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悪役令嬢、デブ止めるってよ
8.やだ、そう?
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すっかり恋に落ちたファランは、見る見る内に美しく変わっていきました。
などという事はない。
特にファンでもないイケメン俳優がロケをしているところに行き会ってオフショットの笑顔を見た、というような一過性のときめきなど、長続きするはずもなかった。その日の夕方には記憶の片隅に追いやっている。
そして、翌日の今。
「ちっ…」
ファランは、グローリア領の収支帳を目の前にして険しい顔をしていた。
(なんなのよこのきったない帳簿)
彼女は前世で、経理部に居た訳ではない。
ただ、店舗の売上管理を行うシステムのコードを書いた事はあるのだ。どういう条件でデータを計算して、ユーザーの望む形式の表にするか。フェイクデータを作り、計算ミスがないか、様々な条件で出力し検算を繰り返した日々。
(手書きなのは仕方がない。解る。タイプライターも無い世界なんだから)
帳簿みたいに見易いようにしてと言われ、簿記の知識を頼りに作り上げたら、あーでもないこーでもないと設計書受諾後に散々作り直しを要求され、上役に言われて無償で直しまくった特に懐かしくもない日々。忘れるにはまだ近過ぎて、イライラとして、八つ当たりめいた感情が沸く。
(でも、計算ミスとか、集計ミスとか、なんなの? 同じ情報を重複してるのもあるし。まとめるの下手くそかよ。最終的に合わなきゃいけない数字が合ってなくて、その理由が解りません、だし。この書類を受領しなきゃいけないの? 私が? 冗談じゃないわよ)
作り直せ、と叫びかけて、ファランは固まった。
イライラとした表情のまま顔を上げ、傍らの侍女に伝言を頼もうとしたのだが、その侍女がぎくりと身を震わせたからだ。
(あ………しまった)
ファランのダイエットの日々で、彼女達とは結構関係改善が出来ていた。それでも、ファランの過去が変わったわけではない。やった事はなかった事にはならない。
それに、ただ作り直せというのは、彼女を苦しめた先輩や上司と同じではないか。
(まず…この帳簿の形式や集計方法を確認して、仕様手法そのものに問題があれば改善)
ファランは自分の顔を両手で覆って、イライラがそのままに出ていた顔面を揉む。深呼吸を繰り返して、冷静に、と心で唱えた。頭では必要な事、自分が働いていた頃してもらいたかったやり方での指示、を考える。
(そうではないなら、人員に事情を確認して、改善。具体的に私が実現して欲しい事を、噛み砕いで伝えて、理解を確認する。進捗を共有して、全体で目標を達成する。責任を明確化して、権限を与え、権限を監査する事も忘れない)
問題点は具体的に指摘する事が必要だ。その際、人間性や個人を否定する事は絶対にあってはいけない。自分がして欲しい事があるのなら、指示は、期間、目的を明確に出さなくてはいけない。勿論、相手がそれを理解しているか、共有と確認もしなくてはいけない。他人に命令する権限を持つのなら、責任も取らなくてはならない。
(…奴隷落ち回避とか思ってたけど…私…領地経営者になるんだ)
正確には、未だに叔父と母が経営を肩代わりしてくれている。
ただ、嫌疑が晴れ、身を慎む必要がなくなったファランは、今後は自分がやることになる仕事を、まず知ってみようと考えたのだ。
そして、侍女にグローリア領の状況を知りたいのだけど、と声をかけた。すると、領の収支帳を持って来てくれたので、読み始めたという訳だ。
(そもそも…不真面目で知ろうともしてこなかったのが悪い。私が悪い。誰も責めてはいけない。この帳簿を読み込んで、指摘事項をまとめて…えっと、ファラン知識でこれを作ってるのは執事ってなってるけど…合ってるんだよね?)
