悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

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第二章:スタートきったら必要なもの? 解ります。体力ですね。

12.そわそわ

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 時間が近づくにつれ、そわそわと心がざわめき出す。ミネルヴァは、先程から時計を見ては肩を落とし、また少しして時計を見ては進んでいない事に肩を落とすという事を続けていた。
 場所は王都のグリッツ家、ミネルヴァは今新しく注文する事になった髪留めのデザイン画を確認するために、ギリットの訪れを待っている。
 ミネルヴァが泣きついてしまってからのアイリーンの行動は早かった。ミネルヴァが言ってしまった事でちょっと心が軽くなったわ、これから時間はかかるかもしれないけど忘れる努力をしよう。そう思っている間に、ギリットの事を調べ、スティアンに話を付け、ミネルヴァの婚約破棄の件をたてに王家相手にあれこれ根回しをし、もしギリットがグリッツ家に入る事になっても問題の無い体制を作り上げた。
「エ………?」
 アイリーンから心配する事なんて何も無いから貴方の好きになさい、と言われた時。ミネルヴァはいつかの怒れるフランセスカの後姿を見た時と同じ反応をしてしまった。
(え? 大丈夫って、何? どういうこと?)
 ライネッツ家の遺伝子はミネルヴァにも流れているはずなのだが、いつだってもたらされる地殻変動の様な激動に、事態を飲み込むまでに時間がかかってしまう。
(あ、そうか、諦めなくても良いって事ね?)
 そう思い至ると、ぽかんとアイリーンを見返していたミネルヴァの白い顔が、見る間に真っ赤になっていった。
「え、だって、そんな事…」
「まぁ、ちょっと普通だったら難しいところだったけど。今の王家には大きな貸付がありますから、ね?」
 アイリーンが何とも綺麗な、だがあくどい微笑みを浮かべていたのだが、熱くなる頬を両手で押さえて突然の好機に慌てるミネルヴァは気付かない。
「そんなだって…」
「良いのよミーナ、貴方は貴方の好きにして良いの」
 だって貴方はきちんと果たすべき事をしているのだから、とアイリーンは笑った。
 その言葉にはぎゅっと胸が詰まる。ミネルヴァの頑張りがこの結果をもたらしているのだ、とアイリーンは言ってくれている。それは、とても喜ばしい言葉だ。
「お母様」
 ありがとうございますは上手く言葉にできなかった。けれど、嬉し泣きするほどの感情は、素直に顔に出ていたから、アイリーンにはちゃんと伝わっただろう。
 こうして、ミネルヴァはひたすら諦める方向に進むしかなかったと思っていた恋を、普通に実らせるために動けるようになった。一目惚れで始まった片思いは、そろそろ一年になろうとしている。
(………あ、でも、まず何をすれば良いのかが全く解らないわ)
 前世の経験はあまり当てにならない。その上ミネルヴァは恋とは無縁だった。しかも、他人の恋愛事情にすら疎いのだ。一般的に片思いの令嬢がどういう行動をすれば良いのか、まずそこが何も解らなかった。
「そうよ!」
 普段通り静かに過ごしていたと思った主人が突然叫んで立ち上がり、リーネアッラはぎょっとする。だが、期待を込めた眼差しで見つめられれば応えねばとすぐに思い直す。
「いかがなさいました?」
「諜報と戦略よ」
「はい!」
 よく解らなくても頷いておくのも侍女の務めというものだ。勿論この後、ミネルヴァが昨年構築した交流網を使って恋愛手管を収集するつもりだ、と目的をきちんと聞き出した。
 三日ほどの情報収集の結果。
(世の女性はすごく頑張っている)
 おおよその手管がミネルヴァには向いていなかった。
「手練手管なんて最後は本人に合っているかどうかが問題なんですから、ミーナは変な事しない方が良いと思いますわ」
 フランセスカの最もな指摘に頷く事しかできない。結局ミネルヴァが実行したのは、意中の相手に恋人がいるかどうかを調べるという事くらいだった。
(私、そんな基本的な部分も思いつかなかったわ。もう、なんか、本当に恋とかして良いのかしら、なんかもっと勉強し直しておかなければならない事が山ほどある気が…)
 自分の恋愛偏差値の低さに打ちのめされ、前に進む予定が後を向き始めたミネルヴァだったが、
「あの、お嬢様、自分の気持ちを盛り上げるためにも、昼会やお茶会用の髪飾りを新しくされてはいかがですか?」
と、ギリットが意中の相手とは知らないリーネアッラに勧められて後歩きを決断した。
 そして髪留めの注文となったのだ。
「お嬢様、ギリット・メイスさんがお越しになりました」
「今行くわ!」
 あれこれ理由をつけてリーネアッラに席を外してもらった応接間で、ミネルヴァはギリットのデザイン画を広げた。
「…まぁ、可愛い」
 思わず呟いてから、自分が大きく顔を崩している事に気付いて慌ててギリットの方を確認する。
「っ!」
 ミネルヴァの素直な反応に、優しい笑みを浮かべていた。
(そんな顔をなさるのはずるいわ…)
 別にずるくはないだろうが、今のミネルヴァにとっては、あまりにも心へ与える衝撃が強過ぎる。少し話をしようと考えていた世間話のネタも彼方に飛んでいってしまった。
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