつまで待っても連絡がないとか、そういうのはスティアンのせいではない。もう仕方がないのだから諦めよう、とミネルヴァは切り替え、落ち込む気持ちを励ましつつライネッツ領へ向かった。
が、そこで更なる問題が待ち受けていた。
初めて会う事ができた曾祖母に猛反対されたのだ。しかもこの曾祖母の猛反対に、ミネルヴァの中でライネッツが目覚めたらしく、ライネッツ領に滞在中ひたすら口喧嘩を繰り広げる事になる。更にそれでは終わらず、グリッツ領に向かってからも手紙での応酬が続いた。
そして、もう今年が終わってしまうと頭を抱えていたある日、ぱったりと曾祖母からの手紙が来なくなる。
(どうしたのかしら…? お体に障りが出たならお母様に連絡が来るわよね? やりとりをするのが嫌になったという事かしら…でも、こんな事で諦める訳にはいかないのに)
と考えていたら、年末に何故か曾祖母がギリットを伴ってグリッツ領にやってきた。
ぽかんと口を開けて驚く父娘に向かって、
「なんです揃いも揃って魚の様にはしたない。これだからグリッツは嫌なのです。でも、まぁ、ミーナにはちゃんとライネッツの血が流れていましたね。彼なら見所があります。この結婚を了承して差し上げます」
と、曾祖母様は仰ったのだ。
(………何かしら、とても嬉しいのに、釈然としないこの気持ち)
ミネルヴァはモヤモヤとしたものを抱えつつ庭を歩いていた。
「ミーナ」
「…っ!」
自身の愛称を呼ぶ声に慌てて振り返る。
「そう、呼んでもいいか?」
「もちろんよっ!」
曾祖母の反対も終わって、年明けには正式に婚約をしようとなっていた。もはや許嫁である。愛称で呼ぶ事を咎める理由など無い。それどころか、ミネルヴァはずっと呼ばれたかった。
屋敷内ということもあって、今ミネルヴァの側にはリーネアッラもいない。二人きりである。
(信じられない、愛称で呼ばれるだけでこんなに嬉しいなんて)
頬を赤く火照らせながら、ミネルヴァは近付いて来るギリットを見つめていた。木漏れ日が不意に目に反射するように見えると、その金の目は本当に鷹の目のようだと思う。
「ミーナ、右手を出して」
「ええ」
小首を傾げながら右手を出す。優しい動作で手を取って、人差し指にレースフリルのように繊細な銀線細工の指輪が嵌められた。
(右手の人差し指…リテルタでの婚約指輪!)
驚きと喜びで言葉が出てこなかったが、ミネルヴァの顔には満面の喜色が滲んでいる。
「本当は、王都にいる間に渡したかったんだが。遅くなってしまった」
「そんな事、嬉しいわ!」
本で読んだことしかない習慣だが、ミネルヴァは精一杯応えたかった。ギリットの肩に手を置いて爪先立つと、そっと相手の右頬にキスをする。
キスをされた頬に手を当てて、ギリットがぽかんとした。
初めてそんな顔を見たな、と思いながらミネルヴァは恭しくスカートの裾を持ち、軽く膝を折る。
「慎んでお受けいたします」
「ミーナ!」
笑顔で抱き寄せられ、勢いによろけながら危ないわと文句を言う。だが、二人して笑っている内に見つめ合い、そっと唇を重ねた。
「愛してるミーナ」
「私もよギリット」
「ピー」
二人そろって木の上を見上げると、イーグルが円な目で見つめていた。
「え…」
「イーグル?」
(イーグル…空気読んで………)
ミネルヴァは心底そう思ったが、生憎現代日本くらいでしかそのスキルは身に付かない。
「ピー」
すっかり気が削がれ、二人して笑い声を上げていた。
「ピー」
イーグルだけが、不服そうに鳴くのだが、それがまた二人の笑いを誘う。結局、お茶にしませんか、とリーネアッラが呼びに来るまで一羽と二人、三者仲良く過ごしたのだった。
新年になり、二人は正式な婚約関係を結んだ。
ミネルヴァの騎士、イーグル次子爵の事は、社交の場に一切出ないにも関わらずあっと言う間に広まった。
更にはどういう訳だか、猫鷹の羽が運命の恋人を引き寄せる、とかいう迷信まで同時に広まり、サフ=ジーノの工房へ羽飾りの注文が増加した。ついでにミネルヴァや猫鷹の生息域を内包するライネッツ領関係者にも猫鷹の羽をくれという申し出が殺到した。
当然のように仕事に忙殺されたギリットはミネルヴァと会う時間が中々取れなくなり、その内サフ=ジーノの工房にミネルヴァが現れるようになる。
「頼むから出て行ってくれ」
ギリットがサフ=ジーノから住まいを工房の外に構えるよう頼まれるのはもうそろそろの事だった。
□fin
(仕方ないわよね、社交シーズンは役所だってフル稼働なのだし…)