学園で勉強していれば良かったのだろうが、残念ながらファランはそうした知識を持ち合わせていない。前世知識でカバーしつつ、一生懸命にその帳簿を読み始めた。
(ダメだ…私は真面目に勉強する事から始めないとだ)
ただし、半分も確認する事なくまず知識を学ばなくては駄目だと気付く。
結局、持って来てもらった資料を確認するのではなく、資料を確認できる書斎兼執務室に自ら赴き、一週間ほどかけて帳簿に何が書かれているのかを理解する事ができるようになった。
そして、読む事ができるようになってはっきり解ったのは、ファランがいかに何も学んでこなかったかという事だ。
(そりゃあ予定では王子と結婚してて王子の方が働くはずだったんだろうけど。自分の領地の事だっていうのにここまで興味無いもんかね)
勉強する中で活きたのは前世の知識ばかりで、ファランとして学んだ事は一切役に立たなかった。
一時的に、もしかしてファランだった頃の事で思い出せてないことがあるのかしら、などと考えもしたが。授業で居眠りしたりそもそもサボったりといった記憶があるので、思い出せていない訳ではないとの答えに至った。
(消去法で入学した経済学部だったけど…意外と大学の授業って役に立つなぁ)
執務室にこもるようになって十日。今更なのは理解していたが、ファランは真面目に仕事と向き合うための勉強を始める事にする。幸いな事に、彼女の侍女の一人であるカトレアが先々代の執事アルフレッドの孫娘であったため、家庭教師として来てくれる事となった。
「お嬢様…ご立派になられて」
わなわなと身を震わせて滂沱の涙を流された初対面こそドン引きしたが、全てはひとえにファランの今までが悪いせいだ。そう考えを新たにして向き合えば、アルフレッドは大層良い家庭教師だった。
「さすがですお嬢様。ご理解が早くていらっしゃる。素晴らしい慧眼です」
等々。それはまぁ、気持ち良くヨイショしてくれる上に、教え方も実に噛み砕いて解り易くしてくれており。
解り易く教えてくれる ⇒ 理解する ⇒ 褒めてくれる ⇒ 調子に乗って勉強に身が入る
そんなループですっかりやる気になり勉強は捗ったのだった。
などという事はない。
特にファンでもないイケメン俳優がロケをしているところに行き会ってオフショットの笑顔を見た、というような一過性のときめきなど、長続きするはずもなかった。その日の夕方には記憶の片隅に追いやっている。
そして、翌日の今。
「ちっ…」
ファランは、グローリア領の収支帳を目の前にして険しい顔をしていた。
(なんなのよこのきったない帳簿)
彼女は前世で、経理部に居た訳ではない。
ただ、店舗の売上管理を行うシステムのコードを書いた事はあるのだ。どういう条件でデータを計算して、ユーザーの望む形式の表にするか。フェイクデータを作り、計算ミスがないか、様々な条件で出力し検算を繰り返した日々。
(手書きなのは仕方がない。解る。タイプライターも無い世界なんだから)
帳簿みたいに見易いようにしてと言われ、簿記の知識を頼りに作り上げたら、あーでもないこーでもないと設計書受諾後に散々作り直しを要求され、上役に言われて無償で直しまくった特に懐かしくもない日々。忘れるにはまだ近過ぎて、イライラとして、八つ当たりめいた感情が沸く。
(でも、計算ミスとか、集計ミスとか、なんなの? 同じ情報を重複してるのもあるし。まとめるの下手くそかよ。最終的に合わなきゃいけない数字が合ってなくて、その理由が解りません、だし。この書類を受領しなきゃいけないの? 私が? 冗談じゃないわよ)
作り直せ、と叫びかけて、ファランは固まった。
イライラとした表情のまま顔を上げ、傍らの侍女に伝言を頼もうとしたのだが、その侍女がぎくりと身を震わせたからだ。
(あ………しまった)
ファランのダイエットの日々で、彼女達とは結構関係改善が出来ていた。それでも、ファランの過去が変わったわけではない。やった事はなかった事にはならない。
