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悪役令嬢の周りは慌ただしいようです
27.悪役令嬢がデブを止めようとしていた頃
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毛足の長い絨毯の上を、不機嫌そうに踏みしめながらソファへ近付いたアルハルトは、その勢いのままドカッと腰掛ける。
「不機嫌なのは解りますけど、ソファが壊れると困るので静かに座ってください」
そんな様子を向かいから注意しているのは、彼の孫であるユールティアだ。
祖父とは似ても似つかぬ彼が、十八という歳の割に落ち着いた雰囲気なのは、立場というより彼個人の性格だろう。今も不機嫌をはっきりと顔に出している祖父を相手に気にした様子が全く無い。
「それで! アイラックが馬鹿をしでかしてファリィに婚約破棄をされたと聞いたが?」
ユールティアの注意を聞く気の無いアルハルトは、苛立たしげに言葉を発した。
「熊みたいなのは見た目だけにしてくださいよ」
溜息混じりにそんな事を言ってくる可愛くない孫に片頬を引き痙らせつつも、大人しく言葉を待つ。そんなアルハルトの前に一枚の紙が置かれた。
「愚かにも公衆の面前で下策の醜態を披露したのは如何にもアイラックです。幻滅なさったのでしょうね、マーヴェラス嬢もすんなりと婚約破棄にご同意くださいましたよ」
ユールティアの辛辣な評価に、思っていたよりも怒っているな、と知れたアルハルトは、ファランの署名がある紙を一瞥し、眉間を揉んだ。
「やらかす前に止められなかったのか?」
「すみませんね。まさかここまで馬鹿な真似をしでかすとは考えていなかったもので。自分の甘さは痛感していますよ。既に打てるだけの手は打ちました。色恋に溺れた馬鹿の目がどれほどモノが見えなくなるのかも学びました。次は有り得ません」
見た目の平静さとは違う、苛立ちの見え隠れする台詞に、アルハルトは頬をかく。
「そうか」
まぁそれなら良いか、というような態度のアルハルトに、今度はユールティアが眉を寄せた。
「とういうか…」
先程までの様子を捨て、むっと口を曲げた不機嫌そうな顔と態度を作る。
「そもそも貴方が俺を彼女と婚約させてくれていたらこんな事にはなってない訳なんですがね」
もう何度目かのユールティアの主張に、アルハルトは耳を塞いだ。自分も大概トーリシア皇国に傾倒しているが、それはあくまで美術工芸品についてだ、孫のあらゆるものに対してトーリシア好みなところはちょっとついて行けない。
その露骨な聞こえないフリに、ユールティアの片頬がぴくりと震える。
内心では、このクソジジィ、と思っているが、それを口に出さないのは一度言い出したら自分が疲れるまで悪態を吐き続ける事になると解るからだ。そして、更に、その疲労が、何の生産性も伴わないと解っているからでもある。
「はぁ………」
溜息を吐いて、不機嫌な態度と顔を、改めて平静へと戻したユールティアを見止め、アルハルトも耳から手を離した。
「それで、手ってのは具体的に何をしたんだ?」
「その前に」
婚約破棄の同意書が仕舞われ、同じ大きさの別の紙が置かれる。大きさは同じだが、王印と呼ばれる王家の家紋が透かしに入っているその特殊な紙は、宣誓紙と呼ばれる、法的拘束力を持つ約束を書くための紙だ。主に王位継承権の永久放棄などの宣誓に使われる。
「これに同意してください」
「わざわざこんなもん持ち出して、なんだよ」
大仰なものを持ち出した孫に僅かに退きながら、内容を確認する。
この場でどんな話を聞いても勢いでファラン・マーヴェラスの元へ行かない。この場で話された内容によって考えられる事態に憤っても勢いでファラン・マーヴェラスの元へ行かない。話を聞いた結果思い出が募ってもファラン・マーヴェラスの元へ行かない。と、まぁ、色々な言い方ではあったが。
まとめるなら、
『勝手にファラン・マーヴェラスに会うな』
と、いうことらしい。
「なんでファリィに会うのにお前の許可が要るんだよ」
「貴方に勝手に動かれると打った手が崩れる恐れがあるからですよ」
「………まぁ良い解った」
アルハルトは、アルハルト・ヴォルフェン、という職人としての名前に加え、ファングル・ユグルシアという王族としての名を書き記した。
なんで職人としての名前が先なんだろうな、とユールティアは思ったが、口にはせず、誓紙を受け取る。
「ひとまず、既にマーヴェラス嬢にグローリア侯爵の爵位を継いでいただきました」
「まぁ当然だな」
「それと、司法局にはこちらからの調査内容も伝えてありますので、彼女が下らない罪を被る事はありません」
「よくやった」
「………」
「ん?」
一々偉そうに頷かれるのが癪に障ったが、ユールティアは再び溜息でその思いを逸らす。
「はぁ…。あとは、彼女の周りの巫山戯た連中を監視しています」
「おぉ、それだそれ。そいつらを教えろ」
「お断りします」
「………教えろって、祖父さん命令だぞ」
「どんな力があるって言うんですかその下らない命令」
厳つい熊に睨まれても平然としているユールティアに、アルハルトが先に折れた。
「そんなんだから王太子なんだお前は」
「ちっ!」
忌々しそうに舌打ちをしたユールティアの様子に、アルハルトは内心で天を仰ぐ。
