悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

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第三章:そんなの聞いてないっ!

3.馴染んできた

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 ミネルヴァもギリットも、公的に身分の有る成人だ。
 ミネルヴァは、社交シーズンにおける交流や父の仕事の手伝いなど、様々にやる事がある。ギリットは、朝工房に行けば夜まで帰らない。なので、二人は、一週間の内で工房が休みの水曜日に会う事に決めた。
 そして、今日はその水曜日であった。
「じゃあ行ってくるわね、キール」
「お気を付けて」
 軽い足取りで通りを行くミネルヴァも、彼女の中ではすっかり街娘が板についている。少し強めに扉をノックして、中からの声で扉を開け、気軽な挨拶をして手土産の焼き菓子をテーブルに置いた。
 席に着くと少年達がお茶を用意してくれる。
「でさ、お嬢はさ、ギリットのどこが良いの?」
 若いという事は順応が早いもので、サフ=ジーノが知ったら卒倒しそうだが、少年達もギリットの家でミネルヴァに会うと気軽にお嬢と呼んでくる。まだ、かれこれ三回目の邂逅なのだが。
「腕はあるけど変わり者だぜ? 出身がリテルタなせいか常識もちょっとズレてるし、なんつーか、金にも疎いんだよな、別に浪費家ってんじゃないけど、甲斐性無しっつーか…うだつが上がらない職人の典型っつーか。まぁ、金についてはお嬢は気にならないかもだけど」
「顔にしたってお嬢の周りならもっとキレイな顔したのいくらでもいそうだしさぁ」
「あーそういえば、腕が立つ、みたいな事、オイゲン爺が言ってたな」
「腕っぷしの強さとか結婚相手に求める条件じゃねぇだろ。そんなんならオレの兄貴とうに結婚できてるわ」
「えーじゃあ、何だ? あぁ、やっぱ職人としての腕なの?」
「そうなの?」
 あけすけで気軽な会話は前世があるので問題なく受け入れられたが、質問にとっさに答えられるか、というとそれはまた別の問題である。
「あ、その、そうね。ギリットの作るものはもちろん好きよ」
 ミネルヴァの答えで、少年達の顔が期待に満ちる。職人としての腕を磨けば逆玉の可能性が、と聞けばどうしても心がそんな未来を夢見てしまうのだ。
「それだけ?」
「いくら職人としての腕が良くても、婚約者にって思うくらいだし、他にも何か有ったんじゃないの?」
「あ、それは…」
「「それは?」」
 少年達は恋の部分を気にしている訳ではないと思うが、その勢いに、男の子でも恋バナって好きなものなのね、とかミネルヴァは考えながら、ちょっと照れつつ正直に言葉を紡いだ。
「私の一目惚れで」
 その瞬間に少年達は心底複雑な顔をした。
(前世含めても見た事のない反応だわ…どういう感情なの?)
 端的に言うと、少年達はしょげている。
(ああ、なんだ、結局運か…)
(顔はもうどうにもならねぇけど、見た目大事にって事だよな。服ちゃんと洗濯しよ…)
 職人として腕を磨いていれば、その内自分に一目惚れをしてくれる女の子が現れる、少年達は全く信じられなかったがそう信じてこれからも修行を頑張ろう、と互いに目だけで頷き合った。
 ちなみにこれらの会話は全てギリット同席のもと行われている。
 別に少年達の言葉を気にする事は無いが、もうミネルヴァが来たので、朝から居る少年達にいい加減帰れとは思っている。なので、そのまま口に出す。
「お前ら何時まで此処にいるんだ?」
「もう行くよ」
「ごゆっくり~」
 少年達としてもミネルヴァに先の質問をしたくて待っていただけなのだ。付き合いたての恋人達を傍で見るなんて事をしたい訳でもない。自分達が使ったカップを洗って、ミネルヴァの持って来た焼き菓子を手に出て行った。
 少年達が出ていくと、室内は急に静まり返った様な気がする。
「………オイゲンさんって、初めて聞く名前だわ」
 ミネルヴァは、自分が一目惚れをしたと告白した事を誤魔化すように呟いた。
「オイゲンはウチの工房の職人じゃなくて、道具鍛冶だから。ところで…」
「ああ、そうなのね、じゃあ会った事無いわね、きっと。あっ、そうだわ。お茶、冷めちゃったわね。淹れ直すわ」
 誤魔化した事を悟られた気がしてあたふたと席を立ったが、伸びてきた手に止められる。
「俺自身てっきり職人としての腕というか、あの羽飾りを見込まれたのかと思ってたんだが」
「………」
 真っ直ぐ見上げて来るギリットの目が見返せずミネルヴァの目が泳いだ。
 一目惚れだというのがバレた所で、単に照れただけなら、こうはならなかった。だが、ミネルヴァの中には、ギリットとイーグルが似ている、というちょっと言い辛い認識がある。なので、一人気まずく思っているのだ。
 ギリットはイーグルに似ていると言われたところで気にしないだろう。ミネルヴァもなんとなく全く気にされないだろうとは考えている。
「その、あの…初めて、屋敷で会った時にね…今、開けます」
 今なのか、ついに懺悔の時が来たのか。そう決意して口を開いたが、家の扉をノックする音に、つい逃げを打って返事をしてしまった。
「あ…」
 答えてしまってから口を塞いだが、もう遅い。ギリットが対応に向かうのを先ほどの倍は気まずい思いで見つめる事になるのだった。
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