それに、ただ作り直せというのは、彼女を苦しめた先輩や上司と同じではないか。
(まず…この帳簿の形式や集計方法を確認して、仕様手法そのものに問題があれば改善)
ファランは自分の顔を両手で覆って、イライラがそのままに出ていた顔面を揉む。深呼吸を繰り返して、冷静に、と心で唱えた。頭では必要な事、自分が働いていた頃してもらいたかったやり方での指示、を考える。
(そうではないなら、人員に事情を確認して、改善。具体的に私が実現して欲しい事を、噛み砕いで伝えて、理解を確認する。進捗を共有して、全体で目標を達成する。責任を明確化して、権限を与え、権限を監査する事も忘れない)
問題点は具体的に指摘する事が必要だ。その際、人間性や個人を否定する事は絶対にあってはいけない。自分がして欲しい事があるのなら、指示は、期間、目的を明確に出さなくてはいけない。勿論、相手がそれを理解しているか、共有と確認もしなくてはいけない。他人に命令する権限を持つのなら、責任も取らなくてはならない。
(…奴隷落ち回避とか思ってたけど…私…領地経営者になるんだ)
正確には、未だに叔父と母が経営を肩代わりしてくれている。
ただ、嫌疑が晴れ、身を慎む必要がなくなったファランは、今後は自分がやることになる仕事を、まず知ってみようと考えたのだ。
そして、侍女にグローリア領の状況を知りたいのだけど、と声をかけた。すると、領の収支帳を持って来てくれたので、読み始めたという訳だ。
(そもそも…不真面目で知ろうともしてこなかったのが悪い。私が悪い。誰も責めてはいけない。この帳簿を読み込んで、指摘事項をまとめて…えっと、ファラン知識でこれを作ってるのは執事ってなってるけど…合ってるんだよね?)
学園で勉強していれば良かったのだろうが、残念ながらファランはそうした知識を持ち合わせていない。前世知識でカバーしつつ、一生懸命にその帳簿を読み始めた。
(ダメだ…私は真面目に勉強する事から始めないとだ)
ただし、半分も確認する事なくまず知識を学ばなくては駄目だと気付く。
結局、持って来てもらった資料を確認するのではなく、資料を確認できる書斎兼執務室に自ら赴き、一週間ほどかけて帳簿に何が書かれているのかを理解する事ができるようになった。
そして、読む事ができるようになってはっきり解ったのは、ファランがいかに何も学んでこなかったかという事だ。
(そりゃあ予定では王子と結婚してて王子の方が働くはずだったんだろうけど。自分の領地の事だっていうのにここまで興味無いもんかね)
勉強する中で活きたのは前世の知識ばかりで、ファランとして学んだ事は一切役に立たなかった。
一時的に、もしかしてファランだった頃の事で思い出せてないことがあるのかしら、などと考えもしたが。授業で居眠りしたりそもそもサボったりといった記憶があるので、思い出せていない訳ではないとの答えに至った。
(消去法で入学した経済学部だったけど…意外と大学の授業って役に立つなぁ)
執務室にこもるようになって十日。今更なのは理解していたが、ファランは真面目に仕事と向き合うための勉強を始める事にする。幸いな事に、彼女の侍女の一人であるカトレアが先々代の執事アルフレッドの孫娘であったため、家庭教師として来てくれる事となった。
「お嬢様…ご立派になられて」
わなわなと身を震わせて滂沱の涙を流された初対面こそドン引きしたが、全てはひとえにファランの今までが悪いせいだ。そう考えを新たにして向き合えば、アルフレッドは大層良い家庭教師だった。
「さすがですお嬢様。ご理解が早くていらっしゃる。素晴らしい慧眼です」
等々。それはまぁ、気持ち良くヨイショしてくれる上に、教え方も実に噛み砕いて解り易くしてくれており。
解り易く教えてくれる ⇒ 理解する ⇒ 褒めてくれる ⇒ 調子に乗って勉強に身が入る
そんなループですっかりやる気になり勉強は捗ったのだった。
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