(というか、まぁ、別に王太子は長男でも良かったが、ファリィにこれを縁付かせるのはなぁ…それと解らない様に檻に閉じ込めるタイプだぞ。そんなもんシクロンに顔向けできねぇわ)
亡き友人の愛娘だけは、なんとか守ってやらねばと心に再度誓った。
「不機嫌なのは解りますけど、ソファが壊れると困るので静かに座ってください」
そんな様子を向かいから注意しているのは、彼の孫であるユールティアだ。
祖父とは似ても似つかぬ彼が、十八という歳の割に落ち着いた雰囲気なのは、立場というより彼個人の性格だろう。今も不機嫌をはっきりと顔に出している祖父を相手に気にした様子が全く無い。
「それで! アイラックが馬鹿をしでかしてファリィに婚約破棄をされたと聞いたが?」
ユールティアの注意を聞く気の無いアルハルトは、苛立たしげに言葉を発した。
「熊みたいなのは見た目だけにしてくださいよ」
溜息混じりにそんな事を言ってくる可愛くない孫に片頬を引き痙らせつつも、大人しく言葉を待つ。そんなアルハルトの前に一枚の紙が置かれた。
「愚かにも公衆の面前で下策の醜態を披露したのは如何にもアイラックです。幻滅なさったのでしょうね、マーヴェラス嬢もすんなりと婚約破棄にご同意くださいましたよ」
ユールティアの辛辣な評価に、思っていたよりも怒っているな、と知れたアルハルトは、ファランの署名がある紙を一瞥し、眉間を揉んだ。
「やらかす前に止められなかったのか?」
「すみませんね。まさかここまで馬鹿な真似をしでかすとは考えていなかったもので。自分の甘さは痛感していますよ。既に打てるだけの手は打ちました。色恋に溺れた馬鹿の目がどれほどモノが見えなくなるのかも学びました。次は有り得ません」
見た目の平静さとは違う、苛立ちの見え隠れする台詞に、アルハルトは頬をかく。
「そうか」
まぁそれなら良いか、というような態度のアルハルトに、今度はユールティアが眉を寄せた。
「とういうか…」
先程までの様子を捨て、むっと口を曲げた不機嫌そうな顔と態度を作る。
「そもそも貴方が俺を彼女と婚約させてくれていたらこんな事にはなってない訳なんですがね」
もう何度目かのユールティアの主張に、アルハルトは耳を塞いだ。自分も大概トーリシア皇国に傾倒しているが、それはあくまで美術工芸品についてだ、孫のあらゆるものに対してトーリシア好みなところはちょっとついて行けない。
その露骨な聞こえないフリに、ユールティアの片頬がぴくりと震える。
内心では、このクソジジィ、と思っているが、それを口に出さないのは一度言い出したら自分が疲れるまで悪態を吐き続ける事になると解るからだ。そして、更に、その疲労が、何の生産性も伴わないと解っているからでもある。
「はぁ………」
溜息を吐いて、不機嫌な態度と顔を、改めて平静へと戻したユールティアを見止め、アルハルトも耳から手を離した。
「それで、手ってのは具体的に何をしたんだ?」
「その前に」
婚約破棄の同意書が仕舞われ、同じ大きさの別の紙が置かれる。大きさは同じだが、王印と呼ばれる王家の家紋が透かしに入っているその特殊な紙は、宣誓紙と呼ばれる、法的拘束力を持つ約束を書くための紙だ。主に王位継承権の永久放棄などの宣誓に使われる。
「これに同意してください」
「わざわざこんなもん持ち出して、なんだよ」
大仰なものを持ち出した孫に僅かに退きながら、内容を確認する。
この場でどんな話を聞いても勢いでファラン・マーヴェラスの元へ行かない。この場で話された内容によって考えられる事態に憤っても勢いでファラン・マーヴェラスの元へ行かない。話を聞いた結果思い出が募ってもファラン・マーヴェラスの元へ行かない。と、まぁ、色々な言い方ではあったが。
まとめるなら、
『勝手にファラン・マーヴェラスに会うな』
と、いうことらしい。
「なんでファリィに会うのにお前の許可が要るんだよ」
「貴方に勝手に動かれると打った手が崩れる恐れがあるからですよ」
「………まぁ良い解った」
アルハルトは、アルハルト・ヴォルフェン、という職人としての名前に加え、ファングル・ユグルシアという王族としての名を書き記した。
なんで職人としての名前が先なんだろうな、とユールティアは思ったが、口にはせず、誓紙を受け取る。
「ひとまず、既にマーヴェラス嬢にグローリア侯爵の爵位を継いでいただきました」
「まぁ当然だな」
「それと、司法局にはこちらからの調査内容も伝えてありますので、彼女が下らない罪を被る事はありません」
「よくやった」
「………」
「ん?」
一々偉そうに頷かれるのが癪に障ったが、ユールティアは再び溜息でその思いを逸らす。
「はぁ…。あとは、彼女の周りの巫山戯た連中を監視しています」
「おぉ、それだそれ。そいつらを教えろ」
「お断りします」
「………教えろって、祖父さん命令だぞ」
「どんな力があるって言うんですかその下らない命令」
厳つい熊に睨まれても平然としているユールティアに、アルハルトが先に折れた。
「そんなんだから王太子なんだお前は」
「ちっ!」
忌々しそうに舌打ちをしたユールティアの様子に、アルハルトは内心で天を仰ぐ。
(というか、まぁ、別に王太子は長男でも良かったが、ファリィにこれを縁付かせるのはなぁ…それと解らない様に檻に閉じ込めるタイプだぞ。そんなもんシクロンに顔向けできねぇわ)
亡き友人の愛娘だけは、なんとか守ってやらねばと心に再度誓った。
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