繁忙期に役所仕事が遅いのはどうしようもない。スティアンもミネルヴァも、仕事があるギリットだって書類はすぐに書いて提出したのだが、それが提出先から中々返ってこないとか、いつまで待っても連絡がないとか、そういうのはスティアンのせいではない。もう仕方がないのだから諦めよう、とミネルヴァは切り替え、落ち込む気持ちを励ましつつライネッツ領へ向かった。
が、そこで更なる問題が待ち受けていた。
初めて会う事ができた曾祖母に猛反対されたのだ。しかもこの曾祖母の猛反対に、ミネルヴァの中でライネッツが目覚めたらしく、ライネッツ領に滞在中ひたすら口喧嘩を繰り広げる事になる。更にそれでは終わらず、グリッツ領に向かってからも手紙での応酬が続いた。
そして、もう今年が終わってしまうと頭を抱えていたある日、ぱったりと曾祖母からの手紙が来なくなる。
(どうしたのかしら…? お体に障りが出たならお母様に連絡が来るわよね? やりとりをするのが嫌になったという事かしら…でも、こんな事で諦める訳にはいかないのに)
と考えていたら、年末に何故か曾祖母がギリットを伴ってグリッツ領にやってきた。
ぽかんと口を開けて驚く父娘に向かって、
「なんです揃いも揃って魚の様にはしたない。これだからグリッツは嫌なのです。でも、まぁ、ミーナにはちゃんとライネッツの血が流れていましたね。彼なら見所があります。この結婚を了承して差し上げます」
と、曾祖母様は仰ったのだ。
(………何かしら、とても嬉しいのに、釈然としないこの気持ち)
ミネルヴァはモヤモヤとしたものを抱えつつ庭を歩いていた。
「ミーナ」
「…っ!」
自身の愛称を呼ぶ声に慌てて振り返る。
「そう、呼んでもいいか?」
「もちろんよっ!」
曾祖母の反対も終わって、年明けには正式に婚約をしようとなっていた。もはや許嫁である。愛称で呼ぶ事を咎める理由など無い。それどころか、ミネルヴァはずっと呼ばれたかった。
屋敷内ということもあって、今ミネルヴァの側にはリーネアッラもいない。二人きりである。
(信じられない、愛称で呼ばれるだけでこんなに嬉しいなんて)
頬を赤く火照らせながら、ミネルヴァは近付いて来るギリットを見つめていた。木漏れ日が不意に目に反射するように見えると、その金の目は本当に鷹の目のようだと思う。
「ミーナ、右手を出して」
「ええ」
小首を傾げながら右手を出す。優しい動作で手を取って、人差し指にレースフリルのように繊細な銀線細工の指輪が嵌められた。
(右手の人差し指…リテルタでの婚約指輪!)
驚きと喜びで言葉が出てこなかったが、ミネルヴァの顔には満面の喜色が滲んでいる。
「本当は、王都にいる間に渡したかったんだが。遅くなってしまった」
「そんな事、嬉しいわ!」
本で読んだことしかない習慣だが、ミネルヴァは精一杯応えたかった。ギリットの肩に手を置いて爪先立つと、そっと相手の右頬にキスをする。
キスをされた頬に手を当てて、ギリットがぽかんとした。
初めてそんな顔を見たな、と思いながらミネルヴァは恭しくスカートの裾を持ち、軽く膝を折る。
「慎んでお受けいたします」
「ミーナ!」
笑顔で抱き寄せられ、勢いによろけながら危ないわと文句を言う。だが、二人して笑っている内に見つめ合い、そっと唇を重ねた。
「愛してるミーナ」
「私もよギリット」
「ピー」
二人そろって木の上を見上げると、イーグルが円な目で見つめていた。
「え…」
「イーグル?」
(イーグル…空気読んで………)
ミネルヴァは心底そう思ったが、生憎現代日本くらいでしかそのスキルは身に付かない。
「ピー」
すっかり気が削がれ、二人して笑い声を上げていた。
「ピー」
イーグルだけが、不服そうに鳴くのだが、それがまた二人の笑いを誘う。結局、お茶にしませんか、とリーネアッラが呼びに来るまで一羽と二人、三者仲良く過ごしたのだった。
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ミネルヴァの騎士、イーグル次子爵の事は、社交の場に一切出ないにも関わらずあっと言う間に広まった。
更にはどういう訳だか、猫鷹の羽が運命の恋人を引き寄せる、とかいう迷信まで同時に広まり、サフ=ジーノの工房へ羽飾りの注文が増加した。ついでにミネルヴァや猫鷹の生息域を内包するライネッツ領関係者にも猫鷹の羽をくれという申し出が殺到した。
当然のように仕事に忙殺されたギリットはミネルヴァと会う時間が中々取れなくなり、その内サフ=ジーノの工房にミネルヴァが現れるようになる。
「頼むから出て行ってくれ」
ギリットがサフ=ジーノから住まいを工房の外に構えるよう頼まれるのはもうそろそろの事だった。
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