悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

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第二章:スタートきったら必要なもの? 解ります。体力ですね。

14.もういいかい

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 主にミネルヴァの精神世界でのみ紆余曲折を経て、まとまった二人だったが、目の前には問題が山積していた。
「貴方がミーナの婚約者ですって?」
 腕を組んだフランセスカがギリットを睨みつけている。ミネルヴァは今スティアンに呼ばれて席を外していた。
「はい」
「銀線細工の腕は、認めますわ」
「ありがとうございます」
「ですが、それはそれこれはこれです。貴方、そもそもミーナの事をどれほど知っているというの? ミーナのどこが好きなのかわたくしにちゃんと仰いなさい!」
「公爵令嬢という高貴な身分を形にしたような美しい容顔を、ためらいなく崩して笑う顔が可愛らしいですね」
「…あら」
「色々と、考え過ぎのきらいがあるようで、不安気にしておられるのを見ると力になりたいと思います」
「そうね」
「いつも懸命に過ごしていらっしゃるので…」
「あら、どうしたの? 続けて良くてよ? なかなか見所のある」
「セス!」
「なんだ、ミーナ、早かったのね」
 そんなに心配しなくてもミネルヴァの恋人をとったりしないわ、というフランセスカを、そんな心配はしていない、と追い出す。が、フランセスカは書類の束を持ったスティアンと一緒にしれっと戻ってきた。ミネルヴァはなぜ私のライネッツ遺伝子は弱いのだと思わず拳を握る。
 ちなみに山積している問題とは、別にフランセスカの事ではない。もっと単純な、かつ事務的な手続きの事だ。
「いや、本当にごめんね。リーンってば張り切っちゃって次子爵とかいうから、たぶん手続きだけで三ヶ月は潰れちゃうんじゃないかな。まぁ、今年中には婚約発表できると思うから」
 苦笑を浮かべて着席を勧めるスティアンに応じて、ギリットは笑顔で何の問題もありませんと告げる。
 一方のミネルヴァは、
(え、三ヶ月もかかるの?)
と、不満顔だ。
 娘の不満顔が解るだけにスティアンは言わなかったが、最低三ヶ月であって最悪半年は潰れる可能性がある。
 これは職人のギリットを次子爵にするためにかかる時間と手間、というよりは、職人としての仕事を続けるギリットを次子爵に就けるために必要な手間にかかる時間であった。
 せめて次男爵だったらな、とスティアンは思うが、もうどうしようもない。今出来る事といえば必要書類の説明をギリットと一緒になって聞いているミネルヴァを微笑ましく見守るくらいの事だ。
 アイリーンが助けたんだか邪魔をしたんだか解らない告白から既に二十日ほど。主に手紙で、ようやく恋人らしい内容の文通をして過ごしていた二人は、並んで椅子に腰掛け、時折目を合わせては微笑み合っている。
「あぁ、そうそう。色々あるけどまず決めとかないと、家名はどうしようか?」
「あらメイスではいけませんの?」
 メイス次子爵は悪くない響きだとフランセスカが言うが、スティアンとミネルヴァは揃って首を振る。
「ギリット君はお隣のリテルタ王国の出身だからね、ギリット・メイスが名前だよ」
「まぁ、そうでしたの。なら、ギリット・メイス・イーグルになさったら?」
「イーグル?」
「セス、そんな適当に言わないで欲しいわ」
「あら、適当ではありませんわ。今は鎮火したとは言え、去年ミーナの騎士イーグルの噂は広く盛り上がりましたから、あの騎士イーグルは本当に居たと思わせられれば、あっと言う間に皆さん受け入れますわよ。なんといってもアンゼーナ様が大盛り上がりでしたから」
 フランセスカには、新参の貴族に対する風当たりの強さが少しでも和らぐだろうという考えがあったらしい。もっとも、ミネルヴァとしては少々複雑なのだが。
「私は、構いません」
「良いの?」
「ミネルヴァとの縁を絆いでくれたのはイーグルだからな」
 ギリットの言葉にその通りだと思い見つめ合う。
 ミネルヴァはすぐに状況を思い出して照れながら顔を背けるが、フランセスカは、あら続ければ良いのに、という顔をした。更にスティアンがにこにこと微笑ましそうにしているのを見て、ミネルヴァはより照れ臭くなって視線を泳がせるのだが、更にギリットにまで微笑ましそうに見られてどうしようもなくなる。
「で、では、家名はイーグルですね」
 ミネルヴァは状況をとにかく進めようと書類を手にとった。
 結局始終そんな風に、好意的な周りに囲まれてひたすらミネルヴァが照れるという状態で、順調に進んだ二人の婚約までの過程は、一年続くことになる。
(今年中に婚約発表って仰ったのに、お父様の嘘つき…)
 ミネルヴァの悲哀のこもった眼差しから必死に視線を逸らすスティアンは、頑張った。少なくとも事務手続きは三ヶ月と少しで終わらせたのだ。その伸びてしまった少しも、社交シーズンの終了に伴って物理的に王都と距離が開いてしまった事によるものである。
 少なくとも、スティアンは己のできる限りでミネルヴァのために働いたのだ。ミネルヴァも解ってはいる。
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