悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

文字の大きさ
36 / 49
第三章:そんなの聞いてないっ!

4.お客様?

しおりを挟む
 扉の向こうに居たのは、ミネルヴァも知っている工房の従業員の青年だった。
「すまないギリットさん。休みなのに。実は、工房にギリットさんを訪ねてリテルタ王国の方が来てて。リリィ・クシャ・ワンドさんという女性なんだが」
 漏れ聞こえた声に、そういえば今はリテルタ王国から使節団が来ていたはずだな、と考える。
「ワンド? …わざわざ来てもらって、悪いが、覚えがない相手だ。工房が休みだし、俺は居ないと伝えてくれ。家の場所も黙っていて欲しい」
「解った。どうも知り合いのような口ぶりだから此処まで来たんだが…知らない相手なんだな?」
「ああ」
「邪魔をして悪かったな」
「いや」
 ミネルヴァにもすまなそうに会釈をして、青年は戻っていった。
「やっぱり、知り合いの方だった?」
 青年が去っても何やら考え込む顔のギリットにミネルヴァは口を開いた。とっさには思い出せなくても、引っかかる部分があるなら、旧知の相手かも知れないだろう。
「いや、そういえばシルヴァーナ様に話しただけでちゃんと言ってなかったな」
「はい?」
 突然出てきた曾祖母の名前に、きょとんとしてしまう。
「俺は元々リテルタでは騎士だった」
「ああ」
 それで礼をとる姿勢が綺麗だったのかと妙に納得してしまう。曾祖母がいやにギリットを気に入っていた理由もそれで得心がいった。
 リテルタ王国では、騎士団には貴族も平民もいるが、騎士と言えばもれなく貴族だ。平民はみな兵士と呼ばれる。
(お母様の言っていた通りなのね)
 異国の貴族であったから、ギリットが曾祖母に気に入られたのではない。騎士であった事が重要だったのだ。
 ミネルヴァどころか、母のアイリーンも、祖母も産まれるずっと前。曾祖母シルヴァーナがまだ八歳の頃。
 この国は隣国ジラード帝国との戦争状態がもっとも過酷な状況だった。
 そして、この戦争でシルヴァーナは大切な姉を喪ってしまう。一回り以上歳の離れた、母のような姉だった。その喪失感は幼いシルヴァーナにとってトラウマとなる。
 シルヴァーナは心に決めた。たとえ野蛮の謗りを受けようとも、いざという時には己の力でもって伴侶を守れるような殿方でなくては、絶対に駄目だと。
 自分の婿にも軍務で功を立てた候爵家の三男を迎えたし、己の娘の婿にも武門の誉れ高い辺境伯から婿をとった。当然孫にもと思っていたところどう見ても優男なスティアンがやってきて大喧嘩になる。そして、曾孫までどこぞの職人を婿にしたいと言い出して、再度の大喧嘩、となりかけたのだが騎士だったと解って了承したわけだ。
「ミーナはリテルタのお家騒動は知ってるか?」
「ええ。噂程度では」
 噂程度、とは言ったが、リテルタとこの国は友好国なので、本当は細かなところまで話は聞こえてきていた。四年ほど前に起きた、兄弟それぞれに派閥ができ王位を争って対立するという、よくあるといえばよくある話だ。元々は仲の良かった兄弟を担ぎ上げた外野達が勝手に大盛り上がりして、うんざりした弟が退く形で、兄が王位を継いだと聞いた。
「その騒動で嫌気がさして騎士を辞めて、昔から趣味だった銀細工の職人になろうとフォーリエントに来た」
「すいぶん、思い切ったのね」
「自棄になっててな…自分でも今は考えなしだったなと解ってる。サフ=ジーノには本当に助けられた」
「そうね…ふふ」
 自分の役割に嫌気がさして自棄になる気持ちはミネルヴァも解る気がする。苦いものを噛み潰しているような顔だったギリットがいつの間にか自分を見て微笑んでいる事に気付いて、ミネルヴァは笑うのを止めた。
「えっと、それで? 出奔したから国の方にはもう会わないの?」
「いや、そういう訳でもない。今も手紙くらいならやりとりしてる。ただ、ワンド家は本当に知り合いは居ないはずなんだ。リリィ・クシャという名前にも聞き覚えがない」
「元々趣味だった銀細工の腕を知っていてお仕事を頼みに来たとか?」
「国にいた頃は本当に身内しか知らなかった趣味だからな…わざわざ名指しで来るなんて、正直面倒事の予感がする」
 ギリットのうんざりしたような嫌そうな顔は初めて見るな、と思う。
「ねぇ、リット。その、もし私やグリッツ家で何か力になれるような事があったら遠慮せずに言ってね」
「ああ、ありがとう」
「絶対よ?」
「解った」
 その後は、しばらくはキールが嘆きそうないちゃつくという形容がふさわしい会話が続いていたのだが。いつの間にか、ミネルヴァが一目惚れの件を話す事になっていた。
 イーグルに似ている姿に一目惚れしたと言われたギリットは、自分の髪を摘まみ上げて、複雑そうな顔をしている。
「その、やっぱり嫌だった?」
「あー…似ていると言われたことは全く嫌ではないな。ただ、リテルタにはこんな頭の奴は結構いるから少し複雑だっただけだ」
「あ、それなら、どちらかというと、目なの。金色の目が似てるなって思ったのよ」
「そうか」
 なるほど、確かに自分の目は他ではあまり見た事のない色だ。だが、結局のところミネルヴァの中でイーグルが理想なのではないかと再認識してしまい。強敵だな、ミーナの騎士様が相手では、とそれはそれで複雑なギリットだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

ざまぁされるのが確実なヒロインに転生したので、地味に目立たず過ごそうと思います

真理亜
恋愛
私、リリアナが転生した世界は、悪役令嬢に甘くヒロインに厳しい世界だ。その世界にヒロインとして転生したからには、全てのプラグをへし折り、地味に目立たず過ごして、ざまぁを回避する。それしかない。生き延びるために! それなのに...なぜか悪役令嬢にも攻略対象にも絡まれて...

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...