悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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悪役令嬢、ワガママ止めるってよ

17.誰だろう?

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(まぁ、いいや、えっと、時計…時計)
 持ち歩けるほどの小型化こそ進んでいないが、この世界にも時計はある。ファランの部屋の場合は、ベッド脇のチェストの上に置かれていた。
 ベッドを這い出して、天蓋の垂れ幕を押し退ける。
(大体三時間か…ちょうどいいな。目も冴えてるし、もう起きよう)
 昼には早かったが、布団の中でずるずる二度寝をしたくはないので、自分で垂れ幕を上げていく。
(こういう事するとカトレアに仕事を取らないでくださいって叱られるんだけど、まぁ、たまには良いよね。やっぱプライベートな瞬間は欲しいっていうか、何でもかんでも誰かにしてもらうのはまだ落ち着かないというか)
 垂れ幕を上げる作業は大した事ではない。ファランはせっせと布をたくしあげてはタッセルで留めを繰り返し、全部で八つの垂れ幕を上げる事に成功した。
(やったったどぉ)
 別にかいていない汗を拭うふりでやりきった感に浸っていたファランは、
「お嬢様」
と、寝ている主人を起こさないようノック無しでそっと部屋に入ってきたカトレアに、声をかけられるまで気づかなかった。
「あ………おはよう」
 怒るかな、怒るかな、という文字を顔と背後に貼り付けたファランに、気を削がれたカトレアは、困ったという顔で笑った。
「おはようございます。ただいまお湯とお水をお持ちしますね」
「うん。ありがとう」
 もっとも、怒られなかった、と胸をなで下ろすファランに、
「次はベルでお呼びくださいね」
と、釘をさす事は忘れない。
「はい」
 しょんぼりしたふりをしつつ身支度を整えたファランは、その日、久しぶりにのんびりと過ごした。正確には、何かしようとしてもカトレアが大丈夫ですか、と訊いてくるので、大人しくしていた。
(あー…久しぶりにのんびりしたなぁ)
 夜着にガウンを羽織って、ソファにだらしなく寝そべったファランは、今日一日を振り返っている。
 カトレアも既に去り、部屋は真っ暗だ。
 ソファへも手探りでたどり着いた。
 なんとなく、ベッドで眠気が来るまで待っていると、また考え悩んでしまう気がしたのだ。
(そういえば、手紙…)
 元々、誰かに会うとか何処かへ出かけるという用事は何もなかった。だからこそ一日のんびりしていたわけだが、ファランが出て行かずとも、向こうから来るものはある。
 三通ほど、見慣れぬ署名の手紙が届いたのだ。
 マインス・キフト
 ライナヘル・イジェスティ
 アルハルト・ヴォルフェン
 これらの署名を持った三通は、それぞれ場所も時間も会場も違ったが、来シーズン王都で行われるパーティの招待状を、送っても良いか、と尋ねる手紙だった。
(全っ然聞き覚えないんだよね…てか、見覚え? ないし…でも、今完全に地に落ちているはずの私に来シーズンのパーティの誘いを送ってくるからには、多分、私に同情する程度の関わりがある人だと思うんだけど………落ちぶれ令嬢をわざわざ呼び出してパーティで笑いものにしようって程憎んでる方向だったらどうしよう)
 つい嫌な方向に考えてしまったが、すぐに否定する。
(いや、あの文面は違うか)
 笑いものにしたい人間はいくらでもいるだろうが、そういう方向性である場合、招待状を送って良いか尋ねるという良心的な真似をそもそもしないだろう。
(ファランがどうとかっていうより、マーヴェラス家とかグローリア領で付き合いのある関係かも知れないわね)
 ファランの記憶だけでは当てにならないが、三つの家の名前を見たカトレアも首を捻っていた以上、個人が直接的な関わりのある家もしくは人物ではあるまい。
(ファラン記憶だから絶対の自信はないけど、書かれていた会場は小規模の会場のようだったし。やっぱりグローリア領かお父様関連でマーヴェラス家に親身になってくれている家の人なのかな。その方がすんなり納得できるよね…んーこれは応えるのが正解なのか、迷惑をかけないように身を慎んで断るのが正解なのか………まぁいいや、アルフレッドが帰ってくるの待とう)
 あれこれと考えてはみたものの、家にある付き合いのある貴族の名が書かれた名簿にも該当する人物が居なかったのだから仕方が無い。全てをアルフレッドに投げて、ファランは思っていたよりもすぐにやってきた眠気に逆らわずに身を委ねる。
(ちょうど眠気も来たしベッド戻ろうかね)
 ちなみに、手紙の配達人は、見慣れた署名の手紙も届けてくれた。
 アルフレッドとウォルターだ。
 アルフレッドの方は、経過報告、もとい、これからの行動予定方針の表明であった。
 二十日ほどは戻れないと思うが、もし、イカスの戻りが早くなったりした時は、問い詰めたりせず知らぬふりで過ごしてください。そう書かれた文面に、ちょっと気が重くなりつつも、これから調べるというアルフレッドへの頼もしさも感じた。
(アルフレッドにはまだお父様が生きていた頃の人脈があると言ってたし…きっと大丈夫)
 それから、ウォルターの方は単純に時候の挨拶だった。
(律儀というか、真面目というか…私の身の行いが原因なんだし、気にしなくて良いのに、善い人だよなぁ)
 初めはただの超合金製鉄仮面だと思っていたのに、意外に人間臭かったウォルターを思い出しつつ、すり足と手探りでベッドに戻ったファランは、すやすやとよく眠った。
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