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悪役令嬢、デブ止めるってよ
9.そんなこと言ってぇ
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そもそも、アルフレッドは、先々代執事であると同時に、ファランの父、先代グローリア侯の執事でもあった。
ファランが産まれてすぐの頃にはまだ働いていたが、その頃から既に父よりも年上だった彼は、仕えた家に産まれた後継者が、世間で言う一山を越えたところで一区切りと考え、引退する。
そして、孫娘からの手紙でマーヴェラス家の事を心配しつつも、引退した身ではと過ごしていたが。
この度。ファランが領地経営に関する勉強をする気になった、と聞いて、家庭教師に手を挙げたという訳だ。
(正直、おじいちゃん大丈夫? とか思ってたけど…ファランよかよっぽど頭も体もシャンとしてるわ………カトレアがファランだったら、お父様も安心だっただろうになぁ)
さすがはアルフレッドの孫娘、といったところだろうか。
ファランに対して唯一幼い頃からずっと懸命に仕えてくれていたカトレアは、改めてみるまでもなく優秀であった。
通常であれば、一人の主人に対し、数人の侍女が分業で仕えるものだ。休みや、得意分野を分ける事で、仕事を回す訳である。
ところが、ファランは誰であろうと一定の水準を求めるので、分業ができない。
例えば、侍女達の中にお茶を淹れるのが得意な何人かが居て、主人がお茶を求めればその人員が淹れる、というのが普通だとするならば。ファランは、自分がお茶を、と言った相手がお茶を淹れられなければ気に入らないのだ。
「今、お茶が飲みたいからお前に『お茶を』と言っているのに、得意な人間を呼びに行く間待てと言うの?」
そういう考え方だ。
そして、勿論。淹れられたお茶が一定の水準に達していなければ茶器をひっくり返して罵倒する。
着替えの手際、ドレス選び、髪の結い方、主人と共に歩く動作に至るまで、一から十まで二十四時間全てにおいて気が抜けない主人に仕えるのだ。残っている人材がいかに優秀なのか解るだろう。
もしこのファランに仕える面で幸いな事があるとすれば、カトレアが優秀なので、辞める際には別の働き口に、一筆、推薦状等を書いてくれる事だろう。後は、ファランが求める基準に達するという事は、他の何処でも仕えられる技術力を持つ事に等しい、という事くらいだろうか。
もっとも、精神的疲労と無意味な八つ当たりに合う可能性を考えれば、技術は別の家でも身に付くので、無理にマーヴェラス家である必要は無い。
(ファランが令嬢やれてたのはカトレアに依るところが大きいなぁ………まぁ、これは今もだけど)
他人を呼んでなにがしかの会を開く際の、主としての企画立案から実行運営までのあれそれ。あるいは、呼ばれた会に合わせた服装、手土産など。侯爵としての振る舞いはさすがに範囲外だが、令嬢としてのファランの振る舞いを支えていたのは全てカトレアであった。
更に今、前世のどんな知識を手に入れても、相変わらずカトレアのお世話になっている。
(ドレスの合わせとか、流行とか、使い分けとか解んないし)
舞踏会はおろか、友人の結婚式すら大人になってからは出席した事がなかったのだ。正直、派手なドレスと派手目のドレスの見分けもつかない。記憶の中で、お茶会には少々派手ですね、と注意されたドレスと、こちらになさいませんか、と示されたドレスの違いも全然解らないのだ。
そうした訳で、関係改善したカトレアを筆頭とする侍女達と、アルフレッド。
優秀で素晴らしい人材に囲まれて、ファランは、遅ればせながら真人間になろうと頑張り始めた。
勿論ダイエットも継続中だ。
(ふむ…ギリぽっちゃりくらいになったんじゃない?)
勉強を初めて、脳で糖を消費するようになったからか。腹筋背筋に力を入れて、勉強中ずっと良い姿勢をキープしているからか。ついに筋肉が鍛えられたのか。ダイエットに割ける時間は減ったが、おそらく様々な要因が良いように働いて、ファランはついにデブを脱却する事に成功した。
いや、他人によってはまだデブと認識するとは思うが、ファランとしては、ぽっちゃりになれたと判断したのだ。
キュっとまではいかないが、ボディラインとして、腹部に凹みも出来た。二重というか首だったというか、そんな顎もむくんでなければラインが解るまでになった。二の腕は未だにぷにぷに感が強いが、肩甲骨周りを含めて背中はだいぶすっきりした。
(ここまですっきりしてきたら、ファランの顔もそこまで悪くないと思うし…見慣れただけかな?)
太っていた間は、むくんで腫れぼったい感じで埋もれていた一重の目だが、いまはキリっとした切れ長な、カッコいい目に見えなくもない。全体に肌質も髪質もぐんぐん改善し、美少女ではないが、悪くもないと思い始めている。
(金髪碧眼に引きずられてたけど。ファランって顔そのものはアジアンな感じかな。異国情緒で浮いてる感じはあるけど、左右の対称性とか考えたら、整ってはいる顔なのかな? 化粧と勢いで美人にのし上る事も可能かも………まぁ、スタイルアップって大前提のクリアが条件だけど)
思いがけぬ発見に、ファランは更にやる気が起きる。
勉強とダイエットで、真人間を目指す日々は、どんどん楽しいものになっていった。
ファランが産まれてすぐの頃にはまだ働いていたが、その頃から既に父よりも年上だった彼は、仕えた家に産まれた後継者が、世間で言う一山を越えたところで一区切りと考え、引退する。
そして、孫娘からの手紙でマーヴェラス家の事を心配しつつも、引退した身ではと過ごしていたが。
この度。ファランが領地経営に関する勉強をする気になった、と聞いて、家庭教師に手を挙げたという訳だ。
(正直、おじいちゃん大丈夫? とか思ってたけど…ファランよかよっぽど頭も体もシャンとしてるわ………カトレアがファランだったら、お父様も安心だっただろうになぁ)
さすがはアルフレッドの孫娘、といったところだろうか。
ファランに対して唯一幼い頃からずっと懸命に仕えてくれていたカトレアは、改めてみるまでもなく優秀であった。
通常であれば、一人の主人に対し、数人の侍女が分業で仕えるものだ。休みや、得意分野を分ける事で、仕事を回す訳である。
ところが、ファランは誰であろうと一定の水準を求めるので、分業ができない。
例えば、侍女達の中にお茶を淹れるのが得意な何人かが居て、主人がお茶を求めればその人員が淹れる、というのが普通だとするならば。ファランは、自分がお茶を、と言った相手がお茶を淹れられなければ気に入らないのだ。
「今、お茶が飲みたいからお前に『お茶を』と言っているのに、得意な人間を呼びに行く間待てと言うの?」
そういう考え方だ。
そして、勿論。淹れられたお茶が一定の水準に達していなければ茶器をひっくり返して罵倒する。
着替えの手際、ドレス選び、髪の結い方、主人と共に歩く動作に至るまで、一から十まで二十四時間全てにおいて気が抜けない主人に仕えるのだ。残っている人材がいかに優秀なのか解るだろう。
もしこのファランに仕える面で幸いな事があるとすれば、カトレアが優秀なので、辞める際には別の働き口に、一筆、推薦状等を書いてくれる事だろう。後は、ファランが求める基準に達するという事は、他の何処でも仕えられる技術力を持つ事に等しい、という事くらいだろうか。
もっとも、精神的疲労と無意味な八つ当たりに合う可能性を考えれば、技術は別の家でも身に付くので、無理にマーヴェラス家である必要は無い。
(ファランが令嬢やれてたのはカトレアに依るところが大きいなぁ………まぁ、これは今もだけど)
他人を呼んでなにがしかの会を開く際の、主としての企画立案から実行運営までのあれそれ。あるいは、呼ばれた会に合わせた服装、手土産など。侯爵としての振る舞いはさすがに範囲外だが、令嬢としてのファランの振る舞いを支えていたのは全てカトレアであった。
更に今、前世のどんな知識を手に入れても、相変わらずカトレアのお世話になっている。
(ドレスの合わせとか、流行とか、使い分けとか解んないし)
舞踏会はおろか、友人の結婚式すら大人になってからは出席した事がなかったのだ。正直、派手なドレスと派手目のドレスの見分けもつかない。記憶の中で、お茶会には少々派手ですね、と注意されたドレスと、こちらになさいませんか、と示されたドレスの違いも全然解らないのだ。
そうした訳で、関係改善したカトレアを筆頭とする侍女達と、アルフレッド。
優秀で素晴らしい人材に囲まれて、ファランは、遅ればせながら真人間になろうと頑張り始めた。
勿論ダイエットも継続中だ。
(ふむ…ギリぽっちゃりくらいになったんじゃない?)
勉強を初めて、脳で糖を消費するようになったからか。腹筋背筋に力を入れて、勉強中ずっと良い姿勢をキープしているからか。ついに筋肉が鍛えられたのか。ダイエットに割ける時間は減ったが、おそらく様々な要因が良いように働いて、ファランはついにデブを脱却する事に成功した。
いや、他人によってはまだデブと認識するとは思うが、ファランとしては、ぽっちゃりになれたと判断したのだ。
キュっとまではいかないが、ボディラインとして、腹部に凹みも出来た。二重というか首だったというか、そんな顎もむくんでなければラインが解るまでになった。二の腕は未だにぷにぷに感が強いが、肩甲骨周りを含めて背中はだいぶすっきりした。
(ここまですっきりしてきたら、ファランの顔もそこまで悪くないと思うし…見慣れただけかな?)
太っていた間は、むくんで腫れぼったい感じで埋もれていた一重の目だが、いまはキリっとした切れ長な、カッコいい目に見えなくもない。全体に肌質も髪質もぐんぐん改善し、美少女ではないが、悪くもないと思い始めている。
(金髪碧眼に引きずられてたけど。ファランって顔そのものはアジアンな感じかな。異国情緒で浮いてる感じはあるけど、左右の対称性とか考えたら、整ってはいる顔なのかな? 化粧と勢いで美人にのし上る事も可能かも………まぁ、スタイルアップって大前提のクリアが条件だけど)
思いがけぬ発見に、ファランは更にやる気が起きる。
勉強とダイエットで、真人間を目指す日々は、どんどん楽しいものになっていった。
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