悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

文字の大きさ
28 / 49
第二章:スタートきったら必要なもの? 解ります。体力ですね。

13.邪魔はしないで…

しおりを挟む
 真っ白になった頭はもう一つの事しか考えられない。
「好きです!」
 叫んでしまったと思ったが、それほど大声にはなっていなかった。ミネルヴァが恐る恐る顔を向ければ、驚いた顔をしたギリットが、照れたように頬を掻いている。
「ありがとうございます」
(え、本当に?)
 ぽつりと返された言葉と笑みに、ミネルヴァの心臓は止まりそうになった。
「そんなに気に入っていただけるとは。嬉しい限りです。腕に縒りをかけて、懸命に作ります」
 さっきとは違う意味で心臓が止まった。
(あぁーもうっ! 全然伝わってない…どうしようどうしたらどうしてどうすれば………)
 考えてみればミネルヴァは前置きを省き過ぎだ。振り返ってもギリットの反応は鈍いとかではなく順当である。
(とにかく誤解を、解いて、ちゃんと気持ちを伝えないと)
「違うんです!」
 否定の言葉にギリットの顔が曇る。ミネルヴァはその顔を見ると心臓を掴まれたような気持ちになってしまう。
「いえ、このデザインはとても素敵で大好きです。それは間違いありません。ただ、私が今好きだと言ったのは、貴方の事なのです!」
 この時、何故かミネルヴァの脳裏に前世の記憶がよみがえっていた。一目惚れしてできた初めての彼氏、その相手に告白したあの時の情景が、あらゆる嫌な記憶と共に脳裏を駆け巡った。
(あ、私、もしかしてまた何か間違えたんじゃ…)
 緊張しながら舞い上がった場所から、急転直下で落ちていったミネルヴァは、ぽろりと涙を流してぐらりと体が傾いでしまう。視界はゆっくりと傾きながら黒く狭まっていき、完全に塞がった。
 ガタンッ、とした音が耳に届くまでの短い間だったが、ミネルヴァは自分が気絶していた事に気付く。
(椅子から、落ちたのに、あまり痛くないわ…)
 前世で、風邪をひいているのに風呂に入って、熱が上がり、のぼせ上って気絶した事がある。風呂そのものは出ていて、椅子に座っていたのだが気が付くと椅子は倒れ、頬が床の冷たさとじんじんとした痛みを訴えていた。あの時は。
「大丈夫ですか?」
 声を掛けられて、ミネルヴァは顔を上げた。ギリットの顔を見上げて、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「………」
 ミネルヴァが座っていた椅子は倒れていなかった。ギリットが座っていた椅子が倒れていた。
(ああ、そうか、助けてくださったのね…)
 椅子を倒して駆け、床に衝突するのを防いでくれたのだ、と気付く。
「っごめんなさい!」
 自分がすっかりギリットに抱き留められている事に、三拍くらいおいて気付いたミネルヴァは、反射的に身を離そうとした。だが、ギリットの手が後頭部に回されて動きを止められる。
 一連の動作に慌てていたが、苦笑するギリットと目が合って、少し落ち着いた。
「椅子に、ぶつかります」
「………ごめんなさい」
 ミネルヴァの後頭部と、椅子の間にギリットの手が有る。
(私、落ち着きってものを何処にやってしまったのかしら)
 ミネルヴァは、腕をとられ立ち上がるのをギリットに助けてもらいながら自身の失態の数々に冷静さを取り戻し始めた。
「あの、すみませんでした、そのご迷惑ばかり…」
「いえ、迷惑などという事は…」
 途切れた言葉が気になってギリットを見ると、視線が扉に向かっている。ミネルヴァもそちらを向くと、確かに閉めたはずの扉がうっすら開いていた。ミネルヴァは足早に扉に近付いてしっかりと閉める。
(もう、絶対お母様だわ!)
 リーネアッラが勝手に扉を開ける訳がない。もし音に気付いて心配したのだとしても声をかけて確認するだろう。
 扉を背にギリットを見ると、数歩の距離で困惑した顔をして立っていた。ミネルヴァは言葉を探して口を開くが、声にはならない。だが、しばらく見つめていると、ギリットが笑った。
「お気持ちは、とても嬉しいです。私も貴方のことが好きですから」
 ミネルヴァの頬が真っ赤に染まっていく。だが、ギリットの笑みは悲し気に変わっていった。
「ただ、貴方に釣り合う身分がありません」
「そんな事――」
 気にしないでと続けるつもりだったミネルヴァの声は、後から扉に突き飛ばされてギリットの腕の中に消えた。
「お困りのようね」
 しれっとアイリーンが入ってくる。
 ミネルヴァは抗議を込めて睨んだし、ギリットはミネルヴァを抱き留めながら何とも言えない顔をした。
「貴方がミネルヴァの良き伴侶となる覚悟があるのなら、次子爵の位を差し上げてよ?」
 この国で、次というのは領土を伴わない名誉爵位に付く接頭である。領土が無いとはいえ貴族は貴族なので、ミネルヴァとの結婚も可能となる。
「ありがたいお申し出ですが、何故そこまで?」
「貴方の為人はよく知りませんけど、うちの娘が好きだというのだから仕方ありませんわ」
「お母様…」
「まぁ、細かい話はおいおい詰めるとして。とにかく、身分は問題になりませんから、ミネルヴァを好きだというのならその心のままになさって」
 アイリーンはそこまで言うと、あとはお若いお二人で、などと告げて出て行った。
「あ、あの…ごめんなさい」
 突然の母の事も今抱き留められている事も含めて謝罪して、ミネルヴァは身を離そうとする。だが、ギリットがそっとそのまま抱き締めた。
「好きです。ミネルヴァ様」
「私も、大好きです」
 ミネルヴァは、このまま見つめ合っていたかった。だが。
「お母様っ!!」
 そっと開いた扉からじーっとあまりに主張の激しい視線が刺さってそんな雰囲気ではなくなってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

ざまぁされるのが確実なヒロインに転生したので、地味に目立たず過ごそうと思います

真理亜
恋愛
私、リリアナが転生した世界は、悪役令嬢に甘くヒロインに厳しい世界だ。その世界にヒロインとして転生したからには、全てのプラグをへし折り、地味に目立たず過ごして、ざまぁを回避する。それしかない。生き延びるために! それなのに...なぜか悪役令嬢にも攻略対象にも絡まれて...